幸運の女神に後ろ髪はないと言う。これはちょっと女神に対して失礼ではないかと思う。後ろがつるっ禿ではまるで化け物、どう考えても美しい女性とは思えない。あるいは幸運の女神というのはと、ここまで考えて恐ろしくてこれ以上は書けない。やはり幸運の女神は美しい方で単にショートカットと言うことだろうと思う。
昨夜は胸部疾患画像勉強会に出席。健診で淡い右中肺野の陰影を指摘され、総合病院呼吸器科を紹介された41歳男性の症例。CT検査で、どうもはっきりしないが腺癌の可能性がありそうだ、一ヶ月後にもう一度検査しましょうと説明したところ受診されず、半年後に咳が出て息切れがすると受診。すでに癌性胸膜炎を起こしていた。説明するY先生は淡々としたものだが、町医者の私は何で医者の言う通りにしなかったのかと自分の患者でないのに苛立ってしまった。
T氏65歳、失礼ながら美男子にはほど遠く、よく言えば野生溢れる縄文系の顔立ちで図太い神経?の様に見える。高血圧で通院中なのだが、三月の年二回やる検査で僅かな鉄欠乏を疑わせる貧血があった。おかしいというので、便を持ってきて貰うとこれも微かに免疫法で陽性である、これはまずい。下部消化管の癌の可能性がある。十に一つくらい悪い病気のこともあるので、A先生(近所の消化器専門医)の所で検査して貰ってと紹介状をしたためた。ところが一ヶ月経っても返事が来ないし、本人も受診しない。おかしいと看護師に電話させると「恐いので行っていない」。
では搦め手からと奥さんに電話して言い含めると、漸く連休前に現れ、直接総合病院に行った方がスムースだと思うので紹介状を書き直して呉れなどと、しゃらくさいことを言う。確かに遅れたので一理あるかと紹介状を書き直す。連休数日前に受診したのはよいが、病院にとってT氏なぞはワンオブゼムに過ぎない、当然検査は連休明けになった。先日返ってきた返事によると肛門から距離のある全周性の直腸癌で、画像診断では転移はなく、来週手術で人工肛門にはならないという。三ヶ月以上遅れたのであるが、なんとか女神の後ろ髪を掴んだようである。
Mさん71歳女性、高血圧症高脂血症で通院中、先週受診時に、昨日一昨日と排便時に便に血が付いていたと訴えられた。痔だと思うけれど念のためA先生に見て貰いましょうと紹介、直ぐ行かれた。肛門直下の直腸癌らしいと言うことで、総合病院に回され、翌日受診された。診断が付いており、直接外科に回ったせいか、来週入院すぐ手術だという。肛門に近いので人工肛門になると言われたと、全くの動揺を見せず報告され、お礼を言われて帰られた。進行の程度、転移の有無はわからないが、迅速にことが運んだので経過が良くあって欲しいと祈る。
はてどうも、幸運の女神の御心は計りかねる。