雨の島
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「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗 光文社新書を読んだ。
目の見える人が実は良く見えていないことを教えてくれる本でもあった。目の見えない人は言われてみればそうかと気付くのだが、目の見える人よりも少ない情報で世界を見ている。しかしそれが必ずしも良く理解できていないことを意味するわけではない。例えば目の見える人は前後や表裏を意識区別するために、全体像を見失うことがあるが目の見えない人は全体をひっくるめて把握できている。
目の見えない人を視覚障害者と表現するので研究の対象にしにくい雰囲気はあったと思うが、伊藤さんは踏み込んでインタービューと協働体験を本にまとめられた。目の見える人間は百聞は一見に如かずはそのとおりだなと受け取りがちだが、実は抜け落ちているところがあり、目をつむっただけでは目の見えない人の理解している世界は分からないのを教えられた。
伊藤亜紗さんはこうした研究をされているせいか偏りの少ない広い視野を持った研究者で貴重な人と思う。
小野寺健先生にイギリス的人生という本がある。味わい深くああそうなんだと目を開かされる名著で、文学を通してイギリス的人生を解き明かされている。先生には読みやすく手頃な心に残る言葉というベストセラーがあるが、短い言葉では表し切れない中身がこの本には詰まっている。勿論、文学だけが人間性を明らかにする創作手立てではないだろうが、文学でなければ辿り着けない広がり深みがあると思う。
そこで読みたいのがロシア的人生である。沼野氏や亀山氏に類書はあると思うが読めていない。何となくちょっと重苦しく小野寺先生のような手触りではない感じがするからだ。それもロシア的ということかもしれない。しかし、プーチンとロシア国民のしでかすことをよりよく理解するには文学者によるロシア的人生が必須のように思う。
医学書を読む時間が少しづつ減ってきて、様々な本を読むようになった。唯、漫画は読まない。三十くらいまでは結構読んだのだが今は読めない。「日本銀行 我が国に迫る危機」 河村小百合 講談社現代新書をもうすぐ読み終わる。驚くべきことが詳細緻密論理的に書いてある。専門的な知識がある程度必要で一般の人には難しいかもしれないが、できるだけ多くの人に読んでもらいたい。黒田日銀が何とも不合理不可思議なことを推し進めてきたのかがよく分かる。背景には安倍政権の後押しとまやかし言い募る政治手法があった。日本を取り戻すのではなく、日本に目覚めて欲しい。
ユヴァル・ノア・ハラリとエマニュエル・トッドの本はちゃんと読んだのが一冊ずつ、目を通したのが一冊ずつで、しかもどちらも十分に理解できたかは怪しい。それでもどちらの著書からも目から鱗の思いの刺激を受けた。
ハラリは歴史学者トッドは人類学者(人口学者)という違いはあるが、どちらも人類の現在を読み解こうとしている点では共通している。ハラリは全世界的に読まれているのに対しトッドは日本での読者が多いところはちょっと違う、考え方もかなり違う。
私にはとても二人の本を解説する能力はないが、人間の行動原理がどこから来るのかを理解するのに役に立った気がしている。物事というのは一言では表現したり捉えたりすることはできない。ハラリやトッドの言説の要約は難しく、どうしても一冊丸ごと読まないと人類の有り様への理解は深まらない。
複雑なことを理解するには文庫本一冊程度の言葉数が必要で、反射的な雑言をぶつけ合っても憎しみや親しみは残るけれども、理解にはなかなか繋がらない。ネット社会になり誰もが発信するようになったのはよいが、反射的な言葉の投げ合いが多く、立ち止まって考える機会が減っていると思う。ネットのコメントは八百字以上優先にしたら何かが変わるかも知れない?。