駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

過ぎたるは

2010年09月10日 | 医療
 鉄分と聞けば、貧血が思い浮かび、摂取することは良いことと素人だけでなく医者もそう思っていた。ところが過ぎたるは及ばざるが如しで、過剰な鉄はさまざまな臓器障害を引き起こすことがこの数年明らかになってきた。
 昔から鉄が過剰に沈着し多臓器不全を起こす遺伝的な病気(遺伝性ヘモクロマトーシス)は知られていたが、それは特殊な病態で一般には鉄は身体に良いと多くの医師は考えて来た。
 動物実験である種の鉄化合物に発がん性のあることは一部の研究者には知られていたのだが、これも非生理的状態でのことだからと臨床での問題には展開しなかった。
 しかしここに来て過剰な鉄は酸化ストレスなどのメカニズムによって細胞障害ひいては臓器障害を引き起こし、臨床的にも問題になることが明らかになってきた。
 不思議なことだが、百年前まで盛んに行われ近代医学の発展と共に廃れた瀉血療法(血を抜く治療)が十数年前から見直されている(一部の病態で)。この瀉血には体内の鉄分を減らす効果もあり、それが細胞保護効果がもたらしていた可能性があるらしい。どうもうさんくさいと考えられた瀉血は病態によっては科学的に意味のある治療法だったことになる。
 ちょっと脱線したが、過ぎたるは及ばざるが如しということが医学の分野でも数多いことを鉄分を一例に書いてみた。
 身体に必須の物も適量でなければ、害になることを知っていただければと思う。笑えない話にビタミンDを一日4滴と小児科で指示されたお母さんが多い方がいいだろうと毎日15滴与えて子供をビタインD中毒にしてしまったなどという話もある。生物は絶妙のバランスの上に生きているのをお忘れなくと申し上げたい。過ぎたるは及ばざるがごとし。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする