メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

英国王のスピーチ

2011-05-03 21:50:53 | 映画
「英国王のスピーチ」(The King's Speech、2010英・豪、118分)
監督:トム・フーパー、脚本:デヴィッド・サイドラー
コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム=カーター、ガイ・ピアース、マイケル・ガンボン
 
英国王ジョージ6世(コリン・ファース)が父ジョージ5世の晩年、幼年時になった吃音に苦しみ治療を受け出してから、兄がシンプソン夫人と結婚するために王位を捨て、Bertieと呼ばれた弟の彼が即位し、ヒットラーに宣戦布告した英連邦の長として吃音を克服して人民に励ましのスピーチをするまでの話である。
 
相当詳しく調べたらしく、現存の登場人物もいて、よくできたなとは思う。おそらく実話にきわめて近いのだろう。
 
脚本ができたところですでに成功はきまったようなもので、アカデミー賞の独占は映画全体の出来としてちょっとちがうのではないか、という声が多かったというのは理解できなくもない。
それほど大きなしかけがあるわけではない。
 
そう思って途中まで見ていたが、即位式の前にウエストミンスター寺院で言語障害専門家ローグ(ジェフリー・ラッシュ)と激しいやりとりをするところからクライマックスのスピーチまでの終盤30分ほどはやはり圧倒的で、ここになると違う世界の人たちの物語が普遍の世界にいつの間にか降りてきていて、泣けてくる。 
 
コリン・ファースは、脚本に素直に挑んだだけかもしれないが、この好漢がこの機会にオスカーをとれたのはよかった。これも運だろう。二枚目で偉丈夫だが、寝取られ男を演じてこの人の右に出る者は、、、というばかりでは気の毒と思っていたから。
 
ジェフリー・ラッシュは期待されて当然だが、それにたがわなかった。なおこの役はオーストラリア人で、それがふさわしくないと英本国で何かと問題にされるのは、前回書いた「遙かなる未踏峰」主人公マロリーの友人でやはり同じく天才登山家のフィンチがオーストラリア人であるために正当な評価を得なかったのと同様である。
 
主人公の夫人役ヘレナ・ボナム=カーターが、これほどくせのないいい感じの人を演ずるのは珍しいのでは。たしか、少し前まで長生きした皇太后。
 
ジョージ6世の二人の女の子は、現エリザベス女王とマーガレット王女。
細かいところでは、ローグはそこそこの家に住んでいるのだが、息子たちが屋内でマフラーを常用しているのは、大戦前の燃料節約のためだろうか。
 
スピーチのところで使われるのはベートーヴェンの交響曲第7番第2楽章、それが終わって拍手で迎えられるところはピアノ協奏曲「皇帝」の第2楽章、これはうまい。特に第7番はシンプルなフーガの名曲であり、「複数」の想念が画面に交錯しながら、一つの音楽として流れていくわけで、何人かの思いが結晶したスピーチの進行にふさわしい。

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