Con Gas, Sin Hielo

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「水は海に向かって流れる」

2023年06月16日 22時33分51秒 | 映画(2023)
そろそろ海が見えるころ。


すずちゃんといえば、「海街diary」での末っ子役や実生活での姉妹のイメージが強く、基本的に妹キャラだったのだが、本作で彼女が演じたのは26歳のOLで主人公の高校生・直達より10歳年上の女性である。

高校へ通うのに便利なおじさんの家に居候するつもりでやって来た直達。しかし実はその家はシェアハウスで、広瀬すず演じる榊さんもその住人であった。

雨の日に駅まで傘を持って迎えに来たり、お腹が空いているときには料理を作ってくれたり、日常の行動で見せる優しさとは裏腹に、榊さんは周りに壁を作っているかのように笑わない。そして彼女は言う。「私は恋愛はしない」

何が彼女をそうさせているのか。その秘密は意外なほど早く明らかになる(最近このパターン多い?)。

明らかになった真相と、直達と榊さんの関係性があまりにも作り話でいまひとつ落ちてこないが、図らずも運命的な出会いになってしまった二人のほろ苦い話は概ね微笑ましく見られる。

年上の女性という立ち位置以上に、輝くような笑顔を封印したすずちゃんが新しい。原作者の田島列島さんが「広瀬すずさんの美しさに酔え!」と言ったそうだが、スクリーンいっぱいに映し出される凛とした横顔は「完璧」という言葉がぴったりだった。

ただ、彼女が美しいから直達が惹かれたわけではないのも、本作のおもしろいところである。彼にとっては、あくまで榊さんの謎めいた立ち居振る舞いが気になったことがきっかけであり、真相を知ったことで彼女と感情を共有したいという欲求が生まれたのである。

だからかわいい級友に好意を寄せられて、「リア充になりなさい」と言われても気持ちの変えようがない。その辺りの一種の一途さは、直達や榊さんの親たちの履歴と一見対照的に映る。

高校生の直達と、26歳だけど10年間時が止まったままの榊さんは、つり合いがとれていないように見えて、実は人生の同じようなところを歩いていた。

川の水のように流れていく時間の中で、せき止められていた榊さんの人生が再び流れ始めたラストシーン。その後の二人の選択に想像が広がる余韻が印象的であった。

それにしても、もうすぐ海に流れ着く年代の大人たちの人生が、揃いも揃ってくすんだように見えるところが悲しかった。

(70点)
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