くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「猛女とよばれた淑女」斎藤由香

2009-04-24 05:47:21 | 歴史・地理・伝記
斎藤輝子ときいて、すぐに誰なのかわかる方、さすがです。
ヒント:青山脳病院。幼な妻。ダンスホール事件。アララギ。北杜夫。
そう、歌人斎藤茂吉の妻であります。この本は、茂吉の孫娘(でも死後に誕生しているので面識はなし)由香が祖母について書いたもの。タイトルは「猛女とよばれた淑女」(新潮社)。
輝子といえば、茂吉が養子になると決まったとき、わずか八か月の赤ちゃんだったということくらいしか知らないので、ちょっと読んでみようと思ったわけです。でも、以前「窓際OL」がマカの販売促進メインだったことに辟易したので、不安ではありました。
輝子の海外旅行のエピソードが続くので、しばらくほうっておいたのですが、そろそろ図書館に返却しないと……。せめて、茂吉のところだけでも読もうかなーと思って第三章から読み始めたわけです。
そしたらおもしろいの! 親族ならではのエピソードがたくさん紹介されていて、茂吉の鰻好きとか杜夫が父の文学をたいそう崇拝していたとか、卒論で茂吉をやろうと思ったら知らない歌の方が多くて、やっと見つけた親しみのある歌は、
みちのくの母の命を一目見ん一目みんとぞいそぐなりけれ
だったので、興奮して親に話したら、「ひとめ」を「いちもく」と読んでしまったとか……。(一般に流布している歌とは結句が異なりますね。推敲前なのでしょうか)
しかし、この本がすごいのは、「斎藤家」というブルジョアが時代の中でどう動いてきたかを考えさせるところだと思うのです。ご存知のように、茂吉の二人の息子は文筆の面でも著名であり、長男茂太は精神科医として精力的に働いています。
三代めにあたる由香は文筆もこなしますが、茂太の系列は医師としての仕事に専念。由香は自分も精神科医になるべきだったのかと思うエンディングが、輝子と茂太の死を悼み、荘厳な感じがしました。
なんといっても、輝子が自分への言葉に「です」を許さなかったというのが、驚きです。「ございます」「さようですか」というように、と。
さらに、斎藤家の方々は、「パパ」「ママ」「おばあちゃま」と呼び合っていて、わたしにはかなり驚きです。
だって、第一章あたりでは躁鬱病のために破天荒になっている杜夫なんですよ。しかも、うちよりも阿川さんの家の方がめちゃくちゃだなんて言ってるし。
わたしは杜夫作品を読んだことがないのですが(「楡家の人々」挫折しました)、ここでは作家北杜夫よりも、個人である斎藤宗吉を描いている感じが強いと思いました。
斎藤輝子という女性は、茂吉の「悪妻」として世に知られています。けれど、そう呼ばれることに甘んじた輝子、晩年の茂吉にかいがいしく尽くしたという輝子の姿も、この本からはたちのぼってくるのです。
斎藤茂吉。遠い昔の人だと思っていましたが、結構地続きなんですね。短歌の本を何冊かめくったら、ユニークな作品も目につきました。茂太さんの作品はとっつきやすそうなので、読んでみようかしら。


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1 コメント

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Unknown (ミリオン)
2024-08-16 15:46:45
こんにちは。
ダンスホールは素敵ですね。行くのが大好きです。頑張って下さい。今日の朝は、「虎に翼」の第100回を見ました。
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