いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

OECDが見る世界の医療

2010年07月02日 | 医療、健康
 医療に対する公的および私的な出費の各国比較データをOECDが発表しています。この統計は数ヶ月前に出されたもので、引用したロイターの記事も3月付けなのですが、日本ではネットで今頃出回って来ました。2000年から2008年にかけてOECD諸国でGDPに対する医療支出が増加しており、国家財政を圧迫する要因になっている、という解釈がされています。

 表を見ると、絶対的な金額でも対GDP比でも、アメリカの医療支出は突出していますね。日本はその半分でOECD平均に比べても1割ほど少なくなっています。日本の医療改革のターゲットとしてしばしば引き合いに出されるドイツもスウェーデンも日本よりは多く、特に私的支出がかなり多いことがわかります。「安く、誰にでも」という日本の医療サービスの特徴がはっきり示されています。

 医療従事者としてはこれをOECDのお墨付きと思いたいのですが、理解しがたいのは、このデータからはアメリカの低所得者が日本に移住しようと思っても不思議はないぐらいなのに、なぜか日本における医療サービスの満足度が際立って低いことです。WHOが世界一うまくいっていると評価した日本の医療制度は、新聞などで利用者にアンケートを取ると不満の嵐で、主要国で最低の満足度しか得られないらしいです。このギャップは一体何が原因でしょう?

 マスコミによる理不尽な医療叩き、という説があります。これはある程度根拠があるようで、マスコミは視聴者の興味を惹くために叩く相手を求めており、叩いても反撃されない公務員や政治家、病院をターゲットに選びがちだと言われます。誰かを叩いて視聴者に喜ばれるためには、その相手が一見強そうでないといけません。そして、何か不正なことをしているように思い込ませやすいことも必要です。この点で一般の個人は叩けません。マスコミの多くは庶民の味方という建前を取っていますから。それからスポンサーである一般企業も、余程の不祥事を起こした時以外はターゲットになりません。組織的な反撃が怖い宗教団体も無視。

 すると公務員や公共サービスに従事する人が格好の餌食ではないですか。税金や補助金を受けているという引け目もあるし、立場上は公平を要求されますから、1つ1つの記事に強く反論したり訴訟を起こすこともやりにくい。病院には医師が働いていて、何だか偉そうで高収入らしい。これは許せんぞ!というルサンチマンに訴えやすいのですね。でも専門職だからどうしても患者さんを指導する立場になることが多いのは仕方がないです。それに今はマスコミだけじゃなくてネットの情報があるので、勤務医の給料は職務の内容や時間から考えるとたいして高くなくて、大手マスコミの方が待遇がいいらしいと知られたのはマスコミ諸氏の誤算だと思いますが。

 マスコミの今ひとつの誤算は、最前線の医療関係者が総反撃してきたこと。世界のどこの国でも通用するレベルの高い医療を実現しながら、アメリカの専門医の倍も長く働いて給料は半分以下、家族の顔を見るたびに過労死だけはすまいと思いながら働いている医師はいくらでもいます。実際に過労死だって何人も出ているし、長時間勤務や労働基準法違反はきちんと証拠が残っていること。それを無神経に「正義の味方」面して叩いた毎日変態新聞のコラムがどういうことになっているのか、宜しければご覧下さい。政府の誘導に乗ったのでしょうか、「医師が悪い、病院が悪い」という偏見で記事をでっち上げてしまうと、とんでもないミスリーディングになるといういい見本です。こんな浅はかな記者に比べれば、一般の患者さんの方が余程医療の現場を理解しています。

 客観的には悪くないはずの日本の医療なのですから、後は利用者の気の持ち様かも知れませんね。義務教育に苦情が増えたり、給食費の不払いが発生したりしているのを見ても連想できますが、「いつでも手に入るもの」に対しては感謝しないのが人間の本性なんでしょうから、いっそ混合診療を導入して、自分でコストを負担する意識を持って頂いた方が満足度が上がるようにも思います。
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