かつて谷沢永一が面白いことを書いていた。「もう直、地方からの観光バスや東京のはとバスが三宅坂と代々木を回って、『これが世界で絶滅した社会党本部及び共産党本部でございます。わが国にだけございます』と言って案内するのではないか」(『大国日本の正体』)▼残念ながら、谷沢の予測は一部外れた。代々木の共産党はかろうじて命脈を保っているが、社会党は社民党と名称を変更し、支持率は泡沫政党のレベルである。イタリア共産党は消滅し東欧の共産党が壊滅したにもかかわらず、日本の共産党だけが勢力を維持しているのは、団塊の世代の年寄りがいるからである▼面白いのは、共産党を名乗りながらも、マルクスの文献を読んだことがない党員が多いことだ。宮本顕治が委員長だった時代には「科学的社会主義」をスローガンにしていたが、不破哲三が思想的リーダーになってからは、それすらも口にしなくなった。変わらないのは、自分たちが選ばれたものであるとの「前衛意識」である。民衆は愚かであるというのが彼らの見解なのである。だからこそ、ネット工作を行って民衆を煽ることも許されるのである▼谷沢も引用しているが、芥川龍之介は「レーニン」という題で、「最も民衆を愛した君は、最も民衆を軽蔑した君だ」という言葉を残している。的を射た論評ではないだろうか。共産党の同伴者となっている芸能人や文化人は、そのことに気づかないおめでたい人たちなのである。
㉕笠井尚氏の会津の本を読む 田宮虎彦の『落城』
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