三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

忙中 閑あり

2012年09月21日 | 青草民人のコラム

青草民人さんです。

閑けさや 岩にしみ入る 蝉の声

日本人の感性は、動と静。強と弱、陰と陽のように、物事を対比させて、表現することが多いです。松尾芭蕉のこの有名な俳句も、騒々しい蝉時雨のなかで、他の音を一切受け入れることのない世界を「閑けさや」と表現しています。

ここで、「しずけさ」を「静けさ」と表現しないことも、注目すべきことです。  
「静けさ」というとらえかたは、音を意識的にとらえた表現ですが、「閑けさ」という表現は、状況の表現ではなく、心の内面を表現した言葉です。 
辺りは、騒々しい蝉時雨なのに、心の内面は音のない、閑寂とした世界に芭蕉は身を置いているのでしょう。

「忙中閑あり」という言葉があります。
「忙しい」という文字は、「忄」に「亡」と書きます。「忄」は「りっしんべん」といい、部首では「心」を表します。「亡」は「なくす」「うしなう」「消え去る」という意味ですね。「忙しい」という文字は、まさに「心」を「亡くした」状態をいうのです。

人は、忙しい状態に陥ると、ついつい心ない発言をしてしまったり、行動を取ったりしてしまうものです。また、自分勝手に物事を考えたり、他人の言動を不愉快に思ったりもするものです。自分のことしか見えずに、他人のことを思いやることを忘れてしまいます。

『淨土論註』という曇鸞大師の書物に、「蟪蛄 春秋を識(し)らず」という言葉が出てきます。蟪蛄(けいこ)とは、夏の終わりに鳴く蝉のことです。日本でいえばツクツクボウシでしょうか。
蝉は、長い間土の中で暮らします。七年間といわれていますが、外の世界に出て鳴くのはわずか一週間だそうです。
夏の暑いさなかに外に出てきた蝉は、自分が今いる季節を夏だとしりません。それは、春も秋も識らないからです。

この喩えは、十念という、経の言葉をたくさん念仏をしないと往生できないと、念仏の回数ばかりを問題にしている人を蝉(何回も鳴く)に喩えて批判している場面で用いられています。念仏は、心を凝らし、想いを注いですれば、回数は問題ではないということをいっているのです。

忙しい状態の私は、忙しいという状況の中に身を置いているので、周りの状況が見えなくなっています。『おー忙しい、つくづくおー忙しい』と鳴いているツクツクボウシのようです。蝉の声を「閑けさ」やと詠んだ芭蕉のように、感性豊かな暮らしをしたいものです。樹心が書けるこの夏休みの季節は、まさに忙中の閑かもしれません。

皆様、この残暑、ご自愛ください。次号はいつに…つくつく。

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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
静中に動あり (となりのみよちゃん)
2012-09-21 08:59:18
閑寂静澄のおもむきのある句ですね。この蝉が、油蝉かにいにい蝉か、斎藤茂吉と小宮豊隆で論争していましたね。芭蕉は、どんな蝉の声を聴いていたのでしょうか?

中国古典詩に詠まれる蝉は、ほとんどが、秋の蝉、寒蝉です。秋とはいえ、立秋のころ。

うわっ、パソコン開いてコラム見てコメントしていた、こんな時間に。急がなくては、時間が・・・
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結論はニイニイゼミだそうです ()
2012-09-21 17:13:06
「しずかさや」と「しずけさや」はどちらが正しいか。
「しずかさや」らしいです。

閑けさや 岩にせみ入る しみの声
このほうが私にはいいような。
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円さん、すごい才能! (となりのみよちゃん)
2012-09-21 17:38:00
山中や 菊はたをらぬ 湯の匂ひ

これも、その才能を開花して、改ざん、いえいえ、推敲しなおしてみてください!!
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水の音蛙飛びこむ古池や ()
2012-09-22 17:44:55
昔読んだ本に、「古池や」と「閑さや」のパロディがたくさん書いてあった一つです。
古池や 芭蕉飛び込む 水の音
ところがこれは仙義梵の句なんだそうです。
古い池の中へ/かえるがとびこむ/音がする
これは西脇順三郎。
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俳句の才能は、あったものの (となりのみよちゃん)
2012-09-22 17:58:25
円さん、日本語を正確に、読み取る才能、ないような・・・

芭蕉の中では、「一家に 遊女も寐たり 萩と月」が好きです。円さん、おはぎ、召し上がりました?春は、牡丹の季節で、牡丹餅、秋は萩の季節で、お萩、本当かしらね。
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夏と冬のおはぎ ()
2012-09-23 17:38:38
おはぎは夏は夜船、冬は北窓という名前なんだそうです。
http://allabout.co.jp/gm/gc/223752/3/
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そうですか、夏・冬は知りませんでした (となりのみよちゃん)
2012-09-23 17:53:57
ほんと、和菓子には、優雅な名前がつきますね。

「着綿」という和菓子を食べたことが、あります。旧暦9月9日に食べると、長生きするそうです。日本版、月餅?
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くるくる ()
2012-09-24 16:31:51
Youtubeにありました。
http://www.youtube.com/watch?v=AFSfoAGJTjE
素手なんですね。
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