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いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

買い控えは続くよあと3年半

2007年09月06日 | たまには意見表明
 博報堂DYパートナーズの調査によれば、視聴者の4割近くが地上デジタルへの移行に積極的ではなく、アナログ停波間際の2011年まで今までのテレビを見ると回答したそうです。

 この調査結果は一般的な消費者の実感に合っていますね。既に地上デジタルを見ている人は3割弱。留意しなければならないのは、これは首都圏と京阪神でインターネットのアンケートにより調べた数字だということです。地方では地上デジタルの普及率がもっと低いのは当然ですし、ネットを使わない視聴者も恐らく地上デジタルへの対応は遅くなるでしょう。

 アンケートのバイアスを考慮すれば、恐らく視聴者の半数が停波されるまでアナログテレビを見続けるだろうということになります。2011年になるまでデジタル機器の集中した代替需要は発生しません。その代り、アナログ停波が近付けばパニック的な需要が生じ、市場は大混乱に陥ることが予想されます。

 このパニックに乗り遅れれば、一時的にでもテレビのない生活を強いられることになりますね。その際に、「受信可能な受像機を持っていない」としてNHKの受信料支払いの義務はなくなりますから、多数の解約が発生すると予想されます。視聴者が大幅に減少しますから、企業はテレビでの広告費を削減するでしょう。

 こうした大混乱は、別の立場にある業者にとっては大きなビジネスチャンスです。スカパーやケーブルテレビ、新しく市場に登場するインターネットテレビなどが一斉に「工事費無料キャンペーン!視聴料も3ヶ月間無料!」などと積極的に視聴者を囲い込むでしょう。地上波の視聴者が一気に有料放送に移行する可能性はあります。

 地上デジタル側のNHKや既存民放としてはどうしたらいいでしょうか?答えは単純なものだと思います。「地上デジタルへの移行を知って」などという意味不明のキャンペーンではなく、地上デジタルの不便を解消することです。「視聴者がお金を出して地上デジタルに替えてくれれば、高い薄型テレビもアンテナも売れるし、新しいレコーダーも売れる。録画メディアからもお金が取れるし、コピー制限があるからDVDパッケージや携帯の映像コンテンツも売れる。業界みな丸儲けでウハウハ!」なんて顧客不在の前提にしがみ付くから普及しないのでしょう。当たり前ですよ。

 現状の地上デジタルで視聴者にどんな利益がありますか?大きな不便と追加費用の見返りは、静止画の画質がいいことぐらいでしょうか。動きの激しい場面ではブロックノイズが目立ちますからね。視聴者から見ればデメリットばかりで、とても取引に応じられる条件じゃありません。

 これから3年半の国民的買い控えをじっと見たくなければ、少なくとも「地上デジタルは不便」などと言われないようにすることです。放送利権の象徴であった「コピーワンス」(著作権ビジネスの側に言わせれば「世界で一番進んでいる」そうですが)をほんの少し緩めて「9回コピー、1回ムーブ、孫コピー不可」なんて不可解なだけ。この程度で「地上デジタルへの移行を知って」なんて笑うしかないですね。視聴者は「朝三暮四」の猿ではありません。「移行したければ勝手に移行して下さい。我々はアナログ放送が止まるまでこれで十分です。」と半分の視聴者が考えていたらどうしますか?今回の調査はまさにそれを示唆しています。

 今まで家庭で録画した番組の編集は自由だったのですから、デジタルでも自由にするべきです。メディア間のコンバートも自由だったのですから、デジタルでも自由にするべきです。それが権利者に無断で商品化されたのなら、それを取り締まればいいだけでしょう。優良顧客である大多数の視聴者を敵視して手足を縛っておくような真似をするから反発を食らうので、多くの視聴者は著作者とアナログ時代のような良好な関係を保ちたいと思っているはずです。

 コピーガードによる「不便なデジタル」が解消されない限り、私はアナログ停波の見直しを主張します。停波が延期されれば、少なくとも普通サイズのテレビとレコーダーの売り上げは回復するのではないでしょうか。
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高橋伸子は消費者代表ではない

2007年08月30日 | たまには意見表明
 コピーワンスの緩和策にユーザーサイドの大御所、著名なAVライターで日本画質学会副会長の麻倉怜士さんから批判が出されています。1世代のみコピー可、つまり孫コピー禁止の状態では編集ができないし、録画内容を次世代メディアに引き継ぐことができないという当然の指摘です。

 8月2日の情報通信審議会第17回総会で、著作権過剰保護システムとユーザーに悪評の高い「コピーワンス(実際はムーブ1回だけ)」が、視聴者に最もメリットのあるコピーフリーやEPNを退けて、「1世代のみコピー9回とムーブ1回」に緩和されることが決まりましたが、やはり視聴者には不評です。このような重要な審議について、麻倉さん以上に適当なユーザー代表はおられないと思っているのですが、審議会の構成員はどのような経緯で決まったのでしょうか?

 「消費者代表」として「生活経済ジャーナリスト」という肩書きの高橋伸子さんが構成員のリストに入っています。でも、この人がユーザーの意見を代弁してくれるのかな?どうも東京電力の生活情報サイト他のサイトで金融商品のアドバイスなどをしている方のようです。東証の社外取締役ですから、セルサイドつまり企業側の人ですよね。

 経歴のどこを見ても、放送のデジタル化や録画、著作権問題を専門にされているようには見えません。こんな人にユーザーの感覚はわからないだろうと思ったら案の定、今回の緩和策に「本当にいいまとめができたのではないか」などと寝惚けたコメントをしています。録画コレクションの保存や編集に苦労したことのあるユーザーなら、こんな気楽な意見を吐くはずがないでしょう。

 こんな企業側の人を入れておいて、「消費者代表とも合意した」などと言うのは強弁もいいところです。私も含めて多くのユーザーは高橋さんに全権委任をした覚えはありません。ユーザーの意向がわかるのなら、こんな著作権者に擦り寄った審議会の結論には抗議して退席ぐらいするのが当然です。

 確かに、麻倉さんは平均的な視聴者ではなく高画質、高音質を追求するトップエンドの人です。しかし長年のライターとしての活動は一貫して映画や音楽の愛好者のために適切なアドバイスを送るものであり、間違いなくユーザーの意見を集約できる人です。コンパクトディスクやビデオディスク、ハイビジョンなど、新しい機器とコンテンツが普及していく過程では、麻倉さんのような先駆者が大きな力を果たしてきたのです。機器メーカーやコンテンツ販売者に対する最高クラスの貢献をしてきたと言ってもいいでしょう。

 麻倉さんのような先駆者に続いて、余裕のある愛好家(マニアなどと呼ばれる)が思い切った投資をして、それから新しい機器が普及していく。これまでの画像・音響機器、特に高価な機器は、こうしたピラミッド型の普及パターンを取ってきました。だから先駆者やヘビーユーザー層の意見を十分に入れなければ、後に続く人がいなくなるのです。

 まあ、著作権者が「顧客は潜在的に泥棒」としか思っていないとすれば残念なことです。高価な機器やコンテンツを購入するヘビーユーザー層は、機器メーカーやコンテンツ販売者にとって有難い顧客のはずですが、彼らには「ヘビーユーザー」=「スキルがある」=「違法コピーをする泥棒」ぐらいの認識しかないのかも知れません。

 麻倉さんのような真のユーザー代表、あるいはユーザーに近いヤマダ電機などの販売業者代表を排除しておいて、著作権者側の意向を酌む人物ばかり集めたとしても、「視聴者も納得した」ことにはなりません。ニセ視聴者が合意したからと言って、デジタル機器が急に売れるようになったり地上デジタルの視聴率が急に上がったりするものですか!

 総務省のやり方は姑息であり、多くの視聴者の顔に泥を塗る行為でした。この上は中途半端な「新規格レコーダー」の売れ行きをじっくり見て、高橋さんが本当に消費者代表であったかどうか確かめさせて頂きましょう。
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地上デジタルの泥沼化は回避できるか?

2007年08月29日 | たまには意見表明
 安倍内閣の内閣改造で総務大臣が菅さんから増田さんに交代しました。今回の内閣改造は参議院選挙での自民党大敗を受けて、いわゆる「お友達内閣」から「働ける内閣」への方針転換を打ち出したものだそうです。その理念からすれば、増田新総務相には期待してもいいのかも知れません。私の関心はタイトルの通り、地上デジタル問題です。これが解決しない限り、リタイア後の楽しみが減ってしまいますからね。

 菅さんが総務相の時に、南米を訪問して日本式の地上デジタル普及を呼び掛ける、というなかなかお笑いのネタになりそうなニュースがありました。公共性の高い無料テレビ放送のデジタル化において、日本方式はアメリカ方式やEU方式に比べて普及が遅れ、今や売り込める相手は南米ぐらいしか残っていない、などと批判されているのは当然ですが、何よりも日本式の地上デジタルは広い地域への普及を想定していないはずだからです。

 だって、狭い日本に乱立する地方局の業務(とそれに対する総務省の利権)を温存するために、わざわざ送信エリアの狭いUHF地上波を採用したのでしょう?広大なブラジル全土を地上デジタルでカバーするためにいくら掛かると思っているんです?

 だいたい、本国の日本でもずるずると巨額の国費投入が続き、5年以上も前から地上デジタル事業の泥沼化には強い批判が出ています。ここまで数千億円を表に裏に注ぎ込んでおきながら、またも追加で500億円を要求するらしいです。これを見たブラジル政府が、本気で日本方式を検討するとはとても思えません。

 今度の総務相である増田さんは前岩手県知事であり、拡大する経済格差にあえぐ地方の惨状をよく知っている人だと言われています。菅さんが「じゃ、あと500億円ね!」と要求した金額が、地域経済の規模と比較してどれだけ大きなものであるかもご存知でしょう。500億円あれば、地方でどれだけの農業振興ができるか、基幹病院が整備できるか、港湾が整備できるか。たかが数百万円とか数千万円の予算が不足して、学校を維持できない自治体だってあるでしょう。それを考えれば、地上デジタルへの「捨て金」に終わりそうな巨額の支出を許すわけにはいきません。

 政府筋では「10年単位で地域格差の拡大傾向は明らかではない」などという無理に作ったレポートが出されているようですが、統計を悪用した誤魔化しなど、丁寧に検証すれば論破できるものです。地域格差は間違いなく拡大しています。

 ここまで考えると、増田総務相が地上デジタルへの際限のない公金投入に批判的な立場を取るのではないか、と期待が持てます。地方では「あと4年足らずでアナログ停波」の縛りがどこへ行ったのかと錯覚するほどデジタル移行が進んでいません。アナログ放送にそこそこ満足しているし、わざわざ高価なデジタル機器を買い揃えるほどの余裕がないのです。

 本当に2011年7月までにアナログ停波が可能だと思っている人は、東京と地方の温度差をわかっていないのでしょう。地方経済を活性化するためには財源委譲などの課題が多数あり、住民の関心はテレビの画質改善などにはありません。内閣改造により、アナログ停波時期の見直しがいよいよ現実のものになってきたと思います。
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中日新聞もアナログ停波延期を主張

2007年08月20日 | たまには意見表明
 ついに新聞でも地上アナログ放送の停波時期見直しを支持する社説が載りました。内容は回りくどい言い方で視聴者の金銭負担を取り上げたもので、「今更何を」という程度のものですが、有力新聞がはっきりアナログ停波の延期について言及したことは重要です。

 テレビ局と持ちつ持たれつの新聞社ですから、奥歯に物の挟まったような言い方しかできないでしょうが、新聞の取り柄としてデータは正確だと思います。それによればデジタル対応受像機の普及率はわずかに27%であり、アンテナ工事などができていないものを差し引けば、もっと低いはずです。

 2台目、3台目として使われている小型テレビについてはデジタル対応がほとんど進んでいないのが実情でしょう。アンケートで国民の43%がアナログ停波に反対しているのは当然のことです。

 もう総務省がいくら笛を吹いたところで、たいして実益のない地上デジタル導入に視聴者はついて行けないことを認めるべきです。人気女子アナが浴衣姿でチラシを配ったところで大勢は変わりませんから、いい加減に視聴者を誤魔化すのは止めましょう。コピーガード導入と受信料徴収のためのデジタル化に、国民が機器の買い替えや税金を通じて費用を負担するなど筋が通らないじゃないですか。

 ここはアナログ停波を棚上げにして、本当に多くの国民にデジタル化のメリットがあるのか見極めるべきです。中日新聞の社説は小学生でもわかることを言っているだけだと思います。地方紙である中日新聞のこの社説が、現在「地上デジタル」でGoogle検索するとトップ10に入ってくるんですから、いかにアナログ停波問題が関心を集めているかわかります。

 新聞が動くと、今まで様子見をしていた一般視聴者もアナログ停波反対に傾き始めるのは確実です。総務省さん、多勢に無勢ですよ。それでも「国策に誤りなし」ですか?
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テレビ関係拾い読み

2007年08月08日 | たまには意見表明
 テレビの文字放送とかデータ放送とか、一般視聴者からはほとんど興味を持たれないサービスが昔からありましたが、今度はインターネットに接続することでビデオが見られるようになるんだそうです。

 既に普及している普通のテレビやパソコンには対応せず、これから発売される「アクトビラ ビデオ」対応の大画面テレビをインターネット回線に接続した場合に限って有料でコンテンツが視聴できるようになるんだそうで、相変わらず既存の放送局などに配慮して閉鎖的なサービスにとどまっています。

 このサービスがあるから新しいテレビを買おうという人もいないでしょうが、申し込みは無料なので、「お申し込みキャンペーン」などで賞品を出せば、登録だけはしようという人はいるでしょう。でも、こんな調子ではいずれもっと開放的なビジネスにねじ伏せられるのは目に見えています。家電業界はMP3プレーヤーの苦い教訓から何も学んでいませんね。

 もう1つ、懲りないなあと思ったのがNHKの「未登録視聴者のテレビ画面を妨害しよう」という計画。来年度から導入とあります。1台1台の受像機を判別して画面を妨害するためには、テレビに固有のIDが必要です。つまり、廃止に傾いていたB-CASカードの延命措置なんですね。そうまでしてB-CASという非効率で怪しい子会社を存続させたいのでしょうか。

 NHKによれば「これで契約率が上がるはず」としていますが、反発を食うのは目に見えています。これでまた地上波のデジタル移行を見送ろうという視聴者がいるでしょうし、B-CASカードシステムを残せば、総務省が恥も外聞もなく家電メーカーに迫った「5,000円以下の地上デジタルチューナー」はコスト的に更に困難になります。

 総務省の地上波デジタル普及の意向とNHKの料金徴収の動きがばらばらになっているわけで、こんな右手と左手が矛盾する動きをしているようでは、アナログ停波の延期が視野に入ってきたようなものです。

 その5,000円チューナーにはメーカー各社が反発しているそうです。当然でしょう。メーカーとしては地上デジタルへの移行で大きな買換え需要を期待しています。大画面のハイビジョンテレビや大容量のレコーダー、次世代ディスクの販売を当て込んでいたのに、赤字で5,000円のチューナーを配って今までのテレビを見られたのでは、何のために巨額の投資をしてきたのかわかりません。

 だいたい、アナログ停波予定まであと4年ある段階で、現行の4分の1の価格でチューナーが発売されるとわかれば、間違いなく買い控えを誘発します。メーカーにこの条件を受諾させるなら、相当に大きな「お土産」が必要なはずですが、支援措置については何も報道されていません。手ぶらでメーカーに出血奉仕をさせようとは、総務省もかなり焼きが回ったと思います。先日の「コピーナインタイムズ」の答申を白紙に戻してコピーフリー、あるいはEPN導入ぐらいしないと、メーカーとしても動けないのじゃないでしょうか。
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電波とナンバーはオークションで

2007年07月27日 | たまには意見表明
 放送局の電波利用料値上げが検討されているようです。電波(もっと正確には電波の利用権)は技術の進歩によって拡張可能な資源ですが、それでも無限ではありません。国民の貴重な財産なので、有効に利用されるのは大事なことです。

 今まで電波から最も多額の収益を上げてきたテレビ局は、昔からの既得権で広い帯域を占有する割に利用料が安く、驚くなかれ電波利用料の9割は携帯電話(キャリアと利用者)が負担していました。これを受益に応じて是正しようというのですから、まともな話だと思います。

 日本の電波利用は主に免許制になっていますが、どの帯域をどの用途あるいは業者に割り当てるかというのは総務省の裁量であって、市場原理が働いていないことが既得権的な非効率を生んでいるという指摘があります。

 有効に使って収益を上げる見込みがあるのなら、広い帯域を使って多額の利用料を国に支払えば良いし、既存テレビ局のように必要帯域がむしろ狭くなっているのなら、空いた帯域を返上して他の業者にビジネスチャンスを与えればいい。商業地取引のような自由な市場が存在しないから、電波の有効利用と言うよりも監督官庁との癒着が進んでしまう。従って周波数割り当ては「裁量」ではなくオークションで。当然のことです。

 電波利用ほどの利権はありませんが、もう1つオークションを導入して頂きたいのが自動車の登録番号。つまりナンバーです。規制が緩和されて、希望番号を抽選できるようにはなりましたが、香港(中国)のように希望番号を自由にに入札できるようになれば、余裕のあるユーザーやどうしても希望番号が欲しいユーザーには朗報でしょう。香港では高いものになると数千万円の値段が付くそうで、政府の貴重な財源になっています。警察官の増員が予算の制約で難航している現在、検討の価値は大いにあると思います。
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唇滅びて歯寒し

2007年07月24日 | たまには意見表明
 ついに法律で明示された地上アナログ放送の停波期限までちょうど4年、ということで新聞でもネットでも関連記事が目に付きます。総務省の責任で放送局側の整備が着々と進んでいるようですが、問題は受信する方です。今の普及ペースでは期限に間に合わない世帯が千万単位で出てくる恐れがあるからです。総務省としては何としても消費者に機器整備を促したいところですが、逆に「買い控え」を誘発するようなニュースが目立ちます。

 タイトルは「唇滅べば歯寒し」とも言いまして、原典は中国です。唇と歯は助け合いの関係にあり、動きが干渉して邪魔になることがあっても、片方がなくなれば残った方ももたない、という意味の諺です。

 放送番組やレンタル、あるいは販売されているDVD、ビデオなどのコンテンツを制作し販売する側の放送局や音楽産業(まとめて著作権者)とテレビや録画・録音機材を製造販売するメーカー団体(代表してJEITA)はコンテンツの普及を通じて長らく協力関係にあったはずですが、このところ非常に険悪な空気になってきました。

 HDD付DVDレコーダーのコピー制限、通称コピーワンスは明らかにレコーダー販売の妨げとなっており、ユーザーに後押しされる形でJEITA側は見直しを希望していましたが、「コピーガードを外すと海賊版流通の温床になり著作者の権利が守れない」とする著作権者側は交渉の席に着きませんでした。実はコンテンツを創造する著作者と、その権利を享受する著作権者とは違います。著作権者はこうした論理のすり替えで、今まで視聴者を欺いてきました。ややこしいですが、彼らが守りたいのは著作者の権利ではなく、著作権者の権利です。

 このままコピーワンスが定着し、レコーダーの販売が先細りになるのと並行して、電波によるテレビ放送やコンテンツ販売も先細りになるのかと思われたのですが、総務省の後押しで何年越しかの交渉がやっと一応のまとまりを見せました。それが「コピー9回とムーブ1回。ただし孫コピー不可」というコピーワンスに毛の生えたような緩和策です。これでどの程度視聴者が騙されるかが問題なのですが、早くも批判が出ているようです。

 孫コピーができないということは実質的に編集ができないということです。また、この案では、コンテンツのコピー回数をどこかにカウントする機能が必要なので、現行のレコーダーの制御ソフト(ファームウェア)を大幅に変更する必要があります。恐らく今まで市場に流通してきた280万台(JEITAによる統計)の地上デジタルチューナー付レコーダーでは緩和の恩恵がほとんどないと予想されています。

 これでは、地上デジタル対応レコーダーを購入しようとしている人は、緩和策対応機が出るまで待とうとするでしょう。並行して検討されてきた(らしい)、B-CASカード不要のデジタル機器も製品化が待たれており、それでなくても買い控えが起こりやすい状況なのです。今でさえ4年後のアナログ停波に間に合わないほど代替が進んでいないのに、それに輪を掛けた問題続出でメーカーは新製品を投入しにくい状況です。

 しかも著作権者とJEITAの綱引きはまだ終わったわけではなく、更に混乱する可能性もあります。それにしてもこのような国民多数が利害を有する政策が、利権者同士の会合で決まってしまうこの国の政治もどうかしています。一応、消費者団体も交渉に参加しているようではありますが、その「消費者団体」は我々一般消費者の意見を汲み上げようとはしていません。主張しているところを聞いてみると、消費者と言うよりは教育関係者などのようです。これで「消費者も納得した」などと片付けられたらかないませんね。

 今のところ、コンテンツの消費者である一般視聴者の立場に近いのがJEITAです。著作権者はこのJEITAを叩いて悪者に仕立て上げることで、厚かましい過剰権利の主張を通そうとしているようです。こんな乱暴な言い方はしたくないのですが、消費者の代表もなしに負担だけさせられる不合理は民主主義の原理に反しています

 JEITAを攻撃して、世界でも珍しい一般地上放送の完全コピーガードを維持したところで、視聴者が地上デジタルにそっぽを向けば、受信機やレコーダーは売れませんし、機材に依存してきたコンテンツも売れません。著作権者はJEITAに参加する機器メーカーを衰退させておいて、自分は生き残れるとでも思っているのでしょうか?まさに「唇滅びて歯寒し」です。

 不十分な緩和策ではデジタル受信機の普及は進みませんし、既存のレコーダーも救済できません。JEITAとしては消費者の不満をバックにより強い交渉に出たいところですが、著作権者も強硬です。

 この膠着状態を打破するためには、やはり圧倒的に数の多い一般視聴者の代表を入れるか、一時休戦して広く視聴者の意見を汲み上げるかするべきです。視聴者は組織化されていないから参加させにくい、ということなら、視聴者に最も立場の近い家電小売業界の代表を入れたらどうでしょう。ヤマダ、コジマといった大規模小売業は、流通業全体の中でもトップランクに近いほど成長しており、彼らの意見を無視してデジタル家電の普及を図ることなど不可能です。今までこれと言って政治的な権力を行使して来ませんでしたが、今回は視聴者に代わって現場の声を総務省に届けて欲しいと願います。ヤマダ電機さん、ご一考願えませんか?
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まとまらないコピーワンス緩和

2007年07月18日 | たまには意見表明
 さて、当面は村井純さんの音頭取りで「コピー回数緩和、ただし孫コピーなし」で合意するのかと思われていたデジタルビデオレコーダーの仕様が、また混乱してきました。著作権者の団体が総出で緊急声明を発表しJEITAを批判、というのですから穏やかではありません。相当に強い態度に出ています。

 JEITAというのはテレビやレコーダーなどの機器を作っているメーカーの団体ですね。総務省の情報通信審議会を巡って著作権者団体とJEITAの対立が鮮明になってきました。総務省や文化庁は、組織されていない一般エンドユーザーなど相手にもしてくれませんから、著作権者団体と互角に渡り合える最大の交渉相手がこのJEITAです。

 デジタル放送の暗号化やコピーワンスで著作権者団体に大幅に譲歩したメーカー団体が、今度は著作権者団体と折り合おうとしないのですね。もし著作権者団体が、「今度も強気に出れば有意な交渉になるだろう」と期待しているのなら当て外れです。視聴者の多くに十分な情報がなかったコピーワンス導入時と違って、今の視聴者はコピーワンスの不便を散々味わっていますし、外国の状況もわかっていますから。

 メーカーの事情は簡単です。デジタルテレビもレコーダーも売れていませんから。そりゃ少しずつは売れていますよ。でも古くなったのを更新するという消極的な需要が主体であり、地上デジタル導入時にメーカーが期待したような積極的な消費行動には繋がっていません。メーカー団体にしてみれば、「コピーワンスで多少不便になっても、デジタル化の高画質の魅力で高額商品が売れる」と読んだからこそ著作権者団体に大幅譲歩してコピーワンスで手を打ったのです。それが売れないのですから、今度こそは小出しの緩和策では納得できないでしょう。メーカーの声は消費者の声でもあります。

 そう考えると、この「緊急声明」とやらの独善的な調子が目に付きます。「JEITAはコピーワンスの見直しを望んでいないのでは」なんて、寝ぼけるのもいい加減にしましょう。視聴者に宣戦布告をしたのは誰だったのでしょうか?「海賊版は“海賊版業者”が作るものというのは過去の話。デジタル機器に詳しい若年層も増え、一部の不届き者の愚行でなく、だれしもができうるものだ。」という日本音楽事業者協会(JAME)の「視聴者性悪説」には気分が悪くなります。理屈としては正しくても、もう少し言い方というものがあると思います。コンテンツの対価を支払っている一般視聴者について、「顧客」という概念はないのでしょうか?

 このJAMEというのは感心するほどがめつい団体で、HDDなど汎用のストレージからも補償金を、という運動の先頭に立っています。コンテンツのお陰で機器が売れるのだから、メーカーがコンテンツホルダーに補償金を支払うのは当然なんだそうです。それじゃ、機器のお陰でコンテンツが売れるのだから、JAMEは売り上げの一部を機器メーカーに補償してはどうですか?JAMEは「世の中は持ちつ持たれつ」ということが全くわかっていないようです。有料コンテンツをコピーしていないHDDにも課金なんて、ともかくHDDがそこにあればカネが取れるとでも思っているのでしょうか?これでは暴力団の「みかじめ料」と変わりません。

 芸団協の「たとえ製品がラインに乗った後だとしても、必要とあれば見直さなければ」という言い方は、もうメーカーに喧嘩を売っているとしか聞こえませんね。レコーダーを買うたびに録画回数の制限が違うなんてことになれば、市場はこの上なく混乱します。誰も新製品なんか買いませんよ。レコーダーやディスクが売れて、応分の録画補償金が欲しいならアメリカ並にコピーフリーにするか、せめてJEITA案のEPNにならなければ整合性がありません。EPNならコピーワンス機でも内部のソフトウェア(ファームウェアと言うらしいです)書き換えで対応できるものが多いそうなので、既にコピーワンス機を買ってしまった視聴者を救済するにはEPNが最も合理的なのです。

 地上デジタル普及を急ぐ総務省の意向を受けて、とりあえずは決着と見えた仕様もまだ動く可能性があり、それにつれて製品の発売もずれ込むことが予想されます。私は編集のできないコピー回数緩和なんて有難くないので、緩和対応機が発売になったら、昔のVHSダビング用に在庫処分のコピーワンス機でも狙おうと思っていたのですが、どうやらお預けになりそうです。まあ、地上デジタルの普及が遅れるのは一向に構いませんが。

 それにしても実感するのが、「一度譲歩した後に取り戻すのは至難」という昔からの真理ですね。著作権者団体のような利権団体を相手にする際は、譲れば譲るほど新しい権益にしがみ付く人が増えるので、次の交渉ではより一層の譲歩を迫られます。今にしてみればメーカー団体が最初に譲歩し過ぎたのは大きな誤りでした。外交にしても、予算配分にしても、これと同じような交渉失敗をして既得権を作ってしまう例が多いのではないでしょうか。
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「ETCからお金を取って地デジを整備しよう」

2007年07月18日 | たまには意見表明
 私は基本的にノンポリなので、「たまには意見表明」と言うほどにしか政治関係に興味を持つことはないのですが、最近は総務省がいろいろやってくれるので、呑気に構えていられなくなりました。今度はETCに利用料が掛かるという読売新聞の記事です。

 地上波テレビ放送の地上デジタルへの強引な切り替えは明らかに拙速であり、これまでも放送局の陰に隠れてコピーガードを導入するなど、視聴者不在で政策が進んできました。地上波放送のデジタル転換には膨大な予算が必要なのですが、どこから予算を捻出するのかと思ったら、今度はETC利用者に負担させようと思っているらしいです。これが確かな情報だと言うのは、こともあろうに経済産業省が噛みついているから。いくら縦割り行政で「隣は何をする人ぞ」のお役人社会でも、これだけ不合理なことをされては黙っていられないというところです。

 ETCの電波利用料については3年前にも話題になっているのですが、この時は総務省の係官がのらりくらりとかわしています。汚いですねー。「徴収しない」と言い切らずに、「(今のところ)徴収案の非対象である」などとごまかして、その舌の根も乾かない3年後に具体的な政策になって出てくるんですから。

 まだ具体化してないって?そんなはずはない。役人同士でお互いの思考経路を熟知している経済産業省からクレームが付いたのが何よりの手掛かりです。一般国民が抗議したところで、「そんな話は出ていない」とはぐらかし、根回しが済んで実行段階になってから「もう決まったこと」と利権者以外を門前払いするいつもの手口でしょう。

 手続き的なことはともかく、ETC利用者への電波利用料課金が不合理なのは、微弱電波であり帯域を占有するわけではないという3年前の総務省自身の説明に加えて、ETC利用者は、現在総務省が巨費を投じて整備している地上デジタル放送の直接の受益者ではないからです。電波帯域の占有に適正なコスト意識が必要などと言っていますが、それなら最大の受益者である放送局の電波利用料が法外に安く、電波利用料のほとんどが携帯電話から徴収されている不公平をどう説明するのでしょう。

 このような「取れるところから取る」「利益はファミリーで山分け」式の発想がまだまだ温存されていることに国民は怒りを表明するべきです。放送事業者間の競争を排して弱小地方放送局をそのまま温存する、古い「護送船団方式」は電波行政を亡霊のように支配しており、全国ネットのプログラムをわざわざコストが高くカバーエリアの狭い地上波で送信する仕組みは、彼らの「電波利権」を継承するためのものです。このために携帯電話やETCの利用者が上納金を出すいわれはありません。ETCの電波利用料徴収に反対します。
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地デジ9層倍

2007年07月13日 | たまには意見表明
 薬九層倍(くすりくそうばい)という四字熟語があります。昔から薬は原価に比べて売値が非常に高く、売れればぼろ儲け、という意味で使われます。今の薬はほとんどが開発費と流通経費ですから、製造原価がいくら、とか言ってもほとんど意味はありませんけどね。

 これに語呂だけ似た話が、地上デジタル放送のコピー制限を、悪評高い「コピーワンス」から「9回までコピー可能。ただし孫コピー不可」に緩和したらどうか、という総務省の関連業界への要請です。「著作権団体や放送局も歩み寄る見通し」ということはつまり、既得権をほとんど失わないということでしょう。他の記事では「10回まで緩和」となっているものもありますが大同小異です。

 「1回から9回に緩和」と言えば9倍も自由になったのか、と錯覚しますがさにあらず。HDDからDVDへのダビングができるだけで、孫コピーは作れません。従って、HDD上で編集したものをDVDに整理するとか、編集を繰り返して自分なりの保存板を作ることができません。例えば私がよく録画する格闘技関係では、2時間番組で正味の試合は30分そこそこなんてことが珍しくありません。だから編集できない子コピーばかりができてもたいして有難くないのです。また、レコーダーで録画しておいて、編集には機能の充実したパソコンを使うということもできません。アナログに比べれば不便はやっぱり不便です。

 そもそも無料の地上波にコピーガードを付加しているのは日本だけ、と読売新聞の論調は厳しいものがあります。他の大手新聞が系列の放送局に遠慮して記事すら載せないのに比べると、この単刀直入な姿勢は大いに評価できます。

 放送局が、このような一般視聴者をも権利侵害者として敵視するような姿勢を続ける限り、視聴者がインターネットテレビに期待するところは大きいでしょう。「あるある大事典」の失態を契機にわかったことは、スポンサーの花王が1回の放送当たり1億円もの広告費を支出していたにも関わらず、テレビCMの元締めである電通とキー局、下請を介して制作者であるプロダクションが受け取ったのはわずか860万円だったという驚くべき利権体制です。これに比べれば、「薬九層倍」なんて可愛いものではありませんか。

 下請クリエイターを安くこき使うことしか考えていない放送局が、「著作者の権利を守るためにコピーガードに理解を」なんて笑い話もいいところ。彼らは広告屋としての独占的な地位を守りたいだけです。1億円でいい番組作りを期待していたであろう花王も舐められたものです。

 踏みつけにされた視聴者とスポンサーの利害が一致する解決法とは何でしょうか?それがまさに、電通と既存の放送局を通さないインターネットテレビです。例えばソフトバンクがスポンサーを募って、海外から日本人向けにインターネット放送を始めたら?

 恐らく、オリンピックやサッカーワールドカップといった最強のコンテンツの入札が次にあれば、電波利権にしがみ付く旧勢力と、インターネットを武器とする新勢力の逆転を象徴するイベントになるのではないでしょうか。日本での放送権をめぐって、これまでにない巨額の入札が行われるでしょう。地上デジタルへの転換で体力を消耗した旧勢力に対して、新勢力は設備投資が遥かに少なくて済みますし、既存のテレビから家庭の娯楽における覇権を奪い取ろうというIT企業からの出資が期待できます。インテルやマイクロソフト、グーグル、アップルなどの資金力があれば、オリンピックなど有力イベントの放送権を独占して日本の民放キー局を一気に葬り去ることは十分に現実性があります。

 そんなシナリオを回避したいなら、コピーワンスと五十歩百歩の「9回まで緩和」や「10回まで緩和」ではなく、アメリカ並みのコピーフリーにするのが最善の選択です。ここで視聴者は甘い顔をせずに、腰砕けになった放送局や総務省を追い込んで、視聴者の側を向いた制度に変えさせるべきです。ええっ、どうせインターネットテレビで何でも見られるようになるなら地デジなんかどうでもいいって?まあ、そりゃそうなんですが。
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具体論のない南山小学校説明会

2007年05月14日 | たまには意見表明
 来年から開校予定で、名古屋の保護者に大きな注目を受けている南山大学附属小学校(通称は南山小学校)の説明会に行って来ました。入場者が3,000人を越える大規模な説明会で、これでは具体的な話は出ないだろうなと予期した通り、インターネットのサイトを見ればわかるような理念の説明ばかり。退屈しました。

 名古屋市内に男女共学の私立小学校は今のところありません。だから需要はあるのだと考えることはできるでしょうが、公立の小学校で満足している人が多かったのも事実だと思います。名古屋市は初等教育の拡充に何十年も力を注いできましたから、私が子供の頃のようなマンモス小学校の問題は解消され、分散されたことによりほとんどの地域で歩いて通学できるようになっています。設備も見違えるほど充実し、体育館やプール、特殊教室が整備されています。

 私の小学生時代は1クラス42人から44人という編制が当たり前だったのが、極楽小学校の入学式に出てみれば1クラスがわずかに24人。これなら格段に教師の目が届くようになります。ちなみに南山小学校では1クラス30人を予定しています。

 これだけ手厚くなった公立小学校での教育と比較して、敢えて私立小学校を選ぶ理由があるのか?その問いに答えて欲しかったのですが、具体的にわかったのはキリスト教教育の施行と国語の重点化、1年生から英語があること、制服、制帽、指定の通学かばんと靴が義務付けられていることだけでした。ただ、1年生からの英語は週にわずか2時間ですし、国語も読み書きを奨励するというだけで詳しい説明はなし。授業にはたいして特徴がないなと判断しても仕方がないでしょう。

 すると、「全教員が宗教教育を担当する」と言われたように、宗教的涵養こそが特色ということになります。オーソドックスな感じの制服については、「遊びたい盛りなのに暑くて窮屈そうで気の毒だな」としか感じませんでした。決して製作担当の方を批判するわけではありません。格調を感じさせるデザインで、記念写真を撮るには映える制服でしょう。しかし小学生にとって制服そのものが、毎日必要なものか疑問です。

 繰り返し強調されたのが、キリスト教の精神を教育の根底に据えること、次が小学校から大学あるいは大学院までの南山学園による一貫教育を受けることにより、社会でリーダーシップを発揮することが大きな目標であること、そのため児童ばかりでなく家庭も南山小学校の理念を理解して教育方針に沿って、小学校と共に教育を分担して欲しい、ということです。

 南山小学校では毎日朝、昼、夕に簡単な礼拝があります。また毎週1回、もっと正式な礼拝があり、宗教の時間が持たれます。ロビーや各教室には小学校のシンボルである聖家族像が飾られ、宗教教育の総責任者として南山教会の神父が当たります。つまり、キリスト教精神にどっぷり浸かるわけであり、家庭にも協力が求められるのです。例えば、南山教会推薦の副読本を家庭で読み聞かせるようなことが期待されているのでしょうが、これは自信がありませんね。自分が信じていないキリスト教の価値観を息子に押し付けることはできませんから。

 キリスト教を否定するわけではありませんが、小学生のうちからキリスト教に触れることで他者への思い遣りが生まれる、という短絡的な説明には納得できないのですよ。反証としては、ジョージ・ブッシュがキリスト教徒であることを挙げれば十分でしょう。

 これから長い人生を競争の中で生きていかざるを得ない子供の親として、南山小学校への長い通学時間やナイーブなキリスト教的価値観、公立小学校より多いと予想される行事(多くが宗教関係でしょう)、窮屈な制服などは、未来を自分の力で切り拓くためのむしろ障害になる可能性があるとすら危惧しています。例えば、高学年になって主要科目の勉強量を増やそうとした時に、遅くまで小学校に縛り付けられるよりも、最適な学習塾に通った方が効果的でしょう。

 南山小学校では2時間ほどのアフタースクールが計画されており、この中には有料の補講授業もあって、「学習塾などに通わなくても済むようにする」と説明がありました。この説明自体、学習塾や予備校の存在を見下すような古臭い立場が感じられます。全人教育の場としては学校の存在は揺るがぬものの、個々の教科に対する理解の深さと指導力では、指導の専門家である学習塾や予備校の講師に一日の長があることは経験者なら自明だからです。東海学園の先生ならそんな馬鹿なことは口にしないでしょう。

 だいたい、2時間のアフタースクール枠内で、部活動や宗教行事とも時間を取り合い、長期休暇中は開講しないなんて、勉強を舐めているとしか言えません。南山小学校の関係者各位にはぜひ再考をお願いしたいです。

 南山小学校入試対応クラスなどを準備した学習塾などの消息筋によれば、南山学園は小学校を開校することで南山大学への進学者を安定して確保したい希望があるようです。これは頷ける話で、南山中学および高校を出た生徒が、学園の希望するほどは南山大学を志望しない傾向は昔から指摘されています。

 中部地区の私立大学勢力図はかなり書き換えられつつあり、例えば敢えて都心に回帰してビジネスの即戦力を養成する立場を打ち出した名古屋商科大学とか、積極的な投資と名古屋大学の協力により大規模な研究施設を整備した中部大学(中部工業大学から改称)など、「動かない者は負ける」という厳しい競争の時代に入っています。このような状況で、良家の子女だけを相手にしていたような伝統の南山大学も、変わらなければ埋没してしまうという危機感を抱くに至ったと思われます。

 私立学校を新設(戦前にも南山小学校があったので、正確には再設です)するとして、最も特色を出しやすいのは進学実績です。つまり進学校にしてしまうことです。しかし南山学園の各校のうち、最も高い進学実績を持つのは南山中学および高校の女子部です。もちろん南山小学校は私立小学校として学力の充実を図るとは説明されていますが、南山中学と高校の男子部が必ずしも進学校としての実績を示していないことを考えれば、小学校で頑張ったところで、これには受け皿がないと言うべきです。

 進学校として特色を出せないのなら、キリスト教教育を充実させようという手段は、南山学園としては至極当然の結論でしょう。小学生のうちに十分にキリスト教に馴染んでくれれば、南山学園への忠誠度も高くなり、学園が望む大学までのエスカレーター進学を志望する生徒を安定して確保できるでしょう。もし、この学習塾の読みが当たっているとしたら、学力の充実という方針は話半分で聞いておくしかありません。南山高校で外部の大学を志望する生徒が増えるのは、南山大学の安定した学生確保とは相反するからです。

 南山学園とは反対のモデルが東海学園です。男子生徒限定ですが、東海中学、高校の進学校としての評価は高く、それが仇となって同学園の悲願であった大学開設の計画が頓挫したという話を聞いています。内部進学者を確保できないような大学なんか作っても意味がない、という関係者やOBからの批判が強かったそうです。

 次の説明会は7月に予定されています。どうか今度はもう少し具体的な話が欲しいものですね。
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自滅に突き進む地上デジタル放送

2007年04月11日 | たまには意見表明
 地上デジタルテレビへの全面移行まであと4年ちょっとと法律で決められています。この期限を過ぎるとアナログテレビ放送は停波され、デジタルチューナーを持たないテレビは映らなくなります。またデジタルチューナーを持たないビデオ機器は録画ができなくなります。

 そして何より、デジタル受信用のアンテナやCATVと接続していないと、デジタル対応のテレビでも映らなくなります。地上デジタルチューナーの値段はかなり下がってきましたから、いざとなれば政府がこれに補助金を出してばら撒くことも可能(もちろん税金の無駄遣いです)ですが、アンテナは個々に最適な工事が必要なので、デジタルチューナー単体やデジタルチューナー内蔵テレビ、デジタルチューナー内蔵ビデオの普及に比べると大幅に遅れています。

 極楽家のある名古屋市では、瀬戸のデジタル放送タワーから地上デジタル放送が送信されています。これはアナログUHFの八事送信所とは方角が明らかに違うので、各家庭のUHFアンテナを見れば地上デジタルに対応しているかどうかは一目瞭然です。周りを見てみると、これがほとんど普及していないんです。

 恐らく、他の地方でも似たような状況でしょう。このまま2011年を迎えると、テレビを受信できない世帯が大量に発生することは必定であり、どうしても予定通りにデジタル移行を完了したいのなら、総務省は何が何でも各家庭のデジタル移行へのインセンティブを高め、その障害を取り除くべきです。

 ところが放送業界の圧力で、それと逆の政策が水面下で進んでいることが報道され、記事を読んで唖然としました。

 地上波テレビをアナログからデジタルに移行して、多くの人が不便を指摘しています。その最大のものが視聴者の間では悪名高いコピーワンスシステムです。これは地上デジタルの全番組に採用されており、一度録画した番組をコピーできないため、バックアップや編集に大きな制約があるという強圧的なコピーガードです。

 放送局側のごり押しで、法律にも技術仕様にも明示されていないこのコピーワンスが一方的に導入されたのは、著作権保護のためと説明されています。アナログ時代のように自由にコピーができてしまうと、優良な番組が制作できなくなるのだそうです。

 そんなわかり切った嘘を!と思うのが当然です。

 まず、デジタルコピーを制限したところで、画質を落としてアナログ処理してしまえば幾らでもコピー可能です。"YouTube"を見てもわかるように、面白半分でコピー画像を利用する人は画質なんか二の次ですから、デジタルコピーだけブロックしても効力はありません。粗悪なコピービデオを販売する人も画質なんか重要視していないでしょう。画質劣化コピーを防ぐことは技術的に不可能ですので、これに対してコピーワンスは無力です。

 番組に出演する俳優やアーティストに聞いてみたいですね。番組のデジタルコピーが不法に流通することは確かに損害でしょう。しかし劣化コピーが流通するのに耐えられますか?画質、音質が大幅に劣化したコピーが出回って、「これがXXXのライブか」なんて言われたら平静を保つのは難しいでしょう。それより、デジタル指紋システムなどで違法コピーを追跡して損害賠償を請求できるようにした方が有効なのではないでしょうか?

 それから、家庭内のコピーすらブロックすることが、出演者の利益になるでしょうか?日本と違って放送局より制作側の力が強く、出演者の権利意識も高いアメリカですら、無料の一般放送でコピーガードなど採用していません。ある程度のコピーは著作権者の利益になるからです。

 考えてみて下さい。地上デジタルを最初に導入した人が、親戚や友達にDVDをコピーしてあげて、「見てごらんよ。本当にきれいなんだから!」と広めてくれる。これは出演者のみならず、地上デジタルの最も有効な宣伝になります。出演者に興味を持って、今度はCDを買おうとか、映画を見てみようとか考える人も出てくるでしょう。これまで禁止することが、マーケットの広がりに大きな障害となっていることは明らかです。コンテンツは売れてなんぼ、なんです。囲い込んでも利益にはなりません。

 従って、コンテンツ産業を振興する総務省としてはコピーワンス廃止以外にまともな選択肢はなかったはずです。それなのに今回の委員会の方向は一体何でしょうか?相変わらずコピーに大きな制約を掛けたまま、第一世代とか第二世代とか、しかも第一世代でも何回コピーしたとか、こんな複雑なことを視聴者に押し付けようとしているのでしょうか?

 明言しますが、消費者は難しいものには手を出しません。

 DVDレコーダーの普及が伸び悩んでいる原因は、コピーワンスの他に複雑なディスクの互換性があると言われています。DVD-R, DVD+R, DVD-RAM, DVD-RWとそれぞれ使い方が異なり、しかも単層あり二層あり、ダビング速度も2倍速、4倍速、8倍速、16倍速があり、データ用とビデオ用があり、CPRM対応と未対応あり、録画方式もビデオモードとVRモードありで、一度どれかに決めてしまえば他のフォーマットを試すなんて面倒でやってられません!

 そこに複雑な「著作権保護」システムを押し付けようと言うのですよ。これで地上デジタルの普及が促進されるとか、レコーダーが沢山売れるとか、視聴率が上がるとか馬鹿なことをよもや期待していないでしょうね。

 はっきり言って、コピーワンスやB-CASシステムは著作者や著作権者の利益のためではなく、放送局の利益のためのものです。テレビ広告を収入源とする放送局にとって、視聴者が古い番組を何回も楽しんで見るなんて迷惑そのもの。新しい広告を見てくれなければ、テレビ広告屋としての収入が増えないからです。どんな下らない番組だろうが、手抜きの番組だろうが、新しければ新たな契約が取れるのです。

 そのテレビ広告屋としての独占の地位を脅かすのが、他でもないインターネットですね。ブロードバンドを利用したテレビ放送は世界中で普及が始まっており、中にはバドワイザーで有名なビールメーカー、Anheuser-Buschが自前でネット放送局を始めてしまうなど、既存の放送局離れが着々と進んでいます。

 こうしたネットの攻勢に対して、今回の日本の放送局のごり押しは、視聴者に支持されることのない、いかにも無駄な悪あがきに見えます。幸い、日本の放送局はコンテンツホルダーとしても実績があるのですから、今までのように配信業務を独占して広告料を取るビジネスモデルから、間口をネットなどに広げてコンテンツを販売するビジネスモデルに移行することは可能なはずです。チャンネルが増えれば増えるほど、優良コンテンツは貴重になるはずではないですか。

 それなのに、今のところ放送局がやっているのは、間口を狭くしてスポンサーが他に流れないように抑えているだけ。こんな封建主義ではネットにおける主導権を取れるはずがありません。このままでは隆盛を誇ったテレビ局も、新しい波に乗れずにネットに呑み込まれてしまうのかと思えば感慨もあり、今回の委員会の方向が地上デジタルの普及を阻害し、ひいてはネットという強敵の前で自滅するのが暗示されたように感じて暗澹たる思いです。
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ついに地方放送局合理化か

2007年02月13日 | たまには意見表明
 総務省が放送局の株式を保有する持ち株会社を解禁するにあたって、当初検討されていた「20%未満」の制限が大幅に緩和され、巨大な放送持ち株会社が生まれる可能性が高くなってきました。

持ち株会社解禁を検討
保有比率を20%未満に
保有比率の大幅緩和

 メディアの独占、寡占を防止する意味合いから今まで厳しい制限があったものですが、今後は独占の弊害に目をつむってでも経営を合理化する方向に向かうでしょう。目的は、地方局の救済です。「稼ぐ力のない地方局を、これ以上国が面倒見れない。親会社で何とかしなさい。」という趣旨ですね。

 1つの送信アンテナがカバーできる範囲の狭い地上波では、全国で視聴者を獲得するための決め手だった地方局ですが、衛星放送が主流になり日本全土が受信エリアになってしまうと、純粋なローカル番組制作しか業務がなくなります。増して、世界がシームレスに繋がるインターネット放送が普及しつつあり、キー局の再送信しかできない地方局は自立した経営が不可能になります。これをキー局が吸収、合理化する必要が生じてきたのです。

 言い方を変えれば、地方局に恩恵を与えるのは地上デジタル放送で最後だぞ、ということです。衛星放送で充実させれば何の苦労もなかったデジタル放送を、わざわざカバーエリアの狭い地上波で送信することにして、地方局の利権(もしくは広告屋としての価値)を温存したことで、国は膨大な支出を余儀なくされました。

 しかし地上デジタルは強圧的な録画規制や視聴者の設備投資を必要とすることなどの問題があり、安価な外国製の受信機を排除する仕組みもあって、当初の思惑通り普及していません。アナログ停波を2011年7月と決定した(完全停波は難しいでしょう)こともあり、総務省は強引にでもデジタル放送を普及させる必要に迫られているのです。

 そこにこの「持ち株会社解禁」です。何か関係があると思うべきです。総務省は地上デジタルが受信困難な地区に補完として光ファイバーによる放送を検討しているらしいですが、衛星放送による補完も考えられているようです。いずれで補完するにしても、既存の地方局の区割りを簡単に越えてしまう技術ですし、またそうしなければコストが高くなって大きな無駄となります。詳しい手続きはどうなるかわかりませんが、今度こそ地方局は切り捨てられる、という予想ができます。

 NHKの経営改革も同様な方向で進むでしょう。NHK社員の給与を公開、などと報道されていますが、給与水準の見直しなどより不要な地方局を合理化するのがずっと効果が大きいのです。これで受信料2割減は達成できると踏んでいるのでしょう。

 いずれにしても、株式保有の緩和で外資が本格的に参入してくることは予想されます。視聴者の購買力が高く、また徹底的に保護されてきた日本の放送業界は魅力的でしょうから。キー局の買収や新規免許取得は困難でも、お荷物になった地方局の経営権を簡単に取得できるのなら、まずは地区限定で外資が進出して直接日本の視聴者に放送を始める可能性も出てきます。あるいは、ソフトバンクや楽天のような業界の異端児でもいいでしょう。こうした新しい経営者が参入することにより、放送業界に波乱が起きることは必至です。

 今までの放送業界とのしがらみのない経営者が地方局を手に入れて放送ビジネスを拡大していく場合、既存の放送局は今までのような護送船団方式、つまり総務省一家で団結して権益を守り、視聴者に割を食わせるような経営ができるのかどうか、これが最大の注目点ではないでしょうか。新参テレビ局が「プログラムの一部をYouTubeに配信する」とか「欧米並みの緩いコピー制限で視聴者の期待に応える」とか言い出したら、これは面白いことになります。
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謎のテレビ「新方式」

2007年02月05日 | たまには意見表明
 日本経済新聞社系のネットニュースで、2月3日付けで解釈に悩む記事がありました。

 放送業者と家電メーカーが合意して、2008年秋から新方式の複製防止機能を導入した製品を販売するというもので、今までデジタル放送を受信するのに必須とされたICカード(もちろんB-CASカードのことでしょう)も個人登録も不要になるというものです。

 ニュースの解釈に困るというのは、詳しい内容について何も説明がなく、他のサイトを見ても全くこの件が報道されていないからです。確かに日経はビジネス関連の報道が迅速で頼りになりますが、これだけ大きなニュースが他に出ていないのはなぜでしょうか。

 記事の最後に「地デジの普及に弾みをつけたい」とあるのも意味不明です。B-CASカードがなくなったところで、放送業界が固守してきたコピーワンスが残るなら、視聴者の新機材導入意欲はたいして変わらないはずだからです。もし、コピーワンスを廃してネット配信だけを制限するEPNに移行するというのなら、それこそ一般視聴者には朗報ですが、それなら大きなニュースになるので他のメディアが報道しないはずがありません。

 だいたい、会社発表などで悪い情報は土曜日に出すという慣わしがあります。「今期は予想に反して大赤字」とか「製品に不良」といったニュースは、土曜日に発表して週末を挿み、月曜日まで待てば少しはほとぼりが冷めるだろうと考える人間の性(さが)でしょうし、よく言えば「市場の混乱を避けるため」とも言えます。それじゃ、今回の発表の実態は非難が沸き起こるようなものなのでしょうか?

 少なくとも、アナログ停波予定まで4年という時点で、視聴者の実態も調査せずに「少しだけ売って、楽に儲けよう」というテレビ局のここまでの姿勢は評価できません。コンテンツが広く利用されて視聴者と著作者が共に潤うよりも、蛇口をぎゅっと締めて著作権者(著作者とは違うことが多い。多くは放送局やレコード会社。)だけが大きな利益を手にしたいからです。そうすれば配信するコンテンツは少しで済みますし、視聴者が多くのチャンネルに分散する心配もありません。典型的な利権ビジネスと言うことができるでしょう。

 放送が極端な保護産業であり、新規参入による競争がないことからこの膠着状態を招いたのは明らかで、このまま視聴者無視の業界保護を続けるのなら、総務省は2011年7月に手痛いしっぺ返しを受けることになると思います。この意味不明のニュースも含めて、放送関係のニュースからは目が離せません。
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コピーワンスはやはり欠陥制度だ

2007年01月23日 | たまには意見表明
 年末、年始はやはり大型番組が多かったですね。あのような長時間番組を録画して試聴される方も多いと思います。さて、どうしても保存しておきたい大型番組があったとします。長さは約3時間。リビングのレコーダーで録画しておいて、自分の部屋のDVDプレーヤーで少しずつ楽しもうと考えています。

 「画質のいいデジタル放送で録画して、DVDで保存しておけば最高のライブラリーになるぞ。HDD容量は十分にあるから、当然高画質モードで録画しておこう。デジタルチューナー付きのレコーダーを買っておいて良かったなあ。」

 喜び勇んで録画して、DVDに転送しようと思った彼は愕然とします。「ムーブできない!!」

 正確に言えば、ムーブはできます。ただし画質か時間を諦めないといけません。高画質モードで1枚のDVD(単層)に録画できるのは1時間。「それじゃ3枚のDVDに分ければいい。」それが簡単じゃありません。

 このアナログ時代の常識が「コピーワンス」の前では通じないのです。普通に3時間番組をHDDからDVDにムーブすると、最初の1時間分をDVDにムーブした時点でDVD容量がなくなり自動終了しますので、ここで3時間のプログラム全体が消去される仕組みになっているからです。レコーダーが、「もうムーブしたんだろ。これ以上、このファイルに触るのは泥棒だぜ!」と言っているわけです。

 これを防ぐためには、ムーブの間ずっと付いていて、切りのいいところでムーブを一時停止し、DVDを入れ替えることができます。また、新しいレコーダーでは最初からHDDに録画したプログラムを分割することもできます。これなら3枚のDVDに分けて高画質のコピーを作れます。ところがうっかり先にムーブを始めてしまい、時間もないとなると、望みのDVDはできません。「うっかりミス」やHDDトラブル、停電に対しては非常に厳しいのがコピーワンスです。

 こうして彼は、画質を大幅に落として3時間番組を1枚のDVDに詰め込むか、あるいはプログラムの最初の1時間しか入っていないDVDを作る羽目になります。「ああ、これで著作権法に従って正しくムーブができたぞ。テレビ局様がデジタル放送してくれて良かったなあ。」と彼は思っているでしょうか?

 とんでもないですね。現行アナログ放送なら何の苦労もなくコピーも編集もできるのですから。テレビ局は「一般の視聴者がビデオ編集したいという強い要望はない」と見ているようですが、この例のような編集とまで言えない操作まで強い制約があるのです。

 このように、「コピーワンス」に見られるのは視聴者の視点が完全に欠落した押し付けの論理でしかありません。こんな「視聴者はすべて泥棒」式の管理に納得してデジタル放送を見るべきでしょうか?

 プログラムを録画して、著作権者に無断で販売する行為は現行法でも十分に取り締まり可能です。だいたいそんな違法ビデオカセットやDVDが販売されているのを見たことがありません。1本何万円もした20年前のVHSソフトと違って、今の正規DVDは安くなったので、わざわざ危険をおかして違法コピーをしようという需要は少ないでしょう。

 後はインターネットへの流出ですか?ネットで内容だけわかれば十分という違法な要求に対しては、デジタルデータの流出をブロックしても無駄です。デジタル動画をアナログ出力できる機器がいくらでもあるので、画質が落ちてもいいならコピーそのものは簡単。不心得な人ならこれをネットに流すことは難しくありません。むしろ流出した際に経路を捜査できるような隠しコードを入れておく方が有効だと言われています。

 要約すれば、「コピーワンスが放送内容の違法利用を防ぐ効果は限定的である。反面、一般視聴者の利便を著しく損ねている。」ということです。一般視聴者の利用を妨げれば、コンテンツとしての価値も下がることに気が付かないのでしょうか?少なくともスポンサー企業は私に同意してくれると思います。

 「コピーワンス」と称する極端な録画制限を全テレビ放送で導入しようとしているのは世界中で日本だけだそうです。このような制限を日本国内で強制したとしても、世界中がシームレスに繋がるインターネットテレビの流入を止めることはできません。既に隣の韓国では主要な放送局がインターネットテレビを次世代の主力メディアと位置づけて本格的な放送を開始しているのです。

 仮に、韓国の放送局が日本の視聴者向けにインターネットテレビの放送を始めたら、日本の放送局はどうするつもりでしょうか?韓流コンテンツが日本に一定のファンを持つことは「冬のソナタ」や「チャングム」で証明済みです。ドラマ以外では日本のテレビから締め出された「PRIDE」などもどうでしょうか。こうした魅力的なコンテンツに日本語音声を付けるのは簡単なことです。後は日本向けのスポンサーを募るだけ。

 コンテンツを高く売ろうとする余りに視聴者に理不尽な不便さを押し付ける日本の放送局が、いつまでも視聴者を「支配」できると思ったら大間違いです。速やかにコピーワンスやらB-CASやらの不条理を取っ払わないと、未来はありません。然るに、いつまでも既得権益にしがみ付き、古いやり方で権益を拡大しようとする放送業界は、総務省の要望にも反してコピーワンス堅持を主張しています。既に話し合って何とかなる段階ではないのでしょう。

 私的な意見ではありますが、ここは視聴者のために、日本ソフトバンクの孫正義社長あたりに蛮勇を奮って頂きたいです。古い体質の放送局を単に買収して利権を継承しようとしたライブドアと違って、孫さんにはもっと大きな策がありそうですから。10年後には日本ソフトバンクが最大の放送業者になっているかもしれません。
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