ブログに時々登場してもらっている元上司のM氏は、彼の友人・知人に当てて、毎年暮れにその年の感想メールを送ってくれています。そして今年も。
ご本人の承諾を得られましたので、本文を以下貼り付けます。
(ブログで読みやすいように、改行は私が加えました。また、個人的報告部分は削除してあります。)
皆様;
ちょうど3年前の今頃、2009年12月に、以下のように書いて皆さんにお送りしました。
「色々なことのあった2009年も残すところ僅かとなりました。今年を象徴する漢字は「新」ということのようでして、たしかに、日米での新政権発足など、あちこちで新しい動きがありました。ただ、それだけで、この漢字が選ばれたわけではないでしょう。むしろ、「新」という漢字は将来に向けてのキーワードだろうと思います。
長く閉塞感の漂っている日本社会のなかで、いろいろな面で新しい動きや力が生まれてくることを願う、国民の期待感の表れなのかもしれません。鳩山「新」政権が発足して3か月、国民の多くは新しいものが沢山生まれてくるのだろうと大いに期待したと思いますが、今のところ若干迷走しているようです。
念願だった政権交代を実現して喜んでいるのでしょうが、はしゃぎ過ぎはよくありません。国の在り方の基本について、真面目に議論を重ね、地道に新しいものを打ち出して、日本を変えてほしいです。民主党政権関係者の方々、どうぞご留意ください。
それにしても、8月の総選挙の結果は異常でした。たった4年前の総選挙で自民党を大勝させた同じ国民が、今度は全く逆の投票行動をとったわけです。いろいろな分析があろうと思いますが、要するにマスメディアが作り上げるその時々の「風」のようなものに流されやすい国民性なのでしょう。
この2回の総選挙で、そのことがますますはっきりしてきました。このように不安定な投票行動のみられる国では、中長期的な視点にたった政策を実行することは難しい。また、仮にそのような政策を打ち出したとしても、その実効性には疑問符が付きます。来年度からの「こども手当」支給が決まったようですが、少子化対策の切り札とするためには、これを少なくとも20年は継続するくらいの国民的コンセンサスが必要だろうと思います。
4年後に自民党政権が復活したら「こども手当」が打ち切られる可能性を感じた場合、若い夫婦がこどもを作ろうとするでしょうか。年金制度とか、この「こども手当」とかいった、いわば生身の人間に関する長期の施策については、前述のとおり、真面目に議論を重ねて一定の与野党合意を得たうえで進めるべきだと思います。今からでも遅くはない。今後4年間かけて、制度が定着する過程で、これを目指しましょう。」
このように述べてから3年経過し、再び同じようなことが起きました。総選挙の度にこれほどの振れで政権が変わってしまうことをどのように考えたらよいのか。今回については、この3年間の民主党の政権運営に対する国民の失望感が主因でしょう。それに加えて、やはり、3年前と同様に、マスメディアが作り上げるその時々の「風」のようなものに流されやすい国民性のせいでもあると思います。
小生は過去3回合計8年間米国に居住し、大統領選挙も含め、米国の選挙を長年観察してきました。長い歴史を持つ二大政党制のもとで、共和党と民主党がしのぎを削って選挙戦を戦い、その結果として時々政権交代が起きます。
しかし、先般の大統領選でご覧になったとおり、常に両者の差は僅かで、日本のこの3回の総選挙のような極端な結果は起きません。日本の極端な結果は「小選挙区制」のせいだ、という方もおられますが、米国は上院・下院ともに、比例代表さえない「単純小選挙区制」です。米国人の友人と話していると「自分はリパブリカン(共和党支持者)だ。」とか「デモクラット(民主党支持者)だ。」とかいう話が出てきます。
もしかしたら、米国民の9割くらいの投票行動というものは常に一定で、残りの1割くらいが、その時々の選挙結果を左右する「無党派層」なのかもしれません。このことが良いとか悪いとか申し上げません。
そもそも少数意見を代表する小政党の存在を許さない米国の政治システムが真の民主主義かどうか、長いこと疑問視しています。ただ、結果として米国では4年から8年にわたって安定した政権が続きます。オバマ大統領は、この4年間で既に4人の日本国総理大臣と会っていて、年明けには5人目の方と会う予定です。
冷戦が終結して20年経過しました。我々が若かったころに一部の人々が夢想していた共産主義革命など、もはや起こり得ません。このような中で、日本でも、社会の在り方や外交・安全保障などについて若干異なった考えを持つ2つの大政党が競い合い、さらに批判勢力としての複数の「少数野党」が存在するという「日本的な2大政党制」が生まれるかと期待しておりました。
しかし、この状況では当分無理だと思います。無理だろうが無理でなかろうが、日本社会は前に向かって動かなければいけません。震災後の復興、原発事故の終息、東アジア外交の安定化、デフレの克服など、難問が山積していますが、自民党を中心とした新しい政権がかじ取りを間違えずに、この難局にあたってほしいと考えております。
「政」も「官」も「民」も、党派を超えて日本と世界の未来のために働くことが肝要です。何事についても長期的視点をもって事にあたってください。新政権関係者のみならず今回敗北した民主党関係者の方々にもお願い申し上げます。
とりわけ重要な課題は、3年前にも申し上げた「少子化」対策です。日本の人口は1955年に90百万人だったものが、その50年後の2005年に128百万人とピークに達しました。出生率は大きく低下しているため、このままでは、日本の人口は減り続け、2055年には再び90百万人に戻ると推計されています。
1955年の90百万人と2055年の90百万人とでは年齢構成が全く異なります。高齢化により、社会の活力は失われていきます。3年前に民主党が約束した「こども手当」は、すっかり形を変えて縮小され、さらに自民党政権下でどのようになっていくかわかりません。
まさに、小生が3年前の今頃危惧していたことが起きてしまいました。「こどもは国の宝」だとすれば、日本社会全体が歯を食いしばってでも全力を挙げて「少子化」対策を行わなければなりません。「他人の子」であっても、将来その子たちに支えてもらうのだとしたら決して責任を放棄してはいけない。
「子育て」の終わった我々の世代も含め日本社会全体が、これから生まれるこどもたちの「扶養義務」を負っていると考えます。我々「団塊の世代」は、「失われた20年」を作ってしまい、若い世代の希望を削いできたという意味で、現在の少子化社会を創った責任の一端を負っていると考えます。
社会保障(福祉や年金など)における世代間の不公平が、若い世代を心理的に追い詰めていますが、これも我々の世代の責任です。ここはひとつ、中高年層に相当の追加的な負担を強いてでも、若い夫婦が安心してこどもを産み育てることのできるような社会としましょう。
今からでも遅くないので、出生率を反転増加させたフランスなど欧州諸国にならって、諸施策を講じましょう。特に民主党関係者は、2009年マニフェストの精神を思い出して、執拗に、めげることなく新政権に対して要求してください。
あなたたちは、まさに、そうしなければいけない道義的責任を若い人たち(特にこの3年間にこどもを作った人たち)に対して負っているのです。案外、このあたりに民主党の再生のヒントがあるかもしれないですね。
「失われた20年」。2011年の日本のGDPは470兆円で、これはちょうど1992年のGDPと同額です。1992年末の日経平均株価は約17000円で、20年後の現在は約10000円です。世界的にみても、このように長きにわたって停滞している国はありません。
毎年申し上げていることですが、活力のある社会を再構築するためには名目GDPのプラス成長が必須です。名目成長率がマイナスの状況では、政府サイドでは財政再建などできません。民間サイドでも、次年度の売り上げが今年度より多くなるとの予測・期待があってこそ、初めて設備投資や雇用増加の決定がなされるものです。
新政権は「インフレターゲット」を掲げて日銀にさらなる金融緩和を迫るようです。実際に金融面でのアクションをとらなくとも、宣言するだけで効果があるようですから、マイルドな価格上昇(1パーセントくらいか)を目指して、今度こそ有効な策を講じていただきたいと考えます。
様々な景気刺激策によって、来年度以降の名目GDP成長率が2-3パーセントとなれば万々歳です。将来への不安から個人が貯めこんでいる1400兆円といわれる個人金融資産が動き始めるきっかけにもなるでしょう。多くは中高年が保有している預貯金の内、一部でも消費にまわるとすれば、日本経済に大きなプラスをもたらします。
自分で使わなくとも、子や孫のために使えばよいわけです。1400兆円のうちたった1パーセントの14兆円を追加的に消費にまわせば、GDPを3パーセントも押し上げる効果があります。この関連で、中高年層から若年層への資産の移転を促す施策も重要です。
既に一部実施されていますが、相続税を上げる一方で贈与税を引き下げるといったことは有効だろうと考えます。また当然のことながら株価が上昇することも重要で、証券取引にかかる税制面での優遇措置などは打ち切るのではなく、むしろ継続・強化すべきです。「景気」は国民の気分次第でどちらにも動くものなので、過度の悲観主義は排して、元気の出る日本を目指しましょう。
(中略)
2013年、どのような年になるでしょうか。世界と日本とそして皆様方それぞれにとって新しい年がより良いものとなることを祈りつつ。
明年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
M