前回、『家の中で靴を脱ぐ』ということに対してある欧米人の「裸足やソックスのまま家に中を歩きまわられたら、バクテリアをばらまかれる」というコメントを紹介しました。
「だったらスリッパを使えば良いのに。」
このコメントを読んだ時の私の感想はこれでしたが、よく考えると、「きっとこうした人達は、自分専用のスリッパは良いとしても、来客用、トイレ専用のスリッパなど不特定多数の人が使うスリッパなどはそれこそおぞましく感じるだろう」とも思えてきました。
(これは、数日に一度しかお風呂に入らなかったり、シャワーだけで過ごすことに抵抗がない外国人のなかに、「日本人は毎日お風呂に入るけど、家族とはいえ同じお湯に浸かるなんて、信じられない。私達の方が清潔」と言う人がいるのと似たようなこと。)
さて、スリッパについてですが、私が子供の頃にフランスの一流デザイナー(特にピエール・カルダン)のスリッパをよく見かけました。
「ピエール・カルダンの名前もエプロンくらいなら良いけど、室内では靴をはいたままのフランス人がデザインしたスリッパなんて・・・」と、当時は胡散臭く思ったものです。
ところが高校生になって、オードリー・ヘップバーン主演の映画、『マイ・フェア・レディ』の終盤のシーンを見たときに、私は海外にもスリッパを履く人がいることを知りました。
それは、一度出て行って戻ってきたイライザが彼の家に戻ってきたとき、ヒギンズ教授が何事もなかったように椅子にもたれて背をむけたままに言うセリフ、「スリッパを取ってくれないか?」から。
まあ、ヒギンズ教授のように昔の上流階級の人でなくても、たとえばロシア・東欧では、家で靴を脱いでスリッパに履き替えるのが常識になっている地域もあるようです。
さて、家で靴を脱ぐ習慣がない国ですが、近年は「カーペットに泥がつくのが嫌」「フロアーに傷がつくから靴は家で履かないほうが良い」「足のバクテリアより、外の埃の方が汚い」という人ももちろんいます。そのなかには、来客にも靴を脱いでもらう人もいるし、「『あなたの靴は汚い』と言っているようで失礼なので、客に『靴を脱いでくれ』とは頼めない。」と言う人もいます。
面白いなと思ったのは、こうした『日本人的衛生観念』を持った人達のなかには、「家で靴を履かない友人の家に招かれたときは、自分でスリッパを持参する」という人もいるということです。
これは、本人の家が『自分達は家のなかでは靴を履かないけれど、来客には強制しない家』の場合がほとんどだと思いますが、とても思慮深くて、賢い方法だと思います。
しかしながら、この“マイ箸”ならぬ “マイスリッパ”、これを自国と同じような感覚で日本でやったら、訪問された日本の家主は、「私の家のスリッパって、そんなに汚い?」もしくは、「私の家って、スリッパを持参されるほど汚くないわよ」と気分を害すこと必至でしょう。
それにしても異文化理解は、奥が深いです。