好きになった人、都はるみの歌ではなく、梯 久美子さんの文庫本エッセイ集のタイトルだ。梯さんのお名前は栗林忠道閣下の御本でノンフィクション賞をお取りになった時から存じ上げていた。評を読み凄い書き手なのだという印象を持っていたが、私には強く重い本を書かれる印象があり作品を読んだことはなかった。
何の拍子か、この頃物忘れが出てきて思い出せないのだが、このエッセイ集のことを知りそれなら読めそうと手に取った。そうしてたちまち梯さんが私の好きになった人に加えられた。どちらかというと作品よりもエッセイや旅行記のようなものの方が読みやすく、何度でも読める好みの書き手が何人も居るのだが、新たに梯さんを加えることになる。
梯さんは私よりも一回り以上年下なのだが、直ぐ年下の妹というか同年輩の感じがした。姉妹と育った環境が違うのだが、どこか微かに向田邦子と通じるものも感じた。どちらにも読んでニッコリの話があるのだが、梯さんの書かれたものには涙腺を刺激されるものも幾つかあった。忘れたくない伝えていきたい人と事象を文章というカメラできっちりと写す能力に恵まれておられる。平成末期になって薄れてきたもの、それは人を思う力の気がしていたが、若い人に梯さんを知って欲しいと思う。
好きになったのだからいつかお会いしてみたいという野望も抱いた。何度でも読む文の書き手のどなたにも会えていない。自分には愛読する著者が居ると気付いて三十年、故人になられた方も増えた。機会を捉えて、存命の著者達に自分が生きている内に会いたいものだ。