いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

TSIエンジンへの評価は

2007年08月17日 | 自動車
 石油価格の高騰と環境規制の強化により、新世代の自動車エンジンが次々に開発されています。日本ではトヨタのハイブリッドが先行しましたが、今度は排気ガスをガソリン車の水準に改善したクリーンディーゼルが数年内に各メーカーから発売されると予想されています。

 そんな状況で、当面の解決策として小排気量のガソリンエンジンの燃費を過給機により改善しようとしているのがフォルクスワーゲン(以下VW)です。2Lクラスのエンジンを1.4Lまで縮小し、機械式スーパーチャージャーとターボの2つの過給機で出力を維持しながら燃費を改善する、という試みは初めてのものではありませんが、主力商品のエンジンをこの新型1.4Lに変更してしまうという思い切った経営戦略がユーザーにインパクトを与えています。

 小型のエンジンをターボで過給することで出力は大型エンジンに近づけることが可能ですが、ターボを駆動するのは排気ガスの運動エネルギーですから、エンジンの低回転時にはターボに有効な駆動力がなく、従って低回転からの加速が鈍い、つまりレスポンスが悪いという欠点がありました。これを補うためにエンジンから動力を借りて加給する機械式のスーパーチャージャーを組み合わせ、2段過給にするのは今に始まった考えではなく、日産の市販車やランチアのラリー車に先例があります。

 概念としては驚くほど新しくはない、と以前にも書きましたが、もちろんエンジンが直噴になったとか、変速機が長足の進歩を遂げたとか、スーパーチャージャーが同じルーツタイプでも新型になったなど、改良点はたくさんありますので、この「復活したツインチャージエンジン」が実際にどう評価されるのかは興味津々でした。NAVIの長期レポートがありましたので、参考にさせて頂きましょう。クルマ雑誌と言えば提灯持ち記事が当然だった数十年前から、地道な長期レポートを続けてきた「カーグラフィック」は最も信頼できる月刊誌であり、実際に車両を購入してテストする方針はその姉妹紙である「NAVI」にも引き継がれています。

 レポートによれば高速道路と市街地を走行した実用燃費が10km/Lで落ち着いているようです。極楽家の前の愛車、ヴェントVR6は調子のいい時で8km/L、点火系統が不調になってからは6km/L台でしたから、同じような出力のエンジンとしては優れています。ゴルフVはかなり大型になり重くなったので、それでも燃費が改善されたのは、エンジンそのものに加えて変速機の改良も貢献しているのでしょう。

 NAVIの竹下さんはこの燃費を評価しているようです。ゴルフGT TSIは動力性能も水準以上なので、この数字を単に大きさが似ているプリウスの「20km/L以上」と比べても意味がありません。しかし、10/15モード燃費は14.0km/Lであり、大きさ、重量、エンジン出力のいずれも近いトヨタブレイド2.4Lの13.4km/Lと大差があるとは思えません。carviewのユーザーレポートを見ると、実際のデータでも両車10-12km/Lの報告が多く大差はありません。ブレイドはレギュラーガソリン指定なので、実際の燃費はブレイドの方が安くなります。

 それに、メーカーが言うような「2.5L V6と同等の出力でより軽量」はどうでしょうか。最近の日本車は過給機なしでも高出力ですし、バランサーの進歩などで2.4L程度までは軽量な4気筒でまかなうケースが多くなっています。2個の過給機を装着することを考えれば、最新の2.4Lに比べて明らかに軽いとは言えないでしょう。ブレイド2.4Lも4気筒です。

 それから問題になるのが、輸入車のお家芸である信頼性不足です。VR6では、たいして複雑な機構ではないにもかかわらず、ウォーターポンプ破損、パワステポンプの油漏れ、点火不良などいろいろやってくれました。2つの過給機や可変バルブタイミング、電子制御による直噴など、4気筒ながら精緻なメカニズムを持つTSIエンジンの保守を考えると、国産4気筒が無難な選択になるのは経験から言えることです。

 だから経済的な意味でツインチャージャーのTSIを選ぶ意味はないと思います。むしろ複雑な機構のエンジンをうまくチューニングして、素早いシフトで評価の高いDSGミッションと組み合わせ、VWの考えるスポーティーな乗用車、という水準に磨き上げてきたことを評価すべきでしょう。このクルマの最大の美点は「ゴルフであること」であり、ツインチャージャーであることではないと思います。ブレイドとの違いは優劣と言うよりは好みの問題ですから、乗ってみてなんぼ、です。乗り味が気に入れば買えばいいし、気に入らなければ、わざわざ低燃費を期待して買うほどの経済性はありません。

 それでも最近のVWが努力しているな、と思うのは価格です。この数年でユーロが円に対してずいぶん上がったのに、モデルチェンジのたびに車格を少しずつ上げながら、それでいて価格を抑えているのはたいしたものです。昔のゴルフって、同じような車格の国産車に比べて歴然と高かったですが、今ではゴルフGT TSIは、装備を考慮すればブレイドと20%も違いません。これなら維持費が多少嵩んでも、好みでゴルフを選ぼうというユーザーは少なくないでしょう。
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