「キャロル・キング自伝」 キャロル・キング著 松田ようこ訳 2013年 河出書房新社
(A Natural Woman : a memoir)
待望の自伝。昨年出たのは知っていて、翻訳はもう少しかかるかと思ったが、案外はやかった。500頁。
キャロル・キング(1942- ) は私より少し上の世代、本書によればポーランド系ユダヤ人でブルックリンの生まれ、父親は消防士、母親は音楽と演劇をかなりやっていたらしい。その影響か、大人になるのは早く、高校時代から本格的な音楽活動、特に作曲とコーラスをはじめ、その一方で17歳の時に、コンビで幾多の名曲をものにする作詞のジェリー・ゴフィンと結婚、18歳と20歳で二人の娘の母親となる。
一方でその間、18歳で「Will you love me tomorrow」(シュレルズ)がヒット、20歳のとき、ベビーシッターがあまりに歌がうまいので解雇して歌わせビルボード1位になったのがあの「ロコ・モーション」(リトル・エヴァ)、これは10年後にグランド・ファンク・レイルロードで再度ビルボード1位となる前代未聞の快挙になる。
その後、作曲家としてヒット曲を書きつづけたが、人前で歌うのは1970年ころ、ジェームス・テーラーが自分の前座に引っ張り出してからで、そのすぐ後にあの「つづれおり(Tapestry)」を出す。
このようなアルバム全曲(12曲)すべて、一つとしてくずがないというもの、ほかには「明日に架ける橋」(サイモンとガーファンクル)くらいしかないのでは、と思う。しかもすべて彼女の作曲である。なお、彼女はアルトで、そのオリジナル・キーでほぼ私が歌えるということもあり(もうちょっと高いとなおいいのだけれど)、いくつかレパートリーにさせてもらっている。
彼女は今まで4回結婚し4回離婚しており、最初の二人が音楽関係者で彼らとの間にそれぞれ二人の子供が生まれ、そのあとの二人はむしろ自然(アイダホ)の生活に入っていく中でのパートナーとなっている。音楽的には「つづれおり」が頂点だとは思うが、自然の中の生活からまた音楽ツアー主体に戻ってきて活動を続けており、この後半生を読むと、この世代のアメリカ人としては知性とバランス感覚を持った明るい人だと思う。
そして、あのニール・セダカと彼女が幼なじみということは、ヒット曲「オー・キャロル」とともに有名だが、本書によれば彼女はマディソン高校で同級生にポール・サイモンがおり、ニール・セダカはライバルのリンカーン高校でコーラス・グループ「トーケンズ」を最初率いていたそうだ。このトーケンズは後に私の世代ならだれもが知っている「ライオンは寝ている」というスマッシュ・ヒットを出す。この曲のように男声でメロディがほぼ全部ファルセットというのは他にあったかどうか。
このところキャロル・キング作曲のいろんな歌手の歌を集めたものや、彼女が作曲して提供したときに参考として添付した自身の歌唱録音を集めたCDが出ているのは、この本に合わせたものかもしれない。
翻訳に特に間違いはないと思うが、日本語としてはちょっと首をかしげるところがあり、あと一回校正したらよかったと思われる。