「ゴーストライター」(The Ghost) (2009) ロバート・ハリス(Robert Harris)著 熊谷千寿訳 講談社文庫
退職した英国首相のじ回顧録を頼まれたゴーストライターが米国東部で船から落ち水死する。そのあとを頼まれたのがこの物語の主人公。外的なイメージはトニー・ブレアを借りたような元首相は、中東で反英活動をした4人を米国CIAに売渡し拷問を黙認したとして、自分の内閣時代の元外相から国際司法裁判所に訴えられる。
このあたりから主人公のライターも単に言われた通り書けばいいというところから、自ら調べるようにもなり、元首相のさまざまな過去が明らかになるにつれ、暴かれては困る人たちの動きに巻き込まれていく。
ポリティカル・スリラーとでもいうべきジャンルだそうで、こまかい描写はうまく、読み進んでいける。ただ、娯楽小説としてはもう少しはらはらどきどきが欲しいし、アクションのシーンがほとんどないがそれもあっていい。
ジェフリー・アーチャーのものと比べると人間の描き方は、ハリスの方が上質だし、政治の世界についてもこちらのほうが奥深さが出ている。しかし読者をとりこにする進行のうまさに関しては、やはりアーチャーだろうか。
ところでこれを原作とした映画が、監督ロマン・ポランスキー、主演ユアン・マクレガーで製作されており評価も高いようである。少し前に映画館で予告編を見たけれども、原作よりは動きがあるようだ。いずれWOWOW で放送されたら見ようと思っている。
ついでに、このところ海外の小説で日本製品の使われ方を面白く見ている。車はもう普通だが、今回この作品のある個所で主人公であるライターが携行する道具が紹介されていて、ソニーのデジタル・レコーダー(SANYOのほうがいいと思うが)、パナソニックのラップトップ、ここまでは不思議ないが、筆記具として三菱のジェットストリーム・ローラーボール3本とあるのには笑ってしまった。ここまで浸透しているとは!
実はジェットストリームは私も愛用していて、講演、会議などのメモは、これを使うようになってから疲れが半減した。