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Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「ドミノ」

2023年10月28日 23時32分43秒 | 映画(2023)
娘の育て方は親が決める。当然のこと。


なんだろう、このひさしぶりの映画を観た感は。

実際に映画館自体1か月以上足を運んでいなかったのであるが、それ以上に洋画のまとまった作品を味わいながら観る感じから遠ざかっていたのである。

主人公は、何者かに誘拐され今も行方不明となっている娘の消息を追い続けるローク刑事。しかしこの事件は単純な誘拐事件ではなかった。

誘拐の実行犯は既に逮捕されたが、誘拐した記憶がないと言い、娘の居場所についてもまったく知らない。かと思えば、ローク刑事が任務に当たっている中で起きた銀行強盗が狙っていた私書箱の中に、何故か娘のインスタント写真があった。

強盗犯をビルの屋上に追い詰めたローク刑事。しかし、あろうことか一緒に犯人を追っていたはずの刑事たちが自分の方へ銃口を向けてきた。この犯人は、人の心を操るHypnoticの使い手であったのだ。

ここから話は多重構造化していく。Hypnoticの力は、他者に現実とは異なる世界を見せて信じ込ませる。ローク刑事を裏切った刑事たちは、自分たちがローク刑事を殺す役割を担った世界を刷り込まれたのである。

自分が今いると思っている世界は本物か?疑いを持った瞬間に、周りの景色が崩れて違う現実が姿を現す。

視覚的にはかつての「インセプション」を思わせるようなダイナミックな展開が見られ、ストーリーでは誰が敵で誰が味方なのかが瞬く間に入れ替わり、果ては主人公のローク刑事でさえも一体どういう人物なのか分からなくなっていく。謎の空間を漂わせられるのが心地よい。

すべての鍵を握る娘・ミニーは、満を持してクライマックスに登場する。行方不明だった4年間を経て再会した父と娘。これだけでもカタルシスなのだが、すべての謎が解け決着の時が来る。この一連が「映画を観た感」だったのである。

娯楽要素が盛りだくさんの一方で、最近の作品にしては珍しく94分と上映時間が短めなのも好印象。邦題を"Hypnotic"から変えたのはいただけないが佳作であることに間違いない。

(85点)
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「ジョンウィック:コンセクエンス」

2023年10月01日 06時58分15秒 | 映画(2023)
ありそうでなかった舞台映えバイオレンス。


本シリーズは4作めにして初めての鑑賞。冒頭に簡単な過去3作のおさらい映像が流れ、配給会社が自分のような人をターゲットにしていることを実感する。

当初はそれほど期待していなかったけど、本国での評判が良く想定を超える規模のシリーズになってしまった場合、どう途中からのお客を取り込むかというのは悩ましいところである。「ワイルドスピード」なんてタイトルからして手抜き感満載だったけど、うまく立て直したものだと思う。

それでジョンウィック。K.リーブスといえば「スピード」「マトリックス」シリーズで一世を風靡したものの、その後はどちらかというとプライベートの緊張感が緩んだ画像が出回るなど若干過去の人というイメージがちらつく存在となりつつある中で、ひさしぶりに面目躍如の大ヒットとなったのが本シリーズであった。

ジョンウィックは殺し屋である。最愛の女性と出会いまっとうな生き方をしようとした中で妻が不慮の死を遂げ、彼は復讐に立ち上がる。復讐には成功したものの、殺し屋組織の掟を破った彼は世界中からその命を狙われることになる。

設定はシンプルで、それも大ヒットの要因だと思うのだが、観て分かったのが、とにかく殺しのシーンの見せ方にこだわり抜いているということ。

アクション映画にありがちな不満が、暗かったり人の動きが複雑だったりでせっかくの対決が見づらくなることなのだが、本作にはそれが一切ない。

その代わりにあるのが、あり得ない展開である。前半の大阪、後半のパリと、2つの大きなシークエンスがあるのだが、両都市ともマフィアやチンピラの巣窟と化している。

FMラジオで意味ありげな呼びかけをすれば、街の至るところから殺し屋が湧いてきてジョンの命を奪おうとする。映画としてはすごく胸が高鳴っていく展開だが、冷静にみればツッコミどころ満載なのである。

その他にも、必ず敵は順番に現れて2人以上いれば交互にジョンに襲い掛かるとか、ガラスがあれば必ず敵味方どちらかが突っ込んで粉々にするとか、決闘の場に向かう階段の場面で攻撃を受けて複数の踊り場を超えて一番下まで転がり落ちてしまうとか。

挙げればキリがないのだが、これらは決して批判ではなく、受け手がおもしろく観るために様々な配慮がされていると感心するのである(当然のように大阪の描写は外国映画でよく見る「ニッポン」である)。

極めつけは盲目の殺し屋・ケインである。自分の位置があやふやなのに拳銃や刀剣を扱えば離れた敵もばったばったと倒すという、まさに存在自体があり得ないが絵的には完璧という人物だ。

ジョンやケイン以外の登場人物もキャラクターが立っていて非常に見やすい。過去作を見ていなくても雰囲気で全体の構成や人間関係が分かるから、上述の簡単なおさらい映像だけでも十分に作品に没入することができる。

ある建物の中で繰り広げられるアクションを上から撮り続けたシーンも印象的であった。リアルよりも分かりやすくを徹底することで場面ごとに爽快感を味わえる仕組みになっている。

見れば見るほど、これは多分に演劇でありゲームの画面であると気付く。エンタメ度を高めるために、どの部分を際立たせるのか、削ってしまっていいのはどこなのかを明確にした結果と見ることができる。

本シリーズはそれぞれがコンセクエンス=報いを受けて一段落という形になりそうだが、本作が作った映画の流れが別の作品にも上手く受け継がれていくことを期待する。

(85点)
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「君たちはどう生きるか」

2023年09月09日 18時11分43秒 | 映画(2023)
きっと人を選ぶ作品。


宣伝や事前情報がまったくないまま公開されたということが最大の話題となった宮崎駿監督の最新作。

ジブリ作品を映画館で観るのはいつ以来だろう。ひょっとすると「千と千尋の神隠し」からずっと観ていなかったかもしれない。

好きとか嫌いとかではない。何というか、宮崎駿という存在があまりにも大きくなり過ぎて、フラットな目線で作品を観ることができないような気がしていたというのが正直なところである。

実際、レビューサイトで本作の欄を見ると評価は真っ二つに分かれているようである。有名になれば、地位を築けば、ファンとともにアンチも増える。聞きたくなくても、知りたくなくても、いろいろなところから情報が流れてきて審美眼を曇らせる。

ただ今回は本当に情報がない。戦略にハマったのかもしれないが、自分を試す意味でも観てみようかなと思ったのである。

まずタイトルが立ちはだかる。これはどんなジャンルの作品なのか。なぜこのタイトルなのか。

舞台は太平洋戦争の最中の日本。東京から遠く離れた地に眞人(まひと)は疎開してくる。3年前に母親を火災で失った後、父が母の妹と再婚することになり、その実家に身を寄せることとなったのだ。

広大な敷地の森の奥には謎めいた洋風の塔が建っており、そこに住み着いていると思われるアオサギが眞人にちょっかいを出してくる。聞けば、母親はまだ生きていると言う。眞人はワナだということを承知の上で塔の中へ足を踏み入れる。

やはりジブリといえばファンタジーということで、本作も例外ではない。ただその世界観は壮大かつ個性的である。

塔の中の異世界はあらゆる時代と繋がる結節点であり、その世界の均衡が崩れると現実世界に災厄が起こる。異世界には何故かやたらと鳥がいるが全然可愛げがない。そんな鳥たちに追いかけられながら、眞人は異世界の主である大叔父の元にたどり着く。

異世界の風景は斬新で、予想がつかない展開が次々に訪れることもあり、まったく飽きずに観ることはできる。でも、感動や感心といった心を動かされるような体験はなかった。時間が経って湧き上がってくるようなものも今のところない。

淡々としているというのだろうか。問題のタイトルも、母が遺してくれた本の表題として出てくるが、ストーリーのどこかでダブルミーニングになっている気配も見抜けなかった。

(何度めか分からないが)引退を撤回してまで作ろうとした作品だから、強い思いはあるのだろうけど、伝わるのは真のジブリファン、宮崎駿ファンだけなのかもしれない。とすると、次作があってもまた観なくなるのかな。

(65点)
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「マイエレメント」

2023年08月21日 22時12分23秒 | 映画(2023)
さんずいにほのお。淡い恋心の行方は?


ピクサーの作品を観るのはいつ以来だろうと調べてみたら、「2分の1の魔法」からちょうど3年になることが分かった。

昨年夏公開の「バズライトイヤー」が低評価もあって映画館に足を運ぶまで至らず、観てもいいかなと思っていた昨年春の「私ときどきレッサーパンダ」、2020年12月の「ソウルフルワールド」はいずれも配信のみと、毎年のように傑作を送り出していた時代が夢のように感じる状態が続いていたのである。

そうした中で本作が劇場公開となったのは、新型コロナが一段落して基本線を劇場公開へ回帰していくことに決めたのか、それとも本作の成績を見ながら判断していくことになるのか。同じディズニー傘下で配信作品の増加が目立つマーベルを含めて、今後の転換点となる作品かもしれない。

これまでのピクサー作品と同様に原題は1字単語で"Elemental"。世界を形づくる火・水・土・風の4つの要素が生命体として共存する架空の都市、エレメントシティが舞台となっている。

言わずもがなであるが、これら4つのエレメントは現実世界における人種をなぞらえたものと受け取れる。火と水が自然界で交わることはないように、同じ都市に暮らす住人でありながら、火のエレメントと水のエレメントはお互いを忌避していた。

というよりも、4つのエレメントの中で明らかに火のエレメントのみが疎外されている世界であった。近づくと木が焼かれてしまうなど、威力が強すぎて仕方ない部分もあるけれど、他のエレメントと相容れない火のエレメントは、同種だけが暮らすコミュニティを形成し、ますます閉じこもるようになっていた。

物語の主人公は、そんなコミュニティ内で雑貨店を営む夫婦のもとに生まれたひとり娘・エンバー。両親や隣人たちからたっぷりの愛情を受けて育った彼女は、雑貨店の立派な跡継ぎになることを目標に日々努力を重ねていた。

ある日、雑貨店に異変が起こる。矢継ぎ早に来る来客の難しい要求に耐え切れなくなったエンバーは、地下室で怒りを爆発させ、店舗の水道管を破裂させてしまう。みるみるうちに火の天敵である水で満たされていく地下室。そして、あふれる水と一緒に水道管から出てきたのが、水のエレメントの住人であるウェイドであった。

ウェイドは市役所の職員で、エンバーの店舗が違法建築であることを発見する。このことが正式に役所に受理されれば雑貨店は営業停止になってしまう。焦ったエンバーはウェイドを追いかけ、行ったことのないエレメントシティの中心街へ足を踏み入れることになる。

差別や偏見を取り除き、多様性を尊重しようというのは普遍的なテーマであるが、調理するのは意外と難しく、特に最近のディズニーは、行き過ぎたポリコレ的な批判を受けることも多い。

しかし本作は、差別を受けている火のエレメントからの一方的な物言いではなく、火と水それぞれに長所と短所があり、お互いが補い合うことで新たな世界が広がるということをバランス良く描いている。

もちろん分かりやすいキャラクターの設定も効果的だ。気性の激しいエンバーが女性で、泣き虫で穏やかなウェイドが男性というのは、最近のジェンダー論争に照らし合わせると逆にステレオタイプ過ぎるように見えかねないが、性格はエレメントの属性という整理ができるから許容範囲であろう。

エレメントの特徴を展開の小道具としてうまく使っている場面も印象に残る。エンバーが瞬時に物を溶かして自由自在に成型するのを見て驚くウェイド一家が微笑ましい一方で、密閉空間でエンバーの熱によって蒸発していくウェイドに胸を締め付けられる。

かつての、と言うと語弊があるかもしれないが、良質な作品を次々に生み出していたピクサーの面目躍如といったところだろうか。その甲斐あってか、日米ともに公開直後は苦戦した興行成績が口コミ等の効果で粘り強さを発揮し、特に北米ではピクサー史上前代未聞のカムバックと評されている。

上述のとおり大きな転換点として、今後のピクサー、ディズニーの発展に期待したいところである。

(80点)
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「しん次元! クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜」

2023年08月06日 10時00分34秒 | 映画(2023)
作品が生きる条件とは。


今年は「クレしん」の劇場版第1作「アクション仮面VSハイグレ魔王」が公開されてから30年という節目の年。それを記念してか、今回は「しん次元」と冠して特別に3DCGアニメとなった作品が公開されることとなった(※イオンシネマも30周年記念を押し出していた。正確に言えばワーナーマイカルシネマズ海老名が誕生して30年だが)。

脚本・監督は大根仁。実績十分の氏がしんちゃんワールドをどう調理するのかが注目されたが、個人的な感想としては、特に悪くはないが取り立てて大きな驚きがあったわけでもないといったところだろうか。

劇場版クレしんには暗黙のノルマのようなものがあって、おバカでちょっとお下品な設定や展開と、家族や友達との熱い絆という、対照的な二つの要素を組み入れるのが定番となっている。ものすごく冷めた言い方をすれば、前者でおこちゃまを釣り、後者で一緒に見に来た大人にも満足してもらいましょうという算段だ。

その点では、今回お下品要素はかなり少なかったような気がする。ゲストキャラクターや彼らが所属する組織の名前も普通だったし、しんちゃんのおしりがフィーチャーされるのもアニメのレギュラー放送と大差なかった。

熱い絆についても、かすかべ防衛隊は完全な脇役、野原一家が団結する場面も少なく、みさえもひろしも外側からしんちゃんの無事を祈るしかできない展開が多かった。その代わりに中心になったのは、本作のゲスト・松坂桃李が演じる非理谷充としんちゃんの友情であった。

幼いころから家族の愛情に恵まれず、特技も友達もないまま大人になり、鬱屈とした生活を送っていた非理谷に闇の力が憑りついて世界の危機が訪れるのだが、しんちゃんは怪物と化した非理谷の体内に入り、彼の過去に遡って子供のころの非理谷と友情を育むという展開だ。

良い話だし、筋も通っている。この世の中、おもしろくないこと、うまくいかないことばかりだけど希望はあるというメッセージも伝わってくる。

ただその効果は未知数である。上述のように今回はしんちゃん以外のキャラクターに見せ場が少なく、クレしんに馴染んでいる観客への訴求力が若干弱いのである。

売りである3DCGも評価は分かれるだろう。オープニングでしんちゃんとみさえの追いかけっこが繰り広げられる。狭い路地をすり抜け、キックボードや自転車を使って駆け回り空を飛ぶ。ハリウッドのアクション映画を彷彿とさせる構成で、これをやりたい故の3DCGだったのかと思ったが、必要だったのか?ファンはこれを求めているのか?という問いへの回答は出ない。

結論としては、冒頭のとおり本作は30周年の特別企画と割り切るのが妥当なのだろう。エンディングで流れた来年の特報では、画像はノーマルのしんちゃんに戻っていた。

ただ公開日は夏休みでもいいのかもしれない。競合作品がないからか、GWだとコナンに譲る大きなスクリーンを確保できていたし、多くの子供の動員も期待できそうである。

(60点)
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「交換ウソ日記」

2023年08月03日 20時09分23秒 | 映画(2023)
アナログな恋があたたかい。


テレビCMの起用社数ランキングというのが時々話題になる。これは様々なジャンルの名立たる企業が「この人を起用すれば商品が売れる」と判断した結果を積み重ねた、いわばタレントのパワーランキングである。

2023年上半期の女性タレントの上位には、川口春奈、芦田愛菜、今田美桜、永野芽郁、橋本環奈、広瀬すずといった面々が並ぶ。芦田さん以外は20代前半の文句なしに最前線にいる女性たちだ。

しかし世の中が動き続ける中で、彼女たちのすぐ後ろでは、次の最前線を目指しての熾烈なレースが繰り広げられている。上下5歳くらいの年代を塊とすれば、次の世代は現在20歳前後の層となる。

ひとつ上のステージに上がるチャンスをうかがう彼女らにとって、CMやドラマの脇役などと同様に飛躍の舞台の定番となっているのが劇場版の恋愛映画である(もっと広げて学園モノという括りもできるが、映画では不思議と恋愛かヤンキーに限られてしまうので、ここでは言い切ることにする)。

ただこの手の作品は、原作が豊富にあって予算もそれほどかからないからか、かなりの頻度で製作されており、実際にはそれほど印象に残らないということもままある。

そんな中で本作。公開のタイミングが良かったのかもしれないが、興行的に健闘を見せており、各サイトで見るレビューの評価もなかなか高い。

ちょっと見たストーリーもどうなるのか気になるし、「Pearl パール」の後に一転して甘酸っぱいのもいいかもね、ということで観に行ったわけだ(前置きが長い)。

ヒロインは桜田ひより(20歳)。相手役は高橋文哉(22歳)。クレジットは男性が先に出るが、物語の主役は間違いなく桜田演じる黒田さんである。

桜田ひよりは子役のころから見ていたが順調に成長した感じがする。とにかく目の大きさが最初に来るが、その他のパーツも大きく厚みがあるので、何というか大画面負けしない。

高橋文哉は仮面ライダーゼロワンで主役を演じたとのことで、まあさわやかです。少女漫画特有の、女子生徒にキャーキャー言われるモテ男子キャラで、そんなの本当にいるのかね?と思うのだけど、彼であれば人気があること自体に違和感はない。

物語は、移動教室というシステムを使って、モテ男子・瀬戸山くんが同じ机を使っている女子にラブレターを送ったことから始まる。

瀬戸山くんは生徒会長の松本さんに送ったつもりだったのだが、その手紙を受け取った(同じ机を使っていた)女子は黒田さんだった。気づかずに手紙のやりとりを始めた二人。その後もう少しお互いを知るためにノートで日記を交換しようということになり、良い雰囲気になってきたと思ったときに瀬戸山くんのメッセージに「松本」の文字が。

ショックを受けると同時に何とかこの間違いを正さなくてはと思うが、きっかけをつかめずになし崩し的に交換日記を続けてしまう黒田さん。彼女と松本さんが幼いころからの親友というところが、また話を複雑にしていく。

まあハッピーエンドになることは織り込み済みなので、ポイントはそこに至る過程でどれだけときめきを感じさせてくれるかということになる。

その点、同じ列で観ていた若い男女のお客さんがすごく素直で良い反応をしていたが、とにかく主役の二人がかわいくかっこよく、初々しくてさわやかなので、終始微笑ましく見ていられる。瀬戸山くんが黒田さんのほっぺたをむぎゅっと潰すなんて思いっきりベタな場面が結構出てくるけれど、恥ずかしさの手前で踏みとどまっている。

あと、織り込み済みと書いたけど、ストーリーも少し意外なところがあって、描かれなかった瀬戸山くんの心情の推移が最後になって分かるところは良かった。彼は、松本さんに手紙を出したのではなく、同じ机を使っていたひとに送っていたのであり、黒田さんと会話を重ねることで彼は彼なりにいろいろ考えるようになっていたのだ。

上では「パール」とのバランスで甘酸っぱい作品をと書いたが、どちらかといえば日本テレビで放映しているドラマ「最高の教師」の荒んだ高校との対照性の方が際立っているかもしれない。この高校、黒田さんの元カレも含めて悪いひとがまったくいないのである。

(80点)
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「ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE」

2023年07月29日 20時50分46秒 | 映画(2023)
ハリウッドの大看板を背負っている自負。


とにかく長い。決して間延びしているわけではない。むしろこれでもかというくらいアクションシーンがてんこ盛りで飽きさせない。ただこれでPART1なのである。おそらくアイデアが湧いて仕方がないのだろう。

H.フォードの80歳は、それは驚いて当然なのだが、T.クルーズの61歳というのは、やっている役が年相応じゃないだけに更に上回る驚きがある。

CGなどに一切頼ることなく、全速力で街を走り、カーアクションをこなし、予告や宣伝で大量に流れていたように断崖の上からバイクでダイブまでしてしまう。しかもあのシーン、一連の流れではクライマックスではなく対決の場へ向かう中のできごとなのである。

アクションシーンがてんこ盛りと書いたが、種類の違うアクションを様々な舞台装置を使って見せており(格闘、カーチェイス、テクノロジー、心理戦、空港、列車、時限爆弾、変装など)、とにかくぜいたく至極である。更に、登場人物が単純な1対1の対立ではなく入り組んでいることから、組み合わせのパズルでも楽しませてくれる。

ともすれば複雑で見失いそうになるところを、なんとか付いていける(正確に理解できていないかもしれないが、ごまかせる範囲までは)ように作っている構成も巧みだ。

今回2部作となった理由として、アクションがインフレなこともあるが、これまでにないレベルの敵である点も見逃せない。

タイトルとなった「デッドレコニング」。「推測航法」と訳されていたが、自動学習して相手の先手先手と攻めてくるAIの特徴を表したものである。

現時点で真の目的を捉えられていないAI・エンティティーがパートナーとして選んだ人間が、かつてイーサンがIMF(Impossible Missions Force)に所属することを決めた時代に因縁があったガブリエルという男。イーサンにとって最恐と呼ぶべき敵が登場したわけで、これまで以上の気合が入らない理由がない。

新たなヒロインも登場する。物語の軸となる「カギ」の片割れを盗む仕事を請け負ってイーサンと出会った女性・グレース。壮大な案件に巻き込まれた彼女は、誰が敵か味方か判断に迷い、救いの手を差し伸べるイーサンをことごとく出し抜く。

一方で前々作の「ミッション:インポッシブル/ローグネイション」から連続して出演しているイルサも登場し、ダブルヒロインの選択を迫られる瞬間が訪れる。

繰り返すが、半分でこの分量である。後半はこれを上回る規模と頻度の見どころがある作品となるに違いない。ちなみにストライキの関係で撮影が遅れているという話を聞くが。

あと、戸田奈津子女史の訳。AI・エンティティーを「それ」で通しているが、それが見えたらとか、その名前を口にしたらとかのホラーじゃないんだから。

(80点)
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「Pearl パール」

2023年07月28日 06時00分07秒 | 映画(2023)
「ゴス」、鈍器で叩いたときの擬音の響きにも似て。


A24作品って実はそれほど好みではない。後味が良くないことが多いというのが大きな理由だと思うが、それでも目に留まる、興味をそそられて観に行かずにはいられないというのも特徴である。

前作の「X エックス」も評点としては平凡ながら、その特異な作風は記憶にこびりつくもので、まさにA24のA24たる証であった。

その前作で若さに執着する醜悪なばあさんとして観る側に生傷を遺したパールの前日譚が本作である。よほど自信があったのか、「X エックス」のラストで予告篇のような映像が流され存在が明かされていた。

「X エックス」の惨劇から50年以上遡るだろうか、時代はスペイン風邪が世界的に流行していた1918年である。

舞台は同じ農場。パールは何らかの理由で身体の自由が失われた父と、そんな父を抱え懸命かつ厳格に家を切り盛りする母との3人暮らし。若くして結婚していたが、夫のハワードは自ら希望して第1次世界大戦の戦地へ赴いていた。

既婚者のパールであったが、まだまだ若いこともあり、ショウビズ界に出てスターになることを夢見る少女の一面も持っていた。しかし、そんな夢はいつも母の厳しい指導の前に叩き潰された。

ある日、町の教会でダンサーのオーディションが開催されるという知らせが入る。農場を出て夢をつかむチャンスにパールは浮き立つ。そして、抑圧されてきた彼女の心が歪な形で暴発する。

本作は何を置いてもM.ゴスに尽きる。前作では主役の女性とばあさんの二役を演じながらもそこまで印象に大きく残らなかったが、今回は徹頭徹尾彼女の独壇場が続く。

器量が悪いわけではないが、義妹のミッツィと比べると明らかに華やかさで劣る。踊りもそこそこ上手いが、決め手となるXファクターがない。

何かに手が届きそうになるたびに、その果実は遠くへ逃げて行ってしまう。好意を持ってくれていると思った人が突然自分を避けるような振る舞いを見せる。

ことごとく希望を摘み取られてきたパールが獲得したのは反撃のスイッチだった。スイッチが入る前後のM.ゴスの表情がとにかく圧巻だ。1分以上のスマイルが続く猛毒なエンドロールは映画史上に残ると言ってよい。

本作を観たうえで「X エックス」を振り返ると、あちらの作品のイメージもだいぶ異なってくる。異形なキャラクターが壮絶に潰されるというごく普通のB級ホラーが一転して、これだけの背景を持った人物があんな退場の仕方でよかったのか?と思えてきてしまうから不思議なものだ。

続篇は一転して「X エックス」の後日談となるらしい。また思ってもいない方向から攻めてくるのだろう。「パールは帰ってくる」とはならないかもしれないが。

(85点)
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「1秒先の彼」

2023年07月09日 23時58分19秒 | 映画(2023)
うるうな人たち。


宮藤官九郎脚本といいながらも、台湾でヒットした映画をベースにした作品である。既に完成されている作品を彼がどう調理するのか、そしてそもそも評判となったこの作品はどういう話なのか。主演の顔ぶれと相まってかなり興味をそそられた。

岡田将生が演じるのは、何をするにも1秒早いハジメ。清原果耶が演じるのは、何をするにも1秒遅いレイカ。2人に接点はない。少なくとも、前半部分のハジメのモノローグにそれを感じさせるものはない。

ハジメは、岡田将生が得意とする、見た目はいいけどクセが強くて女性とは縁遠い男性である。その彼が路上ライブをしていた桜子と知り合い、急速に親密になっていく。しかし花火大会のデートを約束した日、バスで待ち合わせ場所へ向かっていたはずの彼の体は突然翌日の自宅の寝床へと移動していた。

最初は時間が翌日に飛んでいたことを信じられないハジメであったが、何故か赤く日に焼けた肌や、写真館に飾られている身に覚えのない自分の写真を見て、時間は確実に過ぎていて、その間に自分の身に何かが起きていたことを知る。そして原因を追究した先にいたのは、レイカだった。

場面は変わり、今度はレイカのモノローグになる。言うなれば解決篇である。

ひとことで言えばファンタジー。この話を許容できるか否かは、映画の魅力と個人の嗜好の組み合わせ(タイミングもあるかもしれない)にかかってくるので断言はできないが、誠実で地味な少女が幸せになるのなら許せるというところか。

ファンタジーなので突っ込もうと思えば穴は開きまくっている。でもそれでいい。枝葉末節は剪定してまっすぐハッピーエンドへ進んでいい。

なんとなく辻褄が合っているような形をとっている名前ネタもかわいい。台湾版も同じような仕組みの話なのか少し気になる。

全体的にほんわかした作品だが、ラジオのパーソナリティで笑福亭笑瓶が登場するのには胸が詰まった。すごく元気そうな声じゃないか・・・。

(65点)
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「インディジョーンズと運命のダイヤル」

2023年07月08日 23時57分30秒 | 映画(2023)
暴走老人に免許返納という概念はない。


人間の記憶とは不思議なもので、昔のことの方がよく憶えているなんてことがよくある。

BKTFの第1作は何度も見返しているから鮮明な記憶が残っていてもおかしくないのだが、インディジョーンズシリーズはそこまで何度も観た自覚はない。にも拘らず、何故かことごとく思い出されるのは「レイダース失われたアーク」なのである。

洞窟をごろごろと転がる大玉、手のひらに懐中時計の跡が付いた桂文珍似の悪役、クライマックスのすべてを葬り去る伝説の力などなど。公開日が12月5日、仙台東宝で正月第1弾ロードショーだったことまで憶えている。

あれから42年。H.フォードはこの7月で80の大台に乗った。

CG処理されたインディが活躍する序章の後に、さっそく生身のH.フォードが登場する。引退間近の老教授となったインディは、息子が戦死、妻のマリオンとは離婚協議中ということで、学生も暮らす集合住宅の一角で寂しい生活を送っている。肌の張りもなく近所から流れる騒音に怒声を浴びせる姿は、困ったがんこじいさんにしか見えない。

そんな中、彼の前に現れたのは、かつての考古学者仲間であったバズの娘・ヘレナだった。初登場キャラです、おそらく。

今回話の中心となるおたからは、古代の偉大な数学者・アルキメデスが作った不思議な力を持つダイヤルである。あまりに強大な力を持つことを知ったアルキメデスが二つに割って存在を隠したという逸話を持つ代物。

その力に魅了されたのが、ナチスドイツ下で科学者として働いていたフォラーである。フォラーはダイヤルを探してインディのもとを訪れたヘレナを尾けてきていた。

ダイヤルの片割れを巡ってひと悶着が起きると、冒頭でがんこじいさんぶりを披露したインディが一転アクションスターへ復帰する。馬に乗るわ、モロッコの狭い街路をトゥクトゥクのような簡易自動車でカーチェイスするわ、世の中の80歳がアクセルとブレーキを踏み間違えるのではと(周りが)戦々恐々としているのとあまりに次元が違うが、やはり見ていてちょっと痛々しくもある。

それにしても何故いま第5作なのか。前作からでさえ15年が経っている。息子を亡きものにしてまで、評判の悪い前作を上書きして有終の美を飾る必要があったとでも言うのだろうか。

その割りには、今回バディとして重要な役を担うヘレナがそれほど魅力的には映らず、どう収拾を図るつもりなのかと見守っているとクライマックスがやって来た。

割れたダイヤルを元に戻し力を得たフォラーが、ダイヤルの力で出現した空の裂け目に向かって飛行機を飛ばす。その先に現れた世界は・・・。

考古学者として生きたインディの最期としてふさわしい場所を用意したのか、このための第5作だったのか。・・・と思わせておいてのラストの展開は良かった。

全身が痛くて痛くないところを探す方が難しい。ここは?・・・あったなー、やっぱり古い方が断然記憶に残っている。

(75点)
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