昨日の東京新聞の夕刊に載った記事です。
東京新聞(2014年1月29日)
私を殴った人へ 一緒に働きませんか 邦人男性が広告「人種差別変えたい」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2014012902000233.html
[ベルリン=宮本隆彦] 私を殴った人へ、私と一緒に働きませんか-。ベルリンの街角で見知らぬ男から人種偏見の暴力を受けた日本人男性が、一風変わった広告を現場近くの地下鉄駅に出した。「憎しみに憎しみを返しても仕方ない。何か建設的なことをしたかった」。憎しみを捨て、人種の偏見を乗り越えたい。
男性は、十四年前からこの町で暮らすソフト開発者の山内斉(ひとし)さん(43)。静岡県富士市で小中高校時代を過ごし、東北大に進学。二〇〇〇年に渡独し、現在は独企業で働いている。
昨年九月の深夜、職場近くのバス停で三十~四十歳の白人の男にからまれ、右目を殴られた。男はドイツ語や英語で「中国人か日本人か韓国人か知らないが、おまえらが大嫌いだ」などと叫んでいた。眼鏡は割れ、目の周りが腫れたが、視力に異常はなかった。
日独の友人は「運が悪かった」と慰めてくれた。でも山内さんには「男が再び誰かに暴行するのを止めたい」との思いが強く残った。男の憎しみをなくすには「一緒に働くのが一番良い」とも考えた。
頭に浮かんだのは自身が携わる子ども向けの算数教材の翻訳ボランティア。米国の英語教材をドイツ語に訳す仕事なら、襲撃時に両方の言葉を口にした男に手伝ってもらえると考えた。
広告はベルリンの繁華街クーダムの地下鉄駅ホームの床に二カ月間掲示された。「親愛なる襲撃者へ あなたの憎しみを止めるため、子ども用教材の翻訳の仕事を提供します」。そんな内容のドイツ語と連絡先を載せ、右目に眼帯をした事件直後の自分の写真も添えた。
もし男が名乗り出て、翻訳を手伝ってくれるなら報酬も払うつもりだ。
これまでに翻訳ボランティアの希望者が二人現れたが、男本人からの連絡はまだない。それでも「彼は広告を見たんじゃないかな」と連絡を待ち続けている。「自分の力で暴力や人種差別をなくせるとは思わないが、一人の気持ちなら変えられるかもしれない」
この記事は、私の海外の友人達にも送りました。
Berlinippon
How Hitoshi Yamauchi deals with evil
http://berlinippon.com/tag/hitoshi-yamauchi/
"Here is an amazing story about a Japanese mathematician who was assaulted in a vicious racist attack in a subway station in central West Berlin.
He went back to the scene of the crime and placed a poster with a job offer to the attacker. The job is intended to teach the assailant humanity and get rid of his hatred. The job description is translations of children’s books."
(中でリンクがはってある記事は、ドイツの新聞のものなのでドイツ語です。)
以前から、「法律があったとしても、それがいけないことだと教えても、人の心から差別をなくすことは不可能」と言っていた私ですが、この山内さんの方法は、一つの希望を与えてくれました。
私の友人達のコメントのなかから、イタリア人のクラウディアさんのものを原文のまま、貼り付けさせてもらいます。
“I think this episode is terrible and wonderful at the same time. Terrible of course because such awful things shouldn't happen, but wonderful because of the reaction of the Japanese man.
It's easy to repay hatred with hatred, but a real man has different ways. So when I read about such episodes my faith in human kind suddenly raises.”
クラウディアさんも、山内さんの行動から一種の力を得ます。
それはクラウディアさんや私だけでなく、多くの人もそうだったと思います。
山内さんを殴ったドイツ人(またはドイツ在住者)が、山内さんに連絡をとるかどうかはわかりませんが、山内さんのことは新聞やポスターで気が付くことでしょう。
そして、彼も含めて、もともとの人種差別者、ただの鬱憤晴らしの人種差別者、乱暴者、自分のしていることがどんなに卑しく、そして実は意気地なしのすることかと正気に返る人が少しでもでてくるかもしれません。
(日本の人種差別者にも、山内さんの行動を見て、何かを感じて欲しいと思います。)