Con Gas, Sin Hielo

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「怪物」

2023年06月03日 23時11分51秒 | 映画(2023)
小さな恋のメロディ。


是枝裕和監督作品として、「万引き家族」に続くパルムドール賞は逃したものの、坂元裕二氏がカンヌ国際映画祭の脚本賞を受賞した本作。

これまで是枝監督は自らが脚本を兼ねることが常だったが、今回敢えて他者に脚本を任せたということでどのような変化が生じたのかに興味が湧いた。

物語は3部構成。いずれも長野の地方都市の中心部でビル火災が発生した時点から始まり、物語の主要人物のそれぞれの視点で事態の推移を描いていく。

脚本の技量を感じるのがまさにこの構成の部分で、謎や伏線のばら撒きと回収が分かりやすく丁寧に行われるのはもちろん、1部ではサスペンス調だった話が、3部では大きく趣きを変えるコントラストも鮮やかに決まっている。

物語の中心となるのは、小学5年生の少年・麦野湊と同級生の星川衣里。そして湊の母親と、湊、衣里の担任教師の保利先生の4人である。

湊の父親は事故死し、シングルマザーとなった母親が働きながら懸命に育てている。1部は、湊の不審な行動に気を病む母親の視点である。

ただでさえ不安定な年代であるのに加えて片親である。努力しても目が行き届かない点があってもおかしくない。ある日ケガをして帰ってきた湊を問い詰めると、彼は担任の保利先生に暴力を振るわれたと告げる。

学校へ抗議に行くと、校長を含めた教師陣は申し訳なかったと頭を下げるが、そこに誠意や人間性はまったく感じられず、母親の憤りはますます増幅する。事を荒立てたくない学校側を押し切って、保利先生を辞めさせることに成功するが、ある日湊は突然姿を消した。

2部は一転して、1部で「怪物」のように扱われた保利先生の視点からの物語になる。冒頭から打って変わって人間味あふれる教師であった彼の姿が描かれ、観ている側は面食らう。

保利先生をはじめ教師たちにとって「怪物」は、児童・生徒であり、その後ろにいる父兄たちである。保利先生の言い分が正しいとわかっていてもそれが通じない世界がある。学校全体のために我慢を強いられ、保利先生は嘘の謝罪を行い学校を辞める。そして自宅の荷物を整理しようとしたときに目に入った児童の作文を見て、彼はあることに気が付く。

そして3部。解決篇とでも言おうか。湊と衣里の視点で描かれる物語は、先述のとおりサスペンス調は消え失せ、一転して少年たちの青春ドラマとなる。

物語の構成と同時に巧みさを感じたのは、「怪物」というタイトルである。

前2部では、怪物とはいったい誰のことなのかという点が展開の中心に常にあるのだが、3部になると、そもそも「怪物」が何を指しているのかにも焦点が当たるようになり、それこそが本作のテーマであることが分かる。

脚本こそ他者に譲ったものの、是枝監督作品としてさもありなんと感じた。

中には好意的に捉えられない人もいるかもしれないが、名声を得て社会への影響力を持った今の彼だからこそ、作る意義のある作品だと思った。

主役の少年2人がとにかくみずみずしい魅力を発揮している。美しすぎて逆にルッキズムの面から批判が来てもおかしくないくらいだ。

(85点)
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