メイン・テーマ (1984年、101分)
監督・脚本:森田芳光、製作:角川春樹、原作:片岡義男
薬師丸ひろ子、野村宏伸、財津和夫、桃井かおり
どんな筋の映画かという知識もなかったし、公開当時の記憶もない。ただ薬師丸ひろ子の主題歌だけは知っていてカラオケで歌ったこともあるという、見る映画としてはおかしなケースである。
しかし「映画として」傑作である。仕事をやめるはめになった保母(薬師丸)、彼女が海辺で遭遇した職業はマジシャンの若い男(野村)、彼らよりだいぶ年上の男(財津)と女(桃井)がからみ、東京から大阪、そして沖縄を舞台にストーリーは動いていく。かれらがどうやってほかの人の居場所を探したかは詳しく語られないし、行動の動機も丁寧に語られることはないから、見ているもの側にそんなに感情移入はない。
しかし、多彩でよく変化するカメラ・アングル、カット特に短めに端折ってでも見るものに想像させればそんなに外れることはないという進行、台詞も多すぎない。まさに編集の自由があり、編集がすべての映画はこういうもんでしょといいたげな作品である。
そういう風に思えてきて、あそうかこれ監督は森田芳光だったんだ!とうかつにも途中で気付いた。
そうして主人公(男)の職業がマジシャンということにもかこつけて、ときどきふざけたいたずら画面のようなものが出てくる。薬師丸がある家の行きかたをきいて、歩いてたずねていくその途中、変な出来事(人のうごきも含め)や背景があったりするが、それは案内に書いてもらった紙に劇場風に描かれている、という場面はこの種の映画としても秀逸。
ひょっとしてそのあとの世代、たとえば三木聡なんかは、この流れなんだろうか。
こういう映画の楽しさに、大人になりかけている女性の短い間の変化を薬師丸ひろ子はごく自然に演じている。それにしてもこの年齢の役を見ていて思うのは、彼女の声である。
角川春樹は炯眼だったと思う。すき通った高音とやわらかく温かみのある中低音のコンビネーション、これは彼女の女優としては低い身長とスタイルを補ってあまりある。
桃井かおりの役はクラブ歌手だが、劇中で歌うのが「素敵なあなた」、米国での原題がBei Mir Bist Du Schonというドイツ語のめずらしいもので、歌詞も半分はドイツ語である。これは1960年代から、ラジオで特にラジオ関東でよくかかっていた。いろんな人がカヴァーしていたが、一番ポピュラーだったのはキーリー・スミス&ルイ・プリマ、懐かしいし、これを使ったセンス(片岡の原作にも出てくる?)もいい。