三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

小熊英二『日本社会のしくみ』(1)

2023年10月29日 | 

小熊英二『日本社会のしくみ』にこんな問題が書かれています。

スーパーの非正規雇用で働く勤続10年のシングルマザーが「昨日入ってきた高校生の女の子となんでほとんど同じ時給なのか」と相談してきました。同じ仕事をしているから、同じ時給にすべきか。長年働いている人のほうを多くすべきでしょうか。


小熊英二さんは3つの回答を出しています。
①賃金は労働者の生活を支えるものである以上、年齢や家庭背景を考慮するべきだ。だから、女子高生と同じ賃金なのはおかしい。このシングルマザーのような人すべてが正社員になれる社会、年齢と家族数に見合った賃金を得られる社会にしていくべきだ。

②年齢や性別、人種や国籍で差別せず、同一労働同一賃金なのが原則だ。だから、このシングルマザーは女子高生と同じ賃金なのが正しい。むしろ、彼女が資格や学位を取って、より高賃金の職務にキャリアアップできる社会にしていくことを考えるべきだ。

③この問題は労使関係ではなく、児童手当など社会保障政策で解決するべきだ。賃金については、同じ仕事なら女子高生とほぼ同じなのはやむを得ない。だが最低賃金の切り上げや、資格取得や職業訓練機会提供などは、公的に保障される社会になるべきだ。

どれが正しいというわけではありません。
私はどれももっともだと思います。

戦後日本の多数派が選んだのが①だった。
しかし、今は公務員でも正規が減っている。
専門職の人でも非正規が多いから、いつクビを切られるかわからない。
正規と非正規の格差が生じている。

②は能力の差によって格差が拡大する。
③は公的に保障ということは、税や保険料の負担増大などは避けがたい。
小熊英二さんは③の方向を目指すべきだと言います。

どれを選ぶにしろ社会の合意が必要。
方向性が決まれば、政治家はその方向性に沿った政策を示し、その政策の実現に向けて努力しないといけない。

しかし、橘木俊詔『日本の構造』には、社会保障支出、公教育支出ともに多額でないという事実からして、日本が大きな政府になることはないであろうとあります。
小熊英二さんは今までの日本の社会のしくみではもうもたないと書いています。

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橘木俊詔『日本の構造』(2)

2023年10月21日 | 

橘木俊詔『日本の構造』を読み、日本は福祉、教育にお金をかけず、社会保障が不備だと教えられました。

①福祉
日本人は福祉の恩恵を受ける人を好まない。
なぜなら、そういう人は怠けていて、福祉にタダ乗りしているとみなす人が多いから。

老後の経済支援、病気や要介護になった人への看護・介護は家族の役割だったが、家族の絆が弱体化している。
家族の変容は福祉の提供方法に大きな変化を与えた。
福祉は自分で担うという自立意識の確保か、それとも年金、医療・介護といった保険制度の充実という社会保障制度の確保か、という選択を日本国民に迫る。

②教育
教育の利益は私人が享受するものなので、公的負担は少なくてよいという社会的信念があるため、子ども手当が充分に支給されない。

日本の公的教育支出の対GNP比率は2.9%と、OECD35か国中、2018年は最下位で、2020年は下から2番目。
先生や教授の教育負担・事務負担が大きく、よい研究・教育ができない。

1970年ごろの国立大学の授業料は年額1万2000円だったが、国庫が国立大学への支出額を増やさなかったため、53万5800円と、45倍近くも高騰している。

日本の学歴社会は機会の平等がなかった。
本人や家族が教育費を負担しなければいけないことは、収入が多い家庭の子どもしか大学に進学できないことになる。
それは能力の高い人、勉学意欲の強い人でも大学進学をあきらめねばならないことにつながるので、社会のロスを生む。
政府の教育費支出が少ないと、多人数教育になるから、学ぶ生徒の学力向上にとってもマイナスである。

③社会保障
社会保障とは、政府が国民から徴収した社会保険料と税金を財源にして、福祉分野での支出を国民に対して行う活動のこと。

日本の社会保障は高齢者への所得保障が最大の目的となっている。
中年・若年・子どもへの対策が遅れていて、保育施設や子ども手当なども不充分。
子育ては親の責任でなされるべきで、社会の義務ではないという伝統が生きている。

日本は国民皆保険と思われているが、実態は違う。
一定期間、保険料を支払っていなければ給付を受ける資格がない。
国民保険の収納率は約90%。
国保の保険料納付率は年齢によって差があり、25~29歳は55%前後、55~59歳が77%前後である。
国民年金の未納率は3割弱。
厚生年金も5%の人は保険料を払えていないので、年金も皆保険とは言いがたい。

母子家庭の約半数が生活保護世帯。
生活保護受給者は高齢者を比率が高く(54.1%)、高齢単身女性の比率がとても高い。
年金支給額が充分であれば、高齢単身女性は貧困にならない。

生活保護基準以下の所得しかない人のうち、10~20%しか支給を受けていない。
フランスでは92%、アメリカ60%、ドイツでも37%である。

なぜ日本は低いのかというと、申請手続きが複雑であるし、資格審査が厳しい。
そして、政府から支援を受けるのは恥だという意識がある。
さらに、親族に経済支援の能力があれば、それに頼る雰囲気が社会にある。

では、どういう貧困対策がいいのか。
橘木俊詔さんの説く貧困対策は、社会保険制度や最低賃金制度の充実。

所得税は累進構造なので、再分配効果がある。
ところが、日本の所得税の最高所得者への税率は1986年が70%だったが、2015年以降は45%。
税率が高いという高所得者の声に、政府が応じたため。
新自由主義の国は所得の再分配政策をさほど実行しない。

国民がどれだけ経済効率を重視するのか、あるいは平等志向を尊重するのか、その比率の大小によってその国の賃金・所得格差、あるいは地域間格差、ひいては教育格差などの程度が決定するのである。
日本は自由主義、資本主義を是とする人が多数派なので、今後も種々の格差は縮小せずむしろ拡大する可能性があることを予想できる。その典型なのがアメリカであり、経済効率は高いが格差も大きい。逆の立場は北欧諸国などである。国民は平等主義を好むので社会民主主義の国であり、格差は小さいし福祉国家になっている。


選択肢は3つある。
①誰にも頼らずに自分で福祉のことを考えよ、といういわばアメリカ型の自立主義である。
②過去の日本は家族の絆に頼るという美徳の国だったので、今進行中の絆の崩壊を元の姿に戻す案。
③ヨーロッパのように福祉の担い手は政府という福祉国家にする案。

社会保障支出、公教育支出ともに多額でないという事実からして、大きな政府になることはないであろう。

公共投資抑制の声が強まり、現在はそれが削減されている。社会保障、公的教育支出、公共投資が多額でなければ、政府支出は大きくならないのであり、今後の日本は小さな政府でありつづけよう。

橘木俊詔さんは格差の是正には悲観的なようです。

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橘木俊詔『日本の構造』(1)

2023年10月17日 | 

橘木俊詔『日本の構造』によると、日本は小さな政府の伝統があるそうです。

国民負担率は、国民の所得に占める税金や社会保険料などの負担の割合です。
アメリカが33.3%、日本の42.6%(2022年度は47.5%)、イギリスの46.5%。
アメリカはとても小さな政府の国である。
フランス67.1%、スウェーデン56.9%は大きな政府。
ちなみに、日本の一人あたりの国民所得は2019年に25位。

政府支出の対GNP比率を見ると、アメリカ、日本、スイス、オーストラリアは小さな政府。

アメリカは自立の精神がとても強いから、他人の助けには依存せず、政府に頼る気持ちが希薄なので、国民は政府のサービスを受ける気がさほどなく、政府も国民に福祉を提供する必要がないと考えている。

日本も福祉、介護、子供の養育・教育は家庭の責任という信念が強いので、政府に頼らない国民性がある。
そのため、政府は教育への支出が少なく、社会保障にあまり金を出さない。

女性(特に母子家庭)と男性、正規と非正規との賃金格差、保険や年金格差、教育格差などがあるが、格差は自己責任とされ、政府が格差を是正しなくてもいいと考える。

日本の企業は終身雇用、年功序列といった安定志向、平等志向があったが、今は市場主義、競争賛美と能力・実績主義へと変化している。
会社は社員を定年まで面倒を見ることをやめ、保険や年金を払いたくないので非正規が増えています。

格差はどうでしょうか。
日本は富裕層と貧困層の格差が存在する国になっている。
賃金だけでなく、教育格差、地域格差、健康格差にまで拡大しており、格差の是正が必要かどうか論争がある。

①所得格差
日本は地域間格差の大きい国で、地域による所得格差も開いている。
東京都の一人あたりの所得は543万円、2位の愛知県が369万円。
最下位の沖縄県が235万円と、東京都とは2.31倍の違いがある。

企業規模間格差が賃金でも格差を生じている。
大企業とは常用従業員数が1000人以上、中企業が100~900人、小企業が10~99人の企業である。

男性の平均月収は、大企業が38万7000円、中企業が32万1500円、小企業が29万2000円。
女性は、大企業が27万700円、中企業が24万4400円、小企業が22万3700円。

規模間格差が目立つのは日本、ドイツ、アメリカ。
イギリス、オランダ、デンマーク、フィンランドなどは賃金の企業規模間格差がほとんど存在しない。

所得格差の大きい国(アメリカ、ブラジル、南アフリカなど)では犯罪率が高い。
失業者が多くて、貧困率の高い国も犯罪率は高い。

②正規と非正規の格差
1992年は、女性の39.0%、男性の9.8%、男女計21.5%が非正規労働者だった。
ところが、2017年は女性の56.7%、男性の27.4%、男女計38.2%が非正規労働者となり、非正規雇用比率は4割に増えた。

男性の正規労働者で平均年収が561万円、非正規労働者で226万円、女性の正規労働者で389万円、非正規労働者で152万円である。
男女計だと、それぞれが503万円、175万円で、非正規の人の年収は正規の人の60%近く低い。

2021年の調査だと、正社員・正職員の賃金に対して正社員・正職員以外の賃金は男女計で平均67.0%の金額となってます。
https://www.jili.or.jp/lifeplan/houseeconomy/1093.html
しかも、非正規労働者は昇給がほとんどない。

母子家庭は圧倒的に非正規労働者が多い。
母子家庭の母親の収入は約243万円で、母子家庭の約半数は貧困である。

非正規労働者は賃金格差に加え、別の格差がある。
・週20時間未満の労働時間しかない非正規労働者は、各種の社会保険制度に加入できない。医療保険制度においては、被扶養人として働いている配偶者の保険に加入できるが、年金や失業に関しては不可能である。

・企業が経営不振に陥ったとき、最初に雇用打ち切りの対象になるのは非正規労働者である。しかも失業後に次の仕事を見つけるのも容易ではない。

・企業は非正規労働者に職業訓練の機会を与えないので、資質や生産性の向上が見られないこともある。

③結婚
結婚と収入は関係があります。
年収300万円未満の男性は、交際経験なしが33.6%。

結婚についても男女の考えの違いがあります。
再婚率は、女性の29~30%に対して、男性は44~59%。
これは女性が結婚生活はもうこりごりと思っているのに対して、男性は渋々離婚していることの説明になるし、独り身だと家事や子育てに苦労するので、再婚を希望することになる。

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岡田憲治『なぜリベラルは敗け続けるのか』(2)

2023年10月05日 | 

岡田憲治『なぜリベラルは敗け続けるのか』に、野党が歩み寄って共闘する必要があると書きます。

「ざっくり言ってしまえば、「ほんとにそれでいいのかなあ」と「やっぱりそうだよな」の間で振り子のように揺れるものが、信念や思想というものです。

そのとおりですが、なぜかお互いが足を引っ張り合い、中には自民党にすり寄る政党もあります。

では、どうしたらリベラルが選挙に勝てるのか。
人権、平和〈護憲)よりゼニ、すなわち貧困や格差の是正を訴えるべきだと、岡田憲治さんは訴えます。

「朝まで生テレビ!」でのやりとりです。

田原総一朗「なぜアベノミクスで消費は拡大しなかった?」
泉房穂「国民にお金を使わないからですよ。やってることが間違ってるからです。日本の政治は30年間 間違いを続けてるんであって、国民の負担を軽減すればいい、子供や家族の支出を諸外国並みに2倍にすればいいのであって、お金をどこに使うかの使い道が間違ってるんですよ、ちゃんと子供たちや家族の応援に金を使って、そういった層がお金を使えるようにすると消費に回るんだから、そもそもやってることが間違っていたと私は思いますよ、国民のためにお金を使わないと」

https://twitter.com/siroiwannko1/status/1685108301061861376
泉房穂さんの意見はもっともだと思います。

月額10万円以下の年金で暮らす老人たちは、年金、医療費、物価が死活問題である層であり、同時に、選挙があったらかならず投票所に行くという律儀な人たちです。

所得の再配分政策に転換し、男女の賃金格差、最低賃金、医療費、社会保障などを是正する。

年金暮らしの老人、非正規労働者、女性といった人たちが投票しようと思う政党があればいいのですが。

そもそもリベラルとはどういう意味でしょうか。
リベラルと左翼は違います。

ウィキペディアによると、3つの意味があります。
①個人の自由や多様性を尊重する。権力からの自由。
アダム・スミスは経済活動に対する国家の介入を批判し「小さな政府」を説いた。
②各人の自由な人生設計を可能にするため国家の支援が必要と考える。権力による自由。社会保障や福祉国家を整備する。
③政治的に穏健な革新をめざす立場。

①の意味だと小さな政府がリベラルです。
政府に頼らず、自助でなんとかすべきという考えです。
ところが、②の意味では大きな政府のことになります、

アメリカでは連邦政府が社会的弱者を救済するために財政出動し、企業の経済活動にも一定の規制を課す「大きな政府」を支持する立場を「リベラル」と呼ぶ。(金成隆一『ルポ トランプ王国』)


③の穏健な革新ということは、保守の立場だと思います。
中島岳志さんは「伝統や慣習に謙虚になりながら、漸進的に変えていこうというのが保守思想」と話してますし。

岡田憲治さんの定義は②と③を足したものだと思います。

国家よりも個人を、伝統よりも新しい価値観をやや優先して、そして経済を市場だけに委ねないやり方で社会を守る。

もう少し丁寧に言うと、

現代社会はグローバルな世界なのだから、国家の権威や家族の伝統などという価値よりも、この世界を支えている多様な人たちと個人としてして結びついて、風通しよく自由にものが言え、「努力など無駄だ」とすべてを諦めてしまう人をなるべく少なくする世の中を、自分と同じ欠点だらけの友人たちと相談しながら、なんとか運営していくしかない。


ところが、保守とは改憲派で国の秩序や愛国心を重視し、リベラルが護憲派で個人の権利や多様な価値観を尊重するということになっています。

本来ならばリベラルとは「公正な社会のためには政府は適切に介入すべき」というスタンスのものであるのに、日本の場合、「自己責任」と「小さな政府」を錦の御旗とするネオ・リベ派の主張があたかもリベラルの代表意見であるかのように誤解されている状況が今なお続いているのです。
こうした誤解は、日本の左派が「中間層を再構築するための経済政策を」というメッセージを継続的に出して来なかったからです。


小さな政府は共和党、大きな政府は民主党、日本はその中間だと思っていましたが、岡田憲治さんによると、日本は小さな政府なんだそうです。

自公政権は、ヨーロッパにおける右派の財政均衡主義や緊縮政策ほどの締め付けをしているわけではありませんが、それでもOECD諸国の中でも指折りの小さな政府という基本構造を変えようとはしていません。つまり、中間層を再活性化させるための大胆な再配分政策に舵を切るという兆しはそこにはありません。
他方、左派政党、リベラル派言論人の皆さんも、反貧困と格差是正のための政治政策を、政治活動の中心に据えているようには見えません。

日本では、与党だけでなく野党も小さな政府を志向しているのでしょうか。

リベラルは社会的弱者のための政治を目指しているはずです。

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