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不気味なほど静かだった金融市場と平穏無事な経済動向 その14 欧州経済14、最終回

2015年07月16日 | 米国債への投資

  ギリシャ悲劇はチプラス・シナリオのとおりには進まず、最後はほとんど喜劇で一段落しました。どうやら「ユーロからの離脱など、誰も望んでいないしできっこない」という私の見通しどおりだったようです。

  この最後の結末までがすべて彼のシナリオ通りであれば、でかしたチプちゃんと言うよりほかありませんが、私は前から申し上げているように彼は支離滅裂で、シナリオライターの力量など全くなし。そうしたことを断定的に言える理由は、以下のとおりです。

彼が政権を奪取した今年年初の公約は、

・EUの理不尽な緊縮策を反故にしてみせる

・高齢者の医療費はすべて無料にする

・様々な税は今後減税する

などという威勢のいい公約で政権を得ています。しかし直近の彼の動きは、

・国民投票で国民を騙してEUにNOを突きつけさせた

NOだとユーロを離脱せざるを得ないとは説明はせず、離脱なしで緊縮策停止可能のような投票用紙を作って騙した

・国民投票勝利でもEUが言うことを聞かないとわかるや、国民投票でNOを突きつけた緊縮策を上回る緊縮策を受け入れてしまい、最初の公約なんか全くなかったことにした

   これが支離滅裂の動かぬ証拠です。こうした支離滅裂さに対してドイツやフィンランドなどは堪忍袋の緒が切れ、ギリシャの一時的ユーロ放逐をちらつかせ妥協させました。もちろん一時離脱など現実的ではなく、チプラスとギリシャ国民に対する強烈な仕返しパンチを見舞ったのです。一度離脱したら状況は悪化の一途で、ギリシャ難民がドイツに押し寄せるのは必至です。

  しかし支離滅裂であることよりもっと怖いことがあります。それは彼は自分自身の中では何も矛盾したことをしていないし、首尾一貫していると思っていることです。それが証拠にこれほどまでにドイツに打ち負かされても、辞任するとは一言も言わず、今後もみんなは当然自分を支持してくれると思っているふしがあることです。

  この手の人間が国家を運営すると国民は本当に不幸ですよね。北朝鮮しかり、ロシアしかり。もしかすると憲法違反をものともしない日本しかり。(たびたび申し上げますが、私は非武装中立論者ではありませんし、ましてや極右でもありません。ごくまっとうな中道派です。ただ自分は法治国家に暮していたいので、憲法学者149人中146人が憲法違反だと認定しているのに国会を強行突破したり、違憲判決の出ているまま3倍もの1票の格差をそのままにする選挙区割を強行する首相の姿を、ついつい上に挙げた方々と重ね合わせてしまうだけです)。

 

   さて、私は明日から暑い日本を離れてスコットランドの旅に出ます。「またゴルフか?」という声が聞こえますが、「ハイ、またです(笑)」。どうしてもラウンドしてみたかったミュアフィールドを回れるチャンスがでてきたので、飛び付きました。すぐ隣のセントアンドリュースでは、全英オープンが今日から始まります。なんか去年も全英の行われている隣のコースでプレーしましたね。

  このシリーズを開始した時はタイトルにもあるように、ここ数年めったにないほど金融市場が穏やかだったのですが、後半はギリシャに中国株暴落まで加わって市場が荒れ狂いました。

  といっても中国にしろギリシャにしろ私が言い続けたように、終わってみれば世界を震撼させるようなこともなく、一部のあわてた投資家が損したくらいで終わっています。円からドルへの転換をしようとしている方には買い場を提供することになったと思います。しかし当然のことながら、金融市場の混乱は米国債買いを招きます。FRBによる利上げ近づいているはずが、あれよあれよという間に金利は一時大幅に低下してしまいました。これはしかし市場の落ち着きとともに戻ると思いますので、それを期待しましょう。


  今回の記事は「不気味なほど穏やか・・・」シリーズの最後です。私が欧州編の本題だと示した「ユーロは投資に値する通貨か」について私の考えを最後にまとめます。

  2011年の著書執筆の時点よりよほど通貨ユーロは落ち着いているし、ギリシャ問題の混乱でも特に暴落することもなく推移しています。しかし著書で通貨ユーロはお薦めリストには入れなかったのですが、今回も見送りです。

  ギリシャ喜劇は、実はユーロ参加国に対しては強烈に効いていて、PIGSの残りの国も滅多なことではドイツに刃向えないことを肝に銘じたことでしょう。そして新たに参加を検討している国に対する牽制にもなったことでしょう。  

   ユーロは域内での為替調整機能を持っていません。つまり競争力の格差を為替レートでは調整できないということです。その代わりに労働者の移動の自由を認めたり、関税撤廃で物流をよくして経済格差をなくしていこうとしていたのですが、実際には十分に機能していません。そうした理想形に近付くにはまだまだ相当な時間がかかるでしょう。

  従って、ユーロがいくら大きな塊となって流動性を高めていても、とても安心して投資に値する通貨ではない。

  ギリシャの債務問題は一山越えてはいますが依然未解決で、先日指摘したようにアメリカの財政の崖のように繰り返します。その他の危うい国も今はどうにかなっていても、世界的な大問題が生じると突然問題化する可能性があるからです。

  多くの方から見ると、「そこまで安全性を見る必要があるのか」となるのでしょうが、非常に長いスパンで本当に安心できる投資先のみを投資対象にする限り、簡単に投資基準を下げることなどできません。

  「通貨ユーロはまだだ」それが私の結論です。

  では聖地巡礼の旅に行ってきます

コメント (14)
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