ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

円高・デフレのトラップに嵌まり込む日本  32.じゃ、どうしたらいいの  その⑯

2012年04月24日 | 資産運用 
  今回からは債券バブルのお話です。


  債券のバブルはときどき世界経済や金融市場を震撼させる原因になります。特にこの数年はサブプライムローンを証券化した債券や、ギリシャを中心とするユーロ諸国の国債問題が世界に激震を与える震源地になっています。いずれも債務の膨張を債券が促しているからです。

どういうことか?

  以前にもすこし触れましたが、単なる借入や債務というのはそのままの形でいると大きな問題になることは少なく、債券と言う形になるととたんに膨張しやすく、つまりは破裂しやすくなるのです。その理由を整理すると

1. 投資家にとって債券はいつでも買え、いつでも売れる簡単な投資対象だからつい投資を拡大しやすいのです。ローンという形では売買(ローンも売買可能ではあります)は簡単ではありません

2. 借入側にとって、個別の銀行などといちいちローンを交渉するのは大変ですが、債券を発行して資金を調達するのは比較的簡単なため巨額の資金調達が可能です
こうした債券独特の特徴が、債務の膨張を手助けするので、債券は債務のバブルを膨張させやすいのです。


  では、債券が積み上がっているとして、はたしてそれが返済可能なレベルなのか不可能なほどのレベルなのかどうやって判断したらいいのでしょうか。借入の主体を、個人、企業、国と3つに分けて考えてみましょう。

1. 個人の債務
借金は個人にとってもなじみがあります。消費者ローンや住宅ローンです。個人が借入れる時には、なにを目安に借入れるかといいますと、みなさんもそうであるように「返せるかどうか」、それだけを考慮して借入を起こしていると思います。ですので、消費者ローンであれば年収の3割を限度とするガイドラインがあり、住宅ローンであれば住宅そのものを担保にしていますので、限度は通常年収の5倍程度といわれています。貸手はその程度であれば、多少何かがあっても担保を売却し、あとはなんとか返済をうけられるだろうと踏んでいるのです。

  2.会社の債務

会社の年収は売上ではなく利益です。会社の借入を利益の5年分に抑えろとなると、ほとんどの会社の経営は成り立たなくなります。例えば比較的借入金の少ないトヨタを例にとりましょう。トヨタの23年度決算の指標は以下のとおりです。

売上19兆円  負債合計20兆円  自己資本合計10兆円  営業利益約5千億円 

営業利益と負債を較べると40倍に上ります。返済原資である収入を営業利益だけでなく、営業キャッシュフローで捉えると、倍率はかなりかわります。

営業キャッシュフロー 2兆円

それでも負債はその10倍もありますので、住宅ローンの目安である年収の5倍をはるかに超えています。しかしトヨタの財務は盤石であると言われ、レーティングもAAAです。何故でしょうか?

  それは、企業はゴーイングコンサーンと呼ばれ、人間のように収入のあるうちに返済を終了しないと危ない、という存在ではないからです。いわば業績さえよければ、永続性があると見込まれるからです。

  もっと極端に言えば、銀行にとって信用ある企業は、金利だけを確実に支払ってくれれば、元本は返してくれなくてもいいのです。むしろ返済されてしまえば自分たちの飯のタネがなくなるので、しっかりと金利だけ払ってほしいのです。ローンの期限が来れば、すぐまた同額の貸付を行いたい、それが本音です。

  国はどうか。これも実は企業と同じことが言えます。投資家にとって国債は安全?かつ大事な資産なので、償還してほしくない。償還が来れば、すぐまた新規発行分に乗り換えたい。それが投資先に困る今の日本の機関投資家の本音です。ですので、大本営は償還のための国債の新規発行を、新規発行にカウントしないのです。

「それじゃ、日本国債はバブルじゃないの?」

  いいえ、そんなことはありません。次回はその疑問に答えていきます。

つづく
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする