イランで、女性の顔に酸をかけて失明させたとして有罪となった加害者に、被害者の女性が硫酸を男の目に垂らして失明させる権利があるという判決が下った。
残酷な判決だと思ったが、林典子『人間の尊厳』を読み、加害者が罰せられるだけでもまだましかと思った。
被害者数は年々増加傾向にあり、年間150~300人、その大半が10代の女性である。
これは氷山の一角で、パキスタン北西部や都市遠方の村では、被害を受けても警察に通報することも、治療を受けることもできない女性が多いという。
硫酸による暴力は、パキスタン以外にも、バングラデシュや、アフガニスタン、カンボジア、ウガンダなどでも多く発生しているそうだ。
林典子氏を案内をしてくれた、支援団体でボランティアをしているサラ(16歳)はこう語っている。
セイダ(22歳)は夫(45歳)と結婚して4カ月、夫の暴力に耐えきれず、実家に避難した矢先に、実家に侵入してきた夫から硫酸をかけられた。
ナイラ(20歳)は13歳の時、学校の先生の友人からの求婚を断った直後、報復として下校途中に硫酸をかけられた。
男は逮捕され、2009年、懲役12年の刑を受けた。
被害に遭う2日前に撮影された写真を手に持つナイラ。
この写真ではわかりにくいが、『人間の尊厳』の写真だと若さに輝くナイラがはっきりわかる。
現在のナイラとのあまりにもの違いに文字通り言葉が絶える。
シャミン(35歳)は娘のハセナ(17歳)と孫(5カ月)と一緒に暮らしている。
15歳の時に父親が120ドルでシャミンを55歳の夫に売って結婚させられた。
硫酸をかけたのは夫の弟らしくて、若い妻と結婚した兄に嫉妬したためだという。
シャミンの息子(12歳)はカラチの工場で働いているのだが、稼ぎは1日2ドル。
こうした事件が多発するということは「人間の尊厳」、すなわち人権が守られていないからである。
女性の地位が低いこと、男中心の社会ということがまずある。
また、夫と妻の年がずいぶん離れていることなどを考えると、事件の背景には貧困があり、個人の資質だけでは語れないように思う。
硫酸をかける加害者を罰するだけでなく、社会全体の問題として考えなければいけないのだが、ため息しか出ない。
『人間の尊厳』には、キルギスの誘拐結婚についても書かれてある。
知らない女性を誘拐して結婚を迫ることを、男や男の家族は隠すわけではないし、恥じてもいない。
もしも誘拐結婚が文化・伝統だとしたら、硫酸をかけることも文化・伝統になってしまう。