駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

駄目だけではもっと駄目

2010年09月07日 | 診療
 町医者をしていると、歯がゆい(時に歯ぎしり)思いをすることが多々ある。どんな仕事も、特に人間相手の仕事では「それは」とか「ええっ」。と言うことはしばしばだろうが。
 K子さんは六十代の主婦で夫と二人暮らし。コレステロールが高く(LDL170-180)薬物治療の対象である。最初から効果の強い薬を使うよりもやや効果は劣るが廉価で歴史のある薬で始めてみようと、その旨を伝え食事注意表を説明して渡し、治療を始めた。しかし僅かに下がるが、どうしても140以下にならない。それでこちらの方が効果があるからとストロングスタチンと呼ばれる比較的新しいコレステロール降下剤を少量渡した。すぐLDLコレステロールは120と改善、やれやれと思って喜んでいた。
 ところが三ヶ月後もう一度測定すると、あれあれまた175と高くなっている。おかしいなあと首を捻っていると、実はあの薬を飲むと気分が悪くなるので止めていたと言う。なんだそうか、ではもう一つの方をと別のストロングスタチン製剤を出すと又二週間ほどであの薬は合わないと言う。これも駄目か、ではと最後の製剤を試みたがやはり気分が悪くなると言う。
 困ってしまい、強力な食事療法をと栄養士の指導を受けさせたところ、とんでもない事が判明した。K子さん強めのコレステロール降下剤を飲んでも別に気分は悪くなかったのだが、女友達が強い薬は駄目というので、合わないと嘘を付いていたと言うのだ。
 そのお友達はT大やK大の高脂血症で権威のお医者さんでしょうか。お友達はきちんと責任を持って助言しているとは思えません。単にうまくいかなかった時「ほらごらん」と言うだけじゃないかな。
 ストロングスタチンは億の人が飲んでおり、薬は病態に合わせて飲むものだと説明。今回はなぜか納得、K子さんはそれ以降二年になるがストロングスタチン製剤を少量飲んでLDLコレステロールは110-120と良好に経過している。
 どうして何の科学的あるいは事実の裏付けがないのに、何の代案もないのに、駄目駄目と分かったような助言をするのか。人を思い通りに動かすことが快感なのだろうか。偉そうな医者のいうこと(大いなる誤解)に駄目というと何か自分が偉くなったような気がするのだろうか。駄目と言うのはいいけれど、なぜ駄目かではどうすればよいか示した上でに、して欲しい。まして自分の事でないのだから、なにがしかの責任を取る準備がおありですかと聞いてみたくなる。
 駄目駄目と言うよりは、それは良いと言う方が明日は明るくなると思う。
コメント (2)
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