いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

TSIエンジンはどこが新しいか

2007年01月25日 | 自動車
 VWが来月から日本市場に投入する新型TSIエンジンは、当初は1モデルだけに限定されるものの、順次他のモデルに採用を拡大すると発表されており、当面の主力エンジンとして考えられているようです。

 VWは世界屈指の大規模メーカーですから、(日本でのテスト不足による信頼性の低さは別の話として)今まで量産型のエンジンはシンプルで手堅い設計のものばかりだったと思います。それに比べると今度のTSIエンジンは思い切った構成です。

 2Lが標準排気量のクラスにおいて、1.4Lまで排気量を縮小し、機械式スーパーチャージャーとターボチャージャーの2段過給という意欲的なもの。同社はゴルフIVや2代目パサートで1.8Lの5バルブエンジンを採用して排気量を小さくしたことがあるのですが、コストが高い割に低速トルク不足などと不評があったのか、すぐ引っ込めたことがあります。今度のは一気に3割縮小です。

 排気量を減らしても低速トルクは確保できるというマジックが、新採用のスーパーチャージャー。ニュースリリースなどを見てもその内容が説明されていません。VWジャパンのサイトを見てみると、どうも新型のスーパーチャージャーを採用しているような書き方がしてあるので、当初はリショルムかと勘違いしましたが、どうも改良型のルーツブロワーのようです。この辺ははっきり言いたくないのかな。

 乗用車のエンジンを機械的に過給する場合、構造の簡単なルーツブロワーを使うことが多かったのですが、これは単なる送風機のため、高い過給効果を得ることができませんでした。日本でもクラウンやMR2に搭載されたのはこのルーツ型でした。クラウンS130系に搭載されたのは1987年ですから、もう20年も前になります。

 過給効果の大きいリショルムを市販車に搭載したのはマツダが早く(ユーノス800)、世界初のミラーサイクルエンジンと組み合わせていました。これが1993年。その後、過給機ブームが世界的に下火になっていたのですが、ベンツのように過給機を見直すメーカーも出てきました。エンジンの4バルブ化やバルブタイミング制御、直噴化などで過給の使える範囲が広がったからでしょうか。

 TSIエンジンは、世界初の市販直噴ハイブリッド過給エンジンと説明されています。直噴になる前では、日産から出たマーチスーパーターボ(1989年)があるからですね。こうして見ると、日本のメーカーは本当にいろいろやっています。

 昔からVWのクルマを見ている人なら、「Gラーダはどうなったのだろう?」という疑問があるでしょう。家庭用エアコンのスパイラルコンプレッサーによく似た形のスーパーチャージャーで、ゴルフIIの派生車種である「G60」とか「コラード」に搭載されたはずですが、一代限りで消滅してしまいました。信頼性に問題があったとも言われていますが、それなら日本のエアコンはなぜ大丈夫なのでしょう。

 昔からの(無責任な)ファンとしては、この「Gラーダ」をぜひ復活させて欲しいところですが、今回のTSIエンジンはルーツでした。理由はダイキャストで製造できるルーツと、ミリングマシンで削って製造するGラーダのコストの違いだと思っていますが、正確なことはわかりません。可変バルブタイミングを利用してミラーサイクル動作をさせていることは間違いなく、これが低燃費を実現している鍵でしょう。ユーノス800は特に低燃費と言われていませんでしたから、当時はまだミラーサイクルを極めていなかったことになります。

 スーパーチャージャー過給ならターボは不要かとも思うのですが、高回転用にターボまで付いています。絶対馬力まで欲張ったわけで、VW技術陣の頑張りが見て取れます。ここまでやらないと、日本のハイブリッドやクリーンディーゼルに対抗できないという危機感の表れかもしれません。ただコストは高いでしょうね。VWでは「2.4L並みのパワーを実現した」と言っているようですが、4気筒2.4Lの方が製造コストは安いと思います。

 VWは2.3LのVR5エンジンを持っています。この奇怪なレイアウトのエンジンに比べればTSIは高くないのでしょう。しかし、2.0Lから2.4Lでは、日本勢はトヨタもホンダもマツダもシンプルな直4ですから、コスト面ではTSIより有利です。最新の直4はバランサーのお陰でスムーズで静かですし、直噴と可変バルブタイミングの恩恵でパワーと燃費も改善されています。4気筒同士の比較では、2.4Lを1.4Lに縮小したところで、劇的に小さく、軽くなるわけではありません。むしろ過給機の分だけ相殺される可能性もあります。

 実際に、ゴルフGT TSIは旧来の2Lモデルに比べて20kg重くなっています。これはシャーシの補強や装備変更などもあるのでエンジンだけの差ではないのですが、それにしても「TSIエンジンは小さくて軽い」とは言えない状況です。

 売り物の燃費はどうでしょうか。大型化して重くなったゴルフVですから、エンジンにかかわらず燃費はあまり期待できないと思っています。さすがにゴルフIIIまでのような市街地燃費の極悪なほどの悪さはないでしょうが、日本車はハイブリッドを筆頭に渋滞走行はどれもお家芸です。市街地の燃費効率で日本車を上回るのは難しいでしょうね。そもそもTSIエンジンはプレミアム指定なので、競合する日本の2.4Lより7%以上は効率が高くないと同列に語れません。

 心配なのは複雑な機構を初採用したことによる信頼性の問題と、騒音です。昔からVWは自動車の騒音に無頓着なので、スーパーチャージャーの高周波騒音をうまく抑え込んだかどうかは気になるところです。

 従って、TSIエンジンが「買い」かどうかと言われると難しいです。VWとしては意欲的なエンジンなのですが、既存の技術を組み合わせただけなので、私は感動しませんでした。先行発売された欧米では完成度の高さを評価されて受賞しているようなので、乗ってみればすごくいいのかもしれません。
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