以下、2012.11.01 記
『エセー抄』まえがきより
読者に
世間で評判になりたいのならば、このわたしでも技巧をこらしきらびやかに身を飾ったに違いない。だが、細工もなしに単純で、ごく自然でふつうのわたしという人間を見てほしいのだ。
わたしは、わたしを描いているのだから、ここには、わたしの欠点がありのままに読み取れるし、至らない点や自然の姿が、社会的な礼節の許す限りで、あからさまに描かれている。
原初の自然の法にしたがって、いまだに幸福で自由な生き方をしている人々のなかで暮らしていたならば、わたしは喜んで、わが姿をまるごとに、はだかのままに描いたであろうことは、読者に誓ってもいい。
つまり、読者よ。わたし自身が、この本のなによりの題材なのだ。
それにしてもこんな他愛もないむなしい主題のために読者諸氏の労をわずらわせることは、そもそもわたしの主義には反することなのである。
さようなら。
モンテーニュ 1580年6月12日