駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

其処に漂うつましさ

2014年10月24日 | 小験

             

 月に三十数軒の往診に行く。長いお宅には十年十五年と毎月往診してきた。その時だけの一二回で終わる往診もある。そうして二十五年で往診してきたお宅は五百軒を下らないと思う。そこで否応も無く見聞きするものは、その患者さんと家族の生活実態だ。それは診察室では絶対に窺い知ることのできない紛れもない事実だ。

 診察室でお会いする患者さんと患者さんの生活状況は思い浮かぶ想像と一致しない事も多い。開業当初は顔には出せず心の中で秘かに驚くことがあった。今はどんなお宅でも驚くことはない。なんでもありと思い知ったからだ。

 テレビには出て来ない貧困が未だ厳然とある。流石に赤貧洗うが如しの困窮は希だけれども、本当に往診料を戴いていいのだろうかと思うお宅もある。中には、貧しいだけでなく、心の何かが折れて誇りが埃に負けてしまったようなお宅もある。

 そうして余裕の無い感じが漂うお宅は一握りというわけでなく、私の医院の立地条件にもよるのだろうが、大げさでなく半数に近い。日本が豊かになったのは本当だろうが、本当だろうかとも感ずる。

コメント (2)
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