時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

僅差が生む大きな衝撃:アメリカ連邦最高裁移民判決

2016年06月29日 | 移民政策を追って

 

アメリカ連邦最高裁判所

 
 英国のEUからの離脱の衝撃で 、かすんでしまったような
ニュースがある。これも移民に関連している。アメリカの連邦最高裁の判決である。オバマ大統領がショックで頭を抱える光景がTVに写っていた。大統領在任期間中で最も厳しい最高裁判決といわれている。6月23日、連邦最高裁は提出されていた「移民制度改革」についての提訴について、判事の見解が4対4の同数となり、ひとつの明確な結論が下せなかったことを明らかにした。このため、下級審の判決が維持され、オバマ大統領が企図した移民制度改革は少なくも大統領に残された任期の間は事実上凍結されることになった(ここに到る経緯はかなり複雑だが、主要点のみ記しておこう)。

 いわゆる「包括的移民法改革」は、オバマ大統領が大統領選のころから公約として掲げていた政策の柱だった。しかし、議会共和党の反対などで改革は遅々として進まず、ようやく2014年11月、大統領権限で、「移民制度改革」(Deferred Action for Parents of Americans and Lawful Permanent Residents(DAPA) and expanded Deferred Action for Childhood Arrivals(DACA):アメリカ国籍や合法的な滞在資格がある子供を持つ親などの不法移民(undocumented)に、一定の条件を充足すれば強制送還を一時的に猶予し、就労資格を与えたり、子供の呼び寄せなど家族の結合を支援する内容)の実現を企図した。しかし、テキサス州など共和党州知事の一部が反対し、テキサス州連邦地裁が執行の差し止め命令を出し、連邦高裁も差し止め命令を維持したため、オバマ政権が連邦最高裁に上告していた(United States, et al. v. Texas, et al.)。

このたびの連邦最高裁の声明は、「判事の見解は同数に分かれ、承認された」。わずかに9語(”The judgement is affirmed by an equally divided court")の一文にすぎない。

連邦最高裁の声明は、最終判決でどの判事がいかなる主旨の判断を下したかは明らかにしていないが、すでに今春の口頭弁論の段階で、保守とリベラルと、イデオロギーの異なる立場に立つ8人の判事が4対4で対立していた。通常ならば、9人の判事での審理が行われるはずだったが、今年2月にアントニン・スカリア判事 Judge Antonin Scaliaが死去したことで、空席になっていた。スカリア判事は最高齢できわめて保守的な考えの判事だった。

判事9人の時は、保守派5人、リベラル派4人の判事構成となっていた。スカリア判事の後任に、オバマ大統領は民主党の路線に近いリベラルなメリック・B・ガーランド判事 を後任に指名していたが、上院の共和党議員が強硬に反対し、空席の状態が続いてきた。ホワイトハウスの記者会見で、オバマ大統領はここにまで至った共和党の行動を強く批判した。

 問題はまったく異なる領域なのだが、このたびの英国のEU離脱と、この米国連邦最高裁の僅差の結論という決定プロセスについては、共通する問題がある。いずれの場合も、2-3%の差あるいは一人の判事の考え次第で、大げさに表現すると、全体の結論が白と黒のようにまったく逆転してしまう可能性がきわめて高いことだ。長い間踏襲されてきた「民主的意志決定プロセス」なのだから、結果は尊重しなければならない。しかし、その結果への対応はしばしばまったく異なるものとなる。僅差で決定が下された以上、否定あるいは却下されたグループには不満が累積することになる。僅かな差で勝利したグループのその後の政策実施がさまざまに阻害されるという問題も生まれがちだ。イデオロギーの異なる判事の見解の差で、数百万人の運命が決まってしまうという意志決定プロセスも現代の時代環境では再考の余地があるかもしれない。裁判所という司法の城郭の中で長い職業生活を過ごしている人たちの考え方や感覚が、一般市民のそれと乖離してくる可能性もきわめて高い。ブログで議論するには重すぎる課題なので、これ以上は入り込まないでおこう。

 さて、議論の詳細が今の時点では判明しないが、このたびの連邦最高裁の下した結論は、「大統領権限で進めた政策が憲法違反かどうか」についての判例が確定したことも意味している。その意義については、これから法曹、政治の領域で、長い論争が続きそうだ。法律は専門ではないが、いくつかのテーマはすぐに浮かんでくる。

 現実にかなり確かなことは、オバマ大統領としては在任期間中で最も期待した移民法改正でみるべき次世代への遺産 legacyを残せなくなったことだ。オバマ大統領は筆者かこれまでの人生で見聞したかぎり、アメリカの歴史においてきわめて優れた大統領のひとりと思うが、歴史家はどんな評価を下すのだろうか。

  さらに、もし次の大統領に民主党のクリントン氏が当選することになれば、彼女はこの連邦最高裁の結論の路線で、対応しなければならない。しかし、そのことを考える余裕はまだないようだ。

ホワイトハウスで大統領は、「今日の決定はこの国で生活し、家族を養い、働く機会を望み、税金を払い、軍務にもつき、心からこの国を愛し、さらに貢献しようとしている数百万人を悲しませるものだ」と判決を批判した。


References

”Supreme Court Tie Blocks Obama Immigration Plan", by Adam Liptak and Michael D. Shear, The New York times, June 23, 2016 http://nyti.ms/28zFmeF

TV programs, CNN, PBS



 

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