駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

謎から謎

2010年09月15日 | 診療
 一時的に呂律が回らなくなったり、手や足の力が入らなくなる病気に一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれるものがある。これは四十年近く前からある疾患概念なのだが、講演会の講師の話では今もって明確な定義ができていないのだそうである。
 TIA(transient ischemic attack)では一時的に脳の血流不全が生じ一過性の機能障害が出現するのだが、短時間で血流が再開するため跡形もなく症状が消失するのを特徴としている。当初は症状が消失するのだから脳組織に障害は残らないのだろうと思われていた。しかし、最新の診断機器によると中には何らかの障害が残っている例があることが分かってきた。そうなると画像診断で診断を二つに分けた方がよいのではという考え方も出てくる。しかしながら画像診断装置もピンキリで、診断が装置の解像力で変わるというような奇妙なことになってしまう。謎が謎を呼ぶと言うほど大袈裟な事ではないが、一見同じに見える物が実は違うのかやっぱり同じなのかわからなくなっている事例だ。
 これは良い例ではないかも知れないが、似たようなことはよくあり、誰しも身近でそうした経験をお持ちだろう。
 最後に大切なご注意を。このTIAだが、症状が消失するのでああよかったと放置してはならない。これは本格発作の前触れのことが多く、取る物も取り合えず直ちに近くの神経内科を受診しなければならない。次の本格発作を防ぐ手立てがある。本格発作(脳梗塞)は時に命を奪い、多くは麻痺を残して自立できない人生を招く。
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