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リスクとは

2013年07月16日 | 2013年からの資産運用
  しばらくご無沙汰していた本題の「2013年からの資産運用」に戻りたいと思います(ナルベク、笑)。

   私のブログは日々の市場の動きや経済ニュースを私がどう見ているかという「ニュースコメント」と、タイトルを付けた「シリーズ」の2つに分かれています。今年の初めから開始している「2013年からの資産運用」シリーズは、Rさんというリタイアして年金生活を開始し、これから投資と資産防衛を考える必要のある方を想定して、今後どうすべきかについて書いてきました。Rさんの資産想定は以下の通りでした。

Rさんの想定

家族構成;夫婦2人、子供たちは独立
金融資産;現預金1千万円、株式1千万円、投信1千万円の合計3千万円
不動産、持家あり; 時価3千万円
借金; なし。ローンは払い済みです
収入; 厚生年金年間240万円=25年とみて合計6千万円
年金保険収入予定、65歳から;毎年100万円 20年とみて合計2千万円
合計 いわゆる金融資産3千万円+不動産3千万円+予定年金8千万円
   総合計 1億4千万円


金融資産は退職金の3千万円ですが、その他不動産や将来の年金収入までを想定すると総資産は1億4千万円です。

  そしてこれまでRさんに以下のようなアドバイスを述べてきました。

今後の投資環境としては、
・日本財政は日本人と世界の金融市場にとり大きなリスクだ
・財政の破綻はインフレと円安になって襲いかかる


保有資産の抱えるリスクについて
年金、
・年金は国債ばかり買っているし、究極の責任は政府にあるので財政と同リスクを抱える

不動産、
・保有不動産は長い目で見ればインフレのヘッジになるがあくまで防衛手段と考え、新たな投資対象にすべきではない
・REITのほうが流動性が高く、配当リターンもあるので不動産の直接保有よりマシ
・REITの売買は利回りを見て行う

  ここまで来て次に株式や投信の話を段になり、「アベノミクスをどう見るか」に話題が逸れ、横道が本道になってしまった感があります。読者のみなさんとのやりとりが白熱したのが大きな理由の一つかもしれませんが、それはそれでみなさんにも楽しんでいただけたのではないかと思っています。

  相場もすこし落ち着いてきていますので、今一度本道に戻しながら、今後の投資はどうしたらよいかのヒントを探ることにいたします。

  株式の話を始めるに当たり、株式投資の最近の一般常識の大きな間違いを指摘しておきたいと思います。それは「リスク」という言葉の持つ意味です。

  一般にリスクというのは「危険」を意味しています。ということは株で言えば下落です。ところ最近の投資理論ではリスクをボラティリティ、つまり「変動幅」と置き換えて、上に行こうが下に行こうがリスクだと解説をするようになってきました。これは全くもって「勝手な株屋のジョーシキ」にすぎません。
  
  このブログをお読みの方は、私の「何でも疑う」スタンスになじんでいらっしゃる(笑)と思いますので、こうした言葉を私が吐いてもニタニタとしながら読んでいただけると思います。

  リスクと「カネを失う危険性」はのことです。それ以外では決してない、というのが極めて常識的な私の考えです。いったいいつ頃からリスクを変動と解釈しはじめたのでしょうか。リスクとは相場が下落するのがリスクで、変動とは相場が上にも下にも行くことです。上に行って得したことをリスクだなどと言うのは言葉を間違って使っているだけです。

  上下動ともリスクだという解釈は、たぶんオプション理論が普及して、ボラティリティ(変動幅)という言葉が一般化するのと同じようなタイミングで始まったことのような気がします。私はソロモンブラザーズに入社した90年に、本社で入社教育を受けました。先生の一人にオプション理論(ブラック・ショールズ・モデル)を確立した二人のうちの一人でソロモンの社員であったマイロン・ショールズ氏がいました。その時の授業で、すでに彼は上に行くのも下に行くのも「リスク」という言葉で表現していて、違和感を覚えたのを思い出します。

  オプション理論は、プラスであろうがマイナスであろうが符合には関係なく平均からのかい離幅だけを問題にしています。どちらであろうと変動幅が大きいと儲かる、もしくは変動幅が小さいと儲かる、などという商品が出てきて、上下の見境がなくなってきたのです。それが普及してくると普通の株式投資でも、上にいくのも下にいくのもリスクだ、などと妙なことを言いようになってきたのでしょう。

  そのどこが問題なのかと申しますと、「リスクとリターン」という基礎的理論でそれが使われるからです。最近の投資理論は「リスクとリターン」があたかも並行しているかような解釈をして、それが理論だなどと言っています。つまり
・大きなリターンを得るには、大きなリスクを取る
・小さなリターンでよければ、小さなリスクで済む


というものですが、大きなリスクを取ったって、小さなリターンしかえられないことは普通にあるし、小さなリスクで大きく損することも普通にあります。なのにそんな理論を真に受けて「大きく儲けるには、大きいリスクを取ってください」などと言われてその気になるのはもっての外です。

  小さなリスクが突然巨大リスクになって降りかかったリーマンショックでは、リスクが最小であるはずのAAAの債券が暴落し、デフォルトしたし、景気の変動を極めて受けづらい、いわゆるディフェンシブな株の銘柄(例えば日常生活に必要な薬品や洗剤を作っているジョンソン&ジョンソンなど)もすべて大暴落しました。

つづく
コメント
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