Con Gas, Sin Hielo

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「Pearl パール」

2023年07月28日 06時00分07秒 | 映画(2023)
「ゴス」、鈍器で叩いたときの擬音の響きにも似て。


A24作品って実はそれほど好みではない。後味が良くないことが多いというのが大きな理由だと思うが、それでも目に留まる、興味をそそられて観に行かずにはいられないというのも特徴である。

前作の「X エックス」も評点としては平凡ながら、その特異な作風は記憶にこびりつくもので、まさにA24のA24たる証であった。

その前作で若さに執着する醜悪なばあさんとして観る側に生傷を遺したパールの前日譚が本作である。よほど自信があったのか、「X エックス」のラストで予告篇のような映像が流され存在が明かされていた。

「X エックス」の惨劇から50年以上遡るだろうか、時代はスペイン風邪が世界的に流行していた1918年である。

舞台は同じ農場。パールは何らかの理由で身体の自由が失われた父と、そんな父を抱え懸命かつ厳格に家を切り盛りする母との3人暮らし。若くして結婚していたが、夫のハワードは自ら希望して第1次世界大戦の戦地へ赴いていた。

既婚者のパールであったが、まだまだ若いこともあり、ショウビズ界に出てスターになることを夢見る少女の一面も持っていた。しかし、そんな夢はいつも母の厳しい指導の前に叩き潰された。

ある日、町の教会でダンサーのオーディションが開催されるという知らせが入る。農場を出て夢をつかむチャンスにパールは浮き立つ。そして、抑圧されてきた彼女の心が歪な形で暴発する。

本作は何を置いてもM.ゴスに尽きる。前作では主役の女性とばあさんの二役を演じながらもそこまで印象に大きく残らなかったが、今回は徹頭徹尾彼女の独壇場が続く。

器量が悪いわけではないが、義妹のミッツィと比べると明らかに華やかさで劣る。踊りもそこそこ上手いが、決め手となるXファクターがない。

何かに手が届きそうになるたびに、その果実は遠くへ逃げて行ってしまう。好意を持ってくれていると思った人が突然自分を避けるような振る舞いを見せる。

ことごとく希望を摘み取られてきたパールが獲得したのは反撃のスイッチだった。スイッチが入る前後のM.ゴスの表情がとにかく圧巻だ。1分以上のスマイルが続く猛毒なエンドロールは映画史上に残ると言ってよい。

本作を観たうえで「X エックス」を振り返ると、あちらの作品のイメージもだいぶ異なってくる。異形なキャラクターが壮絶に潰されるというごく普通のB級ホラーが一転して、これだけの背景を持った人物があんな退場の仕方でよかったのか?と思えてきてしまうから不思議なものだ。

続篇は一転して「X エックス」の後日談となるらしい。また思ってもいない方向から攻めてくるのだろう。「パールは帰ってくる」とはならないかもしれないが。

(85点)
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