アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

ABBA 40/40

2017-06-23 22:49:31 | 音楽
『ABBA 40/40』 ABBA   ☆☆☆☆☆

 アバが好きだということは前に書いたが、しばらく前に日本だけで発売されているべスト盤を買った。アバの主要な曲をほぼ全部網羅した便利なベスト盤で、全40曲収録。特に日本人にとってしっくりくる選曲になっているところがミソだ。ジャケットもいいですぞ。フレッシュなアグネタと大人っぽいフリーダのミニスカ姿。これでぐっと来なかったらアバ・ファンじゃありません。

 さて、このベスト盤を最初に聴き通した時は、結構フォーキーな曲が多いんだなという第一印象だった。まあこれは私ぐらいのいい加減なファンならではの感想で、年季の入ったアバ・ファンには常識なのかも知れないが、「ダンシング・クイーン」以降のディスコ・サウンドの印象が強い私にとってはちょっとした発見だった。アバ以前のビョルン&ベニー名義の「木枯らしの少女」なんてのも入っているし、初期のアバはいかにもスウェーデンの田舎から出てきた仲良し男女混合グループという雰囲気だ。ネットで検索すると、当時のあか抜けない恰好をしたグループ写真がいっぱい出てくる。アバって最初はこんな感じだったんだなあ、というのが分かって実に感慨深い。後年の、世界制覇する巨大なポップ・グループの面影はどこにもなく、ただ音楽が好きという純朴な若い男女四人が屈託なく笑っている。

 そのあか抜けない田舎のグループ、「ビョルン&ベニー、アグネタ&アンニ=フリッド」が、どんどん洗練され、プロのプロデュースを経て世界的ポップ・グループ「ABBA」へと変貌していく過程を、このベスト盤ではうかがい知ることができる。後期はいかにもなダンス・チューンが増え、やがて解散していくわけだが、果たしてアバの四人は変遷していく自分たちの音楽性、そのサウンドをどう考えていたのだろうか。アバの魅力はなんといってもビョルンとベニーが書くメロディの良さにある。キャッチーで、愛らしく、しかも品があるメロディだ。アバの驚異的なブレークはまさにメロディ・メイカーとしての勝利であり、その意味では、実は非常にビートルズに近いところに位置するアーティストだと思う。その普遍性、つまりどんな人間にでも訴えかけてくるメロディの力はまさに万能といっていい。

 大げさなことをいうな、という人はこれを考えてみて欲しい。Wikipediaによれば、フランク・ザッパとリッチー・ブラックモアがアバの熱烈なファンだという。またセックス・ピストルズのジョン・ライドンとグレン・マトロックも「俺たちはABBAが大好きだった」といい、アリス・クーパーやエルヴィス・コステロ、レッド・ツェッペリンのメンバー、そしてオアシスのノエル・ギャラガーも賛辞を送り、あの渡辺貞夫もABBAファンだという。どこかで、エイジアのジョン・ウェットンもABBAが好きだと読んだことがある。保守的なポップス・ファンだけでなく、ハードロッカーからプログレ者からジャズ・ミュージシャンから、果てはパンク・ロッカーまで否応なく魅了してしまう。これはやはり驚異的である。ビートルズとアバ以外にこんなアーティストがいるだろうか。

 さて、その親しみやすく優雅なメロディは変わらないにしてもサウンドは徐々に変遷し、当初のフォーキーな肌触りから透明度を増し、磨き抜かれた宝石の如く完成度を高めていく。私はやはりアルバム『Arrival』の頃が絶頂期だったと思う派だが、この頃のアバの曲には類まれなきらめきがある。ビョルンとベニーが生み出す素晴らしいメロディに、アグネタとフリーダの強力無比なツイン・ヴォーカルが生命を与える。この二人のヴォーカライゼーションはまさに華麗の一言で、この上なく艶やかだ。また、清涼感溢れるアグネタの声と落ち着いた大人っぽいフリーダの声、という持ち味の違いが、アバの幅広い表現力を支えている。

 またこの時期に限らず、アバ・サウンドの大きな特徴は分厚いバック・コーラスにある。もちろん、コーラスもすべてアグネタとフリーダ、そしてビョルンとベニーによるものだが、ヒットチャートを賑わすポップスとしてはいささか過剰なほど分厚い。たとえば『Arrival』収録のバラード「My Love, My Life」など、最初から最後までずっとアグネタとフリーダのバックコーラスが流れ、まるで讃美歌のようだ。その美しさはもはや桃源郷レベル。とろけるように官能的である。この特徴的なコーラスがアバのグッド・メロディを豊穣に装飾しつつも、ギリギリ野暮ったくなる寸前で止められている。

 ちなみにアバの曲には「Honey, Honey」や「Ring Ring」など、繰り返しのタイトルが多い。キャッチーに覚えやすく、というポップスの戦略なのだろう。これに限らず、初期のアグネタとフリーダのセクシー衣装など、ショービズとしてのあからさまな戦略も色々と盛り込まれているのがアバである。みんな知っていることだろうが、日本のピンクレディーはアバにヒントを得て誕生したという。

 さて、このアルバムはそんなアバのおいしいところをぎゅっと恐縮したお得なディスクだが、もちろん40曲というのは手軽に聴き通せる分量ではないので、私は好きな曲を抜粋した1時間ぐらいのプレイリストを作って楽しんでいる。これはもう、凝縮盤の更に凝縮されたエッセンスということになり、最初から最後まで桃源郷である。ハチミツいっぱいの洞窟に入り込んだ熊の如き状態となるわけだが、それにつけても、やっぱりアバは偉大なポップ・グループだったなあとしみじみ思う次第だ。



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