ゴルフの前に、大阪なおみ選手、全米オープン2度目の優勝、やりましたね。
おめでとう!
今回の優勝は日本人と黒人にルーツを持つ彼女にとって、生涯の思い出となる優勝に違いありません。7つのマスクを用意し、すべてを使い切って優勝を勝ち取るなんて、かっこよすぎ。絵にかいたような快挙でした。コロナ渦にあって久々に明るい話題でしたね。トランプはさぞかし苦々しい思いで見ていたことでしょう。
一方、今日から男子の全米オープンゴルフが開催されます。今回はテニスと同じNY郊外での開催で、日本からは松山や石川など4人が参加します。会場のコースは、私がNY時代に暮らしていた郊外の家から車で10分の所にあるウイングドフット・カントリークラブです。
場所はウエストチェスター・カウンティ―で、マンハッタンから郊外電車で北へ40分、距離は30㎞くらいです。都会の喧騒から隔絶された夢のような郊外のスカースデールという街に住んでいました。借りていた家は一戸建てで約300坪くらいの敷地に50坪ほどの平屋建てでしたが、その界隈ではとても小さな家でした。ちなみに家賃は87年当時で月1,650ドル。スカースデールの家は芝生に囲まれ、家々の間には塀がないため、芝生と木立が延々とつづいて美しい街並みを作っています。芝生文化のない日本にそういう住宅街はないのですが、雰囲気としては軽井沢、それも旧軽の別荘地という感じでしょうか。違いは大都会NYからわずか40分。私にとっては一生の思い出になる理想郷でした。
そうした森の中の住宅が続く中にアメリカでも有数のプライベートゴルフ場が点在しています。今回の会場であるウイングドフットはその一つで、全米オープンを5回も開催しています。しかし私の住んでいた時代、そのゴルフ場はWASP専用と言われていました。白人でどんなに金持ちでもユダヤ人はダメだったのです。
私の住むスカースデールにはユダヤ人も多かったのですが、彼らはWASPのウイングドフットに対抗して道一つ隔てたすぐ隣に、もっぱらユダヤ人だけのゴルフ場、クエーカーリッジ・ゴルフクラブという、これまた超一流のゴルフ場を作ってプレーを楽しんでいました。コースの設計者はともにティリング・ハーストという有名なコース・デザイナーで、アメリカ東部に素晴らしいゴルフ場をいくつも作っています。
ではウイングドフットとはどんなゴルフ場か。一口で言えば若干の起伏はありますが、フラットな林間コースで、池などはほとんどありません。すでに100年近い歴史があるため、木々はとても高く、林への打ち込みは禁物。隣のホールまで打ち込めばプロゴルファーでも容易に木を超えて帰ってくることができないほどです。そしてオープンに合わせてラフはこれでもかと長くしますので、ちょっとラフに入れたら見つけるのも大変です。
面白いエピソードを紹介しますと、こうしたオープン開催コースでも普段は乗用カートでのプレーは当たり前なのですが、その際、日本ではフェアウェーを守るためカートは「カートパス・オンリー」というコースが多いのですが、アメリカ、それもイーストコーストでは「フェアウェー・オンリー」という表示があるのです。最初は何のことか意味が分かりませんでした。その理由を聞くと、せっかく長く伸ばしたハザードとしてのラフをカートで踏みつけてはいけません、大事にしてね、という意味だと聞き納得。アメリカのフェアウェーは雨が降った直後でない限りけっこう固いので、カートの乗り入れくらいでは痛みません。どうしてもラフを横切らないといけない場合、「直角のみ可」と表示されていて、ラフをとても大事にするのです。ところ変われば品変わるエピソードでした。
今回も日本から松山選手や石川選手が参加しますが、彼らはきっとベント芝の長いラフと高い木々に苦しめられ、苦戦を強いられそうです。コースは古いので距離はあまり長くありません。ひたすら正確性の勝負ですので、ティーショットのフェアウェーキープ率の高さが勝敗を分けそうです。
もう一つ面白い話をしますと、ウイングドフットのクラブハウスにはコースを写した古い写真が何枚か飾ってありました。その隣に同じ場所を撮影した新しい写真があって、比較することができます。それを見て一番驚いたことは、木々の成長はもちろんですが、グリーンの成長でした。グリーンが上に伸びるって想像できますか。本当に成長するんです。昔に比べてグリーンの面がだいぶ高くなっているのです。理由はバンカーの砂の堆積です。プレーヤーがバンカーからショットをするたびにバンカーのふちのラフとグリーンに少しずつ砂を撒いていくことになります。それによってどれくらい高くなっていくのか、正確なところはわかりませんが、私がプレーした時と70年前の写真と比べると、グリーンの面は膝から腰の高さくらい高いことがわかりました。ということは70年で50㎝―70㎝ほど高くなっている可能性があります。これによりグリーンは開場当初に比べだいぶ高く砲台になっていて、バンカーのいわゆるアゴも高くなり、難易度がかなりあがっています。
私はNY駐在中にウイングドフットと隣のクエーカーリッジの両コースともプレーする幸運に恵まれました。非常にストリクトなメンバーコースですので、メンバーが招待しない限りプレーすることはできません。通常そうしたメンバーコースでは、1年に招待できるゲストの数は20人から50人程度。唯一といってよい例外は、有力なスポンサー企業が取引先を集めてコンペを開催するケースで、そのご相伴にあずかったのです。私を招待してくれたのは、両コースともNYタイムズでした。
ちなみにメンバーがどれくらいクラブに支払っているかと申しますと、ウイングドフットの場合、入会金は推定15-20万ドル。年会費は数千ドルということで、一応マル秘です。入会金は戻りませんし、日本と違い有価証券である会員権などないので、売買もできません。クラブによっては1年にかかった費用をメンバーで頭割りにするので、「今年は3万ドルです」というような請求書が来ます。ちなみに世界で最も会員になるのが難しいマスターズを開催するオーガスタナショナルは、入会金も年会費もウイングドフットと同程度。理由はマスターズの開催権はメンバーが持っていて、収入が費用を大きく上回るためで、毎年1億ドルを超えるような収入があるそうです。
私は同じNY州内では、ロングアイランドにあってやはりオープン開催コースのシネコック・ヒルズと、パブリックコースのベスページ・ブラック、合わせて3つのオープン開催コースでのラウンドを経験することができました。パブリックコースといっても設計家はロバート・トレント・ジョーンズSrです。彼は全米ベスト100のコースで最も多くの設計をしている一人です。
ベルリンでのカラヤンとともに、「JALさん、どうもありがとうございました」。
では、日本人プレーヤーの健闘を祈ります。