この3月末で地上デジタルの普及率が83.8%に達したと報道されています。それから更に4ヶ月経過していますから、今ではもっと高い普及率になるんでしょう。ただし去年9月の69.5%から半年で14.3%も急上昇した数字には疑義を挟む声もあり、名古屋の一般的な住宅地に住む私の実感にも合いません。極楽家の近所では地上デジタル用の瀬戸タワーを向いたUHFアンテナは大まかに60%程度、これにCATVや光ファイバーを入れても80%を越えるのは難しいでしょう。全国にはUHFの受信自体が難しい地域がかなり残っていることを考慮すれば、政府と業界が「あるべき普及率」を演出した可能性は否定できません。
この大本営発表に対して、「地上デジタル完全移行の延期と現行アナログ放送停止の延期を求める」提言が発表されました(以下「今回の提言」とします)。
地上デジタル計画への反対提言としては、もう8年も前の「地上波デジタル放送への国費投入に反対する」が記憶にありますが、この時は経済学者が中心となって地上波デジタルへの移行に反対したものです。今回は地上デジタルそのものに反対するのではなく、準備不足をカバーするための時間的余裕が必要だという提言ですね。経済学的には既にマイナスだと指摘されていますが、計画がここまで進んでしまった(つまり国費が投入されてしまった)せいか経済学者はあまり参加していません。
ただ賛同者に名を連ねる鬼木 甫(おにき はじめ)情報経済研究所所長はこの問題を専門とする経済学者であり、「地上アナログテレビ停止(停波)の経済分析」なる研究があります。今回の提言は、当然ながらこの研究を踏まえていると考えられます。
今回の提言を読んでみると、総務省が地上デジタル普及率の算出方法として、かなりバイアスの掛かりやすい方法を採用していることがわかります。まず人口に対する抽出率が地域により大きく違っている。それからランダムに電話を掛けて、電話に出ない世帯は調査から外しているわけですね。この方法だと、そもそも地上デジタルを理解していない高齢者世帯や、電話にあまり出ない単身者などは母集団から省かれてしまい、調査の公平性が損なわれるとあります。これは当然ですね。実際に普及率調査のアンケートと、より精密な「国民生活基礎調査」による収入分布に無視できない差があり、収入の低い高齢者世帯や単身者などがアンケートから相当数漏れていると推定されます。
このため今回の提言によれば、実際の普及率はせいぜい60%台だろう、というのも納得できるものです。地上デジタル対応テレビの出荷台数から見ても妥当な数字でしょう。(対応テレビは、既に廃棄されたものも含めてやっと5,000万台が出荷されたと報じられており、日本全国の1億3千万台と言われるテレビの半分にも及びません。)このまま予定通りにアナログ放送を終了すれば、その時点でテレビが見られなくなる世帯が約500万、デジタルに対応できないテレビが数千万台発生すると予測されているのももっともなことです。実際の地上デジタル受信率を無視した拙速なアナログ放送停止は、低所得者層を積み残して発車するようなものであり、不況の折に新たな自己負担を躊躇する低所得者層のテレビ離れを引き起こすものです。
放送局が経営への悪影響を懸念している、と言われるサイマル放送(デジタルと並行して同じ番組をアナログでも放送する)にしても、今回の提言では、放送局の負担は個々の家庭が地上デジタルに対応するコストに比べれば相対的に低いものであり、それよりアナログ放送終了によって視聴世帯が大幅減少することで広告料が減少する損失がずっと大きいはず、と明快です。
問題も解決策もはっきりしています。アナログ放送終了を2-3年延期し、経済学的に国民全体の負担が最も軽くなる最適点(鬼木所長の研究では2013-2015年)まで余裕を持たせ、その間に跡地のオークションを準備するのが国民の財産を一番生かせる政策だと思います。
この大本営発表に対して、「地上デジタル完全移行の延期と現行アナログ放送停止の延期を求める」提言が発表されました(以下「今回の提言」とします)。
地上デジタル計画への反対提言としては、もう8年も前の「地上波デジタル放送への国費投入に反対する」が記憶にありますが、この時は経済学者が中心となって地上波デジタルへの移行に反対したものです。今回は地上デジタルそのものに反対するのではなく、準備不足をカバーするための時間的余裕が必要だという提言ですね。経済学的には既にマイナスだと指摘されていますが、計画がここまで進んでしまった(つまり国費が投入されてしまった)せいか経済学者はあまり参加していません。
ただ賛同者に名を連ねる鬼木 甫(おにき はじめ)情報経済研究所所長はこの問題を専門とする経済学者であり、「地上アナログテレビ停止(停波)の経済分析」なる研究があります。今回の提言は、当然ながらこの研究を踏まえていると考えられます。
今回の提言を読んでみると、総務省が地上デジタル普及率の算出方法として、かなりバイアスの掛かりやすい方法を採用していることがわかります。まず人口に対する抽出率が地域により大きく違っている。それからランダムに電話を掛けて、電話に出ない世帯は調査から外しているわけですね。この方法だと、そもそも地上デジタルを理解していない高齢者世帯や、電話にあまり出ない単身者などは母集団から省かれてしまい、調査の公平性が損なわれるとあります。これは当然ですね。実際に普及率調査のアンケートと、より精密な「国民生活基礎調査」による収入分布に無視できない差があり、収入の低い高齢者世帯や単身者などがアンケートから相当数漏れていると推定されます。
このため今回の提言によれば、実際の普及率はせいぜい60%台だろう、というのも納得できるものです。地上デジタル対応テレビの出荷台数から見ても妥当な数字でしょう。(対応テレビは、既に廃棄されたものも含めてやっと5,000万台が出荷されたと報じられており、日本全国の1億3千万台と言われるテレビの半分にも及びません。)このまま予定通りにアナログ放送を終了すれば、その時点でテレビが見られなくなる世帯が約500万、デジタルに対応できないテレビが数千万台発生すると予測されているのももっともなことです。実際の地上デジタル受信率を無視した拙速なアナログ放送停止は、低所得者層を積み残して発車するようなものであり、不況の折に新たな自己負担を躊躇する低所得者層のテレビ離れを引き起こすものです。
放送局が経営への悪影響を懸念している、と言われるサイマル放送(デジタルと並行して同じ番組をアナログでも放送する)にしても、今回の提言では、放送局の負担は個々の家庭が地上デジタルに対応するコストに比べれば相対的に低いものであり、それよりアナログ放送終了によって視聴世帯が大幅減少することで広告料が減少する損失がずっと大きいはず、と明快です。
問題も解決策もはっきりしています。アナログ放送終了を2-3年延期し、経済学的に国民全体の負担が最も軽くなる最適点(鬼木所長の研究では2013-2015年)まで余裕を持たせ、その間に跡地のオークションを準備するのが国民の財産を一番生かせる政策だと思います。