ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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NISAに仕組まれたハイリスク・ハイリターンの罠

2013年07月18日 | 2013年からの資産運用

  前回は「リスク」という単純な言葉を、最近のアナリストなどはおかしな使い方をしている。投資理論を振りかざす時にリスクを「変動幅」として使用し、「ハイリターンを得るにはハイリスクを取らなくてはならない」というように使っている。

  そうではなく、「リスクとは単に損失と考えておくべきだ」と申し上げました。損失の可能性などなるべく取るべきでない、それが私の考え方です。

ハイリスク・ハイリターンの代表選手は、

・新興国株式・債券

・先進国のハイイールド債券


  などですが、そうした商品で儲けようなどとは決して考えないことです。シロウトの方がそうした商品に投資をはじめるのは、必ずといってよいほど相場のピークです。証券会社の示すグラフを見て上昇をしっかりと確認したとすれば、投資をしてもあとは下がるのみ。

  5月末に私がある大手証券会社のNISAセミナーに出席した時の話を差し上げました。メインのスピーカーは投資をしている人ならかなりの方が知っているある女性経済評論家でした。彼女の今後のお薦め商品は、「新興国物ハイイールド債券」でした。6月7日の私のブログを引用しますと

>「いま最も上昇しているのは東南アジアの株・債券投資ファンドです。いつ投資をするのか、イマデショウ!」といきなりハイリスク・ハイリターン物を薦めるのです。実績チャートを示し、私の嫌う「東京タワー型」のエビ反ったカーブが永遠に上に向かうかのような説明をしていました。

  彼女が「今でしょ」と言ったその新興国の株式やジャンクボンドがその直後どうなったか。バーナンキの一言もあり、アッという間に暴落です。ハイリスク・ハイリターンの結末とはこんなものです。

   さていま証券・銀行は必死でNISAの口座の獲得キャンペーンを行っています。口座を作ること自体はさしたる問題もないのですが、そこでお薦めとされる商品はほとんどがこのハイリスク・ハイリターン商品で、私の「買ってはいけないリスト」の筆頭商品だらけなのです

  何故「リスク」にこだわって説明をくどくどとしているかと申しますと、証券・銀行がシロウトの方々に「リスク商品こそがNISAに最適」と叫んでいるからなのです。その理由はNISAの仕組みと対象商品にあります。「キャピタルゲインをたくさん得た場合、非課税だと圧倒的に有利です」ということを強調し、株式投資に誘っています。政府とその手先になっている証券・銀行は、ここぞとばかりにNISAに入れ込んで、シロウトを株式投資に誘っているのです。(もっとも銀行はナマの株式は扱えません。)

  NISAの非課税の謳い文句は証券会社や銀行などのHPにたくさん出ていますので、それを参照していただくとして、それとは別に私がNISAを解釈すると次のようになります。

・対象はハイリスクの株・REITのみで、債券はファンドでも対象外

・買ったら最後、売ることができない。売ったらその分非課税枠がなくなるので、売るインセンティブを削ぐ仕組みになっている

・1年100万円の非課税枠は翌年以降に持ちこせないので必ず使い切れ。無理矢理でも100万円を投資させようとする


  口座を作れば、投資をしたくなるのが人情です。例えばA株をNISAの口座で買い、1か月で倍になったので売った。この場合、5年間の非課税枠は4年11カ月を余して消滅するのです。そんなバカなことがあるのがNISAです。

  「リスク商品に投資させ、年に100万円使わせ、5年間売らせない」、これが今の政府が預金に滞留して動かない個人の金融資産を氷解させようと投資に誘うために仕掛けた罠です。しかもこの罠に嵌めるために政府は鞭も遣います。現状の投資減税(20%→10%)の引き上げです。軽減税率は14年1月以降、なくなるのです。私が忌み嫌う「政官業の鉄のトライアングル」が久々にワークし始めました。

  くれぐれもNISAにはハイリスク・ハイリターンの甘い罠が仕掛けられているのでみなさん注意してください。

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