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三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

久保田正志『オウム真理教事件と解離性障害 中川智正伝』(4)

2025年06月14日 | 問題のある考え
平成15年(2003年)10月、中川智正さんは一審で死刑判決。
平成17年(2005年)4月ごろ、弁護団は佐々木雄司博士に精神鑑定を依頼した。

意見書の執筆を受諾した佐々木雄司博士は6月に二度、中川智正と面会し、解離性障害(祈祷性精神病)と診断した。
佐々木雄司博士は8月と11月にも面会した。
佐々木雄司博士は意見書を4本作成している。

中川智正の症状はかなり激しいものだが、まれな例ではなく、現実には存在しないものが、見えたり、聞こえたり、感じたりする人は珍しくない。

麻原彰晃は光を放っており、そばにいると体が楽になる。
佐々木雄司博士は、中川智正は麻原彰晃と一体化しており、「麻原がそう考えていると思ったらそれはもうやらなければいけないこと。私と麻原とを結び付けていたのは神秘体験」という状態であったと指摘する。

解離性障害は朝鮮半島の巫女(シャーマン)の症状に見られることから巫病とも言われ、沖縄ではカンダーリという。
次第にコントロールが可能になると、巫者(シャーマン)・教祖となる。
同時に、体験の貧困化、職業的狡猾化などが加わってくる。

沖縄のユタや津軽のイタコ、霊能者や拝み屋、ヒーラーにもいる。
天理教の中山みきや大本の出口なおなどの教祖も巫病だった。
麻原彰晃も巫病で、神秘体験をしやすい特異体質だったらしい。
オウムの信者の修行については、先天的な巫者である麻原に憧れて後天的な巫者になるべく修行していた側面がある

巫病は、修行が先行してその後から神秘体験が出現する型と、神秘体験が先行する体験先行型がある。
体験が先行した非修行型には、治療が必要でないタイプと、治療が必要な状態を伴った修行型がある。
オウム真理教の信者の多くに見られる神秘体験は修行型に該当する。

神秘体験に振り回され、日常生活に支障をきたせば治療が必要となる。
中川智正は治療が必要な体験先行型に相当し、同症状の人の中ではかなり激しいものとされた。

控訴審において弁護団は、中川智正の神秘体験、状態が、社会人類学で言うところの巫病、精神科の病名で言えば解離性障害ないし祈祷性精神病に起因し、障害による責任能力の毀損を主張の中心にすえることにし、佐々木雄司博士による精神鑑定の実施を申し立てた。
しかし、高裁は精神鑑定の必要性を認めなかった。

巫病の発症原因はストレスによるものが多く、中川智正の場合は卒業試験や医師国家試験、沖縄県立中部病院の不採用、医師としての勤務開始などがストレスの要因として挙げられる。
沖縄には巫病者が大切にされる風習があり、もし中川智正が沖縄の病院に勤めていたら巫病に苦しむことはなかったかもしれない。
こうしたことが佐々木雄司博士の意見書に書かれています。

出家直後、中川智正はまず立位礼拝をさせられた。
大声で詞章を唱えて体を前方に投げ出すようにして伸ばし、またすぐ立ち上がって詞章を唱えて、という動作を10秒から15秒に1回行うことを繰り返す。

中川智正は立位礼拝をしようとするたびに、誰かに投げられるような感じで体が吹っ飛ぶように倒れて大きな音を出し、また突然立ち上がって歩き出し、障害物等を避けて普通に歩いていたのに、「わし何してた」と言ったりした。

ほんまかいなという話ですが、佐々木雄司博士は「典型的な精神運動性興奮」であるとし、夢遊病のような症状を呈したことについては「解離性遁走」としています。

様々な神秘体験、臨死体験を繰り返す中で、中川智正は輪廻転生を実感するようになった。
アメリカ、ドイツ、チベット、インド、江戸時代の日本などに転生した前世が見え、いずれも麻原彰晃と共にいた。

中川智正は周囲が真っ白になるという空の体験をしているそうです。
悟り体験でしょう。
覚ると三明を得るとされます。
その一つが宿明明、過去世を知る能力です。

生まれてから死ぬまでの間ではなく、何度も転生して修行する。
長い時間での視点からすると、殺したり殺されたりすることも修行の一つ。
死が終わりではないから、死は恐怖ではない。
生命がずっと続いているというのが恐怖だ。

平成19年(2007年)7月、二審で控訴棄却。
平成23年(2011年)10月、中川智正弁護団『絞首刑は残虐な刑罰ではないのか?』が出版された。
中川智正が支援者を通じて収集した明治期の新聞・官報にある絞首刑の記録をデータベース化したものに基づいた研究である。
実質的には中川智正の執筆といってよく、校正から題名、装丁にまで関わったが、著者として名前を連ねることを固持したため、弁護団の名前にしたと、後藤貞人弁護士は語っている。

この本をいただいたので、ブログで紹介しています。
https://blog.goo.ne.jp/a1214/e/7b7140abd9acb8c5e42700c606da6fa2

平成23年11月、最高裁が上告を棄却、死刑が確定した。
江里昭彦さんと中川智正さんの同人誌「ジャム・セッション」を平成24年(2012年)に創刊。
中川智正さんは俳句と「私を取り巻く世界について」を投稿しています。
https://privatter.net/p/4318257

平成28年(2016年)、「現代化学」に「当事者が初めて明かすサリン事件の一つの真相」を発表。
この手記についてもブログで紹介しました。
https://blog.goo.ne.jp/a1214/e/755c21f58a4341a2dac7501e8d86fb0e

平成29年(2017年)8月、再審請求。
平成30年(2018年)5月、再審請求は棄却。
6月、即時抗告。
7月6日、死刑執行。

「智正は巫者であり、麻原も巫者だったようである。先輩の巫者である麻原が後進の巫者であった智正をその状況を承知して利用した」と久保田正志さんは書いています。
麻原彰晃が都合よく中川智正さんを利用したわけではないと思います。

悪霊(?)が見えるという知人がいて、家に結界を張っていると言ってました。
母と自分だけが見えるそうで、知人も巫病なのかもしれません。
中川智正さんと会った時、今も何か見えるんですかと尋ねると、このあたりに光が見えると言うので、へえーと驚くと、全く何の役にも立たないと笑ってました。

私は悪霊は見えませんし、神秘体験をしたこともないですが、生活に支障を来しているわけではありません。
神秘体験など経験しないほうがいいようです。

久保田正志『オウム真理教事件と解離性障害 中川智正伝』(3)

2025年06月09日 | 問題のある考え
昭和63年(1988年)中川智正さんは2月10日から起きた異様な体験が繰り返し続いたので、オウム真理教に電話して、対応した平田信に自分の身に起こったことを1時間から1時間半くらい話します。
「霊性の高い人が電話をかけてきた」と喜んだり感心したりした平田信が井上嘉浩らに電話の話をすると、「それは霊性が高い」と賞賛したと、後から聞いた。

この世界でやっていけないと思った中川智正は、昭和63年(1988年)2月13日にオウム真理教大阪支部に行って入信した。

「平田信陳述書」(平成30年1月15日)
自分は信徒対応で何人ものノイローゼなどの精神疾患を抱えた人を見てきたが、それと同じ目つき・顔つきで「よく周りの人に入院させられなかったな」と思った。
当時のオウム真理教には麻原彰晃の本や教団での修行を通じての神秘体験にもとづく電話が少なくなかった。

中川智正は入信の際、中川智正が「子供の頃から光の粒が降ってくる」と話したところ、井上嘉浩はちょっと目をつぶって「今、あったでしょう」と言った。
その時に、中川智正も同時に光の粒が降ってくることを感じたため信用せざるを得なかった。
新實智光、井上嘉浩らが自身の状態を把握できていたようなので、少し安堵した。

頭頂付近を照らすような白い光は逮捕後の平成9年4月までずっと見え続けている。

大阪支部に行って話をすると、自分に入ってきた痛みや想念を引き取ってもらい、逆にエネルギーをもらっていると感じるので頻繁に通うようになった。

入信後の新しい神秘体験として、身体が勝手に跳びはねる体験があった。
最初の経験は2月17日頃で、夜、仰向けに寝ていたら体が突然、踵と頭だけを着けてブリッジするような形に背中が反り返る状態になり、あぐらをかいて座ったら今度は体が跳ね始めた。
座ったまま体が鞠のようにぴょんぴょんと10~20センチ跳ねては落ちるという状況が30秒ぐらい続いた。
数日後に大阪支部に電話したら、「それはダルドリー・シッディで、修行の途中で起こることである」という説明があった。

4月末に高校時代の友人に跳んでいるところを見せたが、友人によると2センチくらい跳ねただけだった。
久保田正志さんもダルドリー・シッディをやってもらったが、貧乏揺すりのようにしか見えなかったそうです。

脳の活動を調べてもらったり知能検査と心理検査を受けたが、異常は出ず脳腫瘍の疑いは否定された。
癲癇についても脳波の異常はなかった。

昭和63年(1988年)3月に京都府立医科大学を卒業してから神秘体験はひどくなった。
4月2日、医師国家試験を受け、5月15日に国家試験に合格した。
アルバイトで臨床検査の仕事を再開した。

心電図検査医の際、患者の痛みが自分の体内に入ってきて自分も痛みを覚えるという経験をするようになった。
しかも、複数の患者と接した場合はどんどんと入ってくる。
他人の想念もいつのまにか入ってきて、突然感情が混乱して何が何やら分からぬままに仕事が手につかなくなる。
その一方で、自分のエネルギーが人混みなどで流れ出るため、鼻水が出たり顔が浮腫んだりした。

広瀬健一さんも非信徒と接したり、街中を歩いたりすると、カルマ(悪業)が自身に移ってくるのを感じ、表現し難い不快な感覚も誘起されたと書いています。
https://blog.goo.ne.jp/a1214/e/bb9459ec5d1d8a0c3f643100dcaf2bbf

昭和63年(1988年)の夏に麻原彰晃からシャクティパットを受けた。
仰向けに寝ている人の頭のほうに座った麻原彰晃が、額に手を当てて10分から15分くらいエネルギーを注入する。

受けた際、中川智正は踵と首が着いて腹が持ち上がる、弓なりに反るような体勢になり、体の中に温かいものが足の先からずっと入ってきて頭のほうに来るという体験をした。
そして、病院で受けていた悪い影響がすうっと治ってしまうという感覚を持った。

麻原彰晃は人にエネルギーを与えると変調があり、麻原の光がいつもより弱く、顔の皮膚はポロポロとはげ落ちるように崩れる感覚を受けた。
シャクティパットは何日かは効果があったものの、体調は元に戻ってしまった。

広瀬健一さんによると、シャクティパットはイニシエーションの一つです。
https://blog.goo.ne.jp/a1214/e/2b0dcc7613655d08633c4409736150fd

元信者の三国さんがシャクティパットを受けた時の感想です。
一度目はクンダリニーが、上がってきたのを感じた。二度目の時は、頭がい骨の継ぎ目がバキバキいう音をたてた。セックスの絶頂で得る快感より数十倍もの快感だった。体が溶けていき、このまま死んでもいいという感覚だった。
https://blog.goo.ne.jp/a1214/e/c56d72adc028bc63cab3bc5ba633793b

クンダリニーの覚醒、頭蓋骨のたてる音、快感は中川智正さんや広瀬健一も書いています。

麻原彰晃の唱えるマントラを録音して、音としても電波として再生すると、最初のうちは体調の回復に効いた。

自身に起きた巫病の体験の意味と今後の見通しを的確に説明できるのはオウム真理教しかなく、オウム真理教に頼る以外の選択肢がないというのが実情だった。
平成元年(1989年)2月くらいから社会生活を営めないという思いが出てきた。

6月から大阪鉄道病院に勤務するが、病院で倒れた。
周囲は過労と見て数日間休むことを勧められ、上司から精神科を紹介されて受診した。
1時間程度の受診で終わり、薬も出してもらえなかった。

入信してから出家までの間は、私は自分で自分を全くコントロールできず本当に大変で、その間に私は麻原氏に対する無力感・他動性を身に付けてしまった。(平成15年の久保田正志さんへの来書)

7月に出家を決意し、8月31日に出家した。
そして、11月4日、出家して2か月ちょっとで坂本弁護士一家殺害に関与した。
それからもボツリヌス菌や炭疽菌の生物兵器、核兵器、サリンやVXの化学兵器の研究にも動員された。

そして、平成7年(1995年)5月17日に逮捕。
取調べの刑事に「心臓に気をつけてください」と言い、刑事は実際に心臓が悪いので驚いた。

久保田正志『オウム真理教事件と解離性障害 中川智正伝』(2)

2025年06月03日 | 問題のある考え
『オウム真理教事件と解離性障害 中川智正伝』は中川智正さんの巫病について詳しく書かれてあり、非常に興味深い本です。
昭和63年(1988年)2月10日に起きた中川智正さんの神秘体験の続きです。

クンダリニーの覚醒の後、窓から外を見、部屋の中をうろうろして、また座って目をつぶった。 目をつぶっても、まだ目の前は真っ白に光っていました。
「えっ、まだある」
と思って、あっけにとられていると、
「昇ってこい」
という男性の声が自分の心臓の中から聞こえました。
「えっ、えっ、何、今のは」
また恐怖に陥っていると体の中の光が胸から頭頂へと上に昇り始めました。この時にも視野が二つあって上から胸を見下ろすものと、目の前が真っ白になっている視野でした。二重に重なって見えるのではないのですが、視点が二つあって、どちらも見えていました。大画面の映像全体を一度に見ている状態に近いでしょうか。それから頭頂に光が昇り切って、全身が硬直し、小刻みにぴりぴりと震えました。やはり男性の声で、
「お前はこのために生まれて来たんだ」
という声が心臓からしました。
電気が目の前でスパークしたかのように明るくなって続いています。そして私は突然、自分はなんと無駄な人生を歩いてきたんだろうという思いが何の脈絡もなく心の奥底から浮かび上がってきて、涙を流していました。自分に異変が起こっているのはよくわかっているのですが、それが制御不能だったのです。何でこんなことを考えるのだろうと思いつつ、今までの人生が全く無意味であるという感覚もあったのです。
また、光が頭頂に届いた瞬間に、性器に強い快感がありました。射精をした時の感覚というよりも、何か高いところから落下して尾骶骨を打った時のような衝撃があって、快感には違いないのですが、強烈すぎて何度も経験したいと思うようなものではありませんでした。

目をあけてあたりを見回すと夜で、電気をつけるといつも通りの部屋だった。
私の身にこんな大変なことが起こっているのに、この世界はどうして何も変わっていないのだろうと思いました。自分がこの世界の時の流れから外れて別の時間を過ごしているように感じ、また自分はここにいるんだけれど周りから切り離されているような感じがありました。
頭に熱間があったので触ってみると、頭頂部が熱くなって盛り上がっていました。
「えっ」
と思ったのですが、間違いなく盛り上がっていました。そればかりか床に座って頭部に触れて確かめていると、私が触っているうちにまた盛り上がりました。考えられないことだったので私はひどく混乱してしまいました。

広瀬健一さんも「熱くない気体のようなものが上昇しました。これが頭頂まで達すると圧迫感が生じ、頭蓋がククッときしむ音がしました」と書いています。

もっとも、中川智正さんが後日、寮の後輩に頭が盛り上がったと頭を触らせると、「いや、そんなことないと思いますよ」と首をかしげたそうです。

この体験以降、この世界で流れている時間と自分の中で流れている時間が違っている感覚や、この世が風景画のような起伏のない別の世界になってその中で自分が浮き上がっている感覚が始まりました。この世界を今までとは全く違うものと感ずるようになってしまったのです。つまり日常の中で体の中を光が昇っていく体験をして、また日常に戻ったのではなく、この体験を契機にして、私からすれば全く別の世界の中での日常が始まったのです。
医学書を調べ、統合失調症や側頭癲癇の発作、脳腫瘍ではないかと考えた。

次の朝、目を醒ました時、昨日あったことは夢ではないだろうかと思いました。もう一度、目をつぶってみました。まだ目の前が薄ぼんやりと明るくなってました。
「ああ、まだある。もうやめてくれ」
と思いながら起床しました。
いつもと同じ世界なのですが、自分はそこから浮き出していました。自分の皮膚と周囲の間に膜があって、自分がそこにいることや、時間が流れていくことにも違和感があるのです。

部屋でじっと座っていると、目の前で映像が流れはじめた。
麻原氏があぐらのような座り方をしていました。前でひざまづくように座り、麻原氏の組んだ脚に頭をうずめるような動作をしていました。
朝に食べた物を思い出すような感じで、前生で麻原彰晃の弟子だったという記憶が出てきて、否定しようとしても否定できない。

さらに突拍子もないことが次々起きます。
寮の近くの道を歩いていると、犬を連れた女性が歩いていたのですが、犬が女性にじゃれつきながら
「好きです、御主人様」と、声を出しました。

いつの間にか私はもう一人の知人と海の中に浮かんでいました。船の助けが来て、その船の方に人を押しやって、さあ、自分が助かろうと思ったら、私は水を飲みながら沈んでしまいました。本当に水を飲んで口からぶくぶくと泡を出して溺死していく感覚がはっきりとありました。暴走族のオートバイが走ってきて爆発したようなブーンバキューンという音がして、気が付くと自分の部屋でした。

休んでいると上半身が裸の屈強な男性が私の頭の側に座ってました。それは姿・形こそ違っていましたが麻原氏でした。そしてニコニコと笑いながら、私の首を絞めるのです。自分と麻原氏の前世だと分かりました。

夜寝てると、自分の体から別の自分が分離して浮き上がって、天井にぶつかって戻りました。

味がしなくなった酒を飲もうとすると、耳元に
「無駄な人生、無駄な人生」
というささやき声が聞こえてきました。

このようなことが二日くらいの間に起きた。

久保田正志『オウム真理教事件と解離性障害 中川智正伝』(1)

2025年05月30日 | 問題のある考え
久保田正志さんは中川智正さんとは中学1年のときの同級生で、それ以来の友人です。
逮捕されてから、そして死刑が確定してからも外部交通者として面会、文通を続けていました。

中川智正さんとの間では、生前に伝記を出すことについては合意ができていたそうです。
その伝記が『オウム真理教事件と解離性障害 中川智正伝』です。

『オウム真理教事件と解離性障害 中川智正伝』に中川智正さんは温厚で人の悪口を言わない、友人も多いとあります。
中川智正さんには一度会ったことがあります。
すごく気さくで話しやすい人でした。
藤田庄市さんの本に中川智正さんは巫病だとありますが、巫病でなければ患者に信頼される医師として活躍しただろうと思いました。

控訴審で弁護団に精神鑑定を依頼された佐々木雄司博士によると、巫病とはシャーマンになる途中などで神秘体験と結びついて起こってくる心身の異常。
巫病に陥ると、神や霊のごとき超自然的存在がその者に介入し、傍目には精神異常としか映らない態様を示す。
コントロール不能で、時や場所を選ばず頻発する。
幻覚、妄想に翻弄されて混乱するが、統合失調症の幻覚、幻聴とは違う。

中川智正さんは昭和37年(1962年)10月に生まれる。
幼少期から神秘体験の萌芽があった。
遠くの山を眺めていると、光の粒がサーッと落ちてくる。
小3のとき、母方の祖父が亡くなった。
その夜、そばに祖父がいて語りかけているような感じがした。

中学に入ると、ノストラダムスの大予言や占いに興味を持つ。
占いへの興味は逮捕後も持ち続けている。
同級生の死などから、死や運命について考えるようになった。

高校2年のとき桐山靖雄の本を読み、運命を変えるという触れ込みに魅かれて、阿含宗に入った。
しかし、運命を変える方法を教えてもらえないなど不信が募って足が遠のいた。

一浪して昭和57年(1982年)、京都府立医科大学に入学。
高校から大学にかけても宗教的なものに関心は持ち続ける。
統一教会のビデオセンター、モルモン教徒が共同で住んでいるマンションに行ったことがある。

大学2年の時に先輩が亡くなり、葬儀の合間に山を見ていると、細かな光の粒が降り注いで、身体の中を上から下へ流れていった。

昭和61年(1986年)に麻原彰晃の本を買っているが、完読したわけではない。
25歳の時、昭和62年(1987年)の秋ごろから身体に変調を来すようになった。

昭和63年(1988年)2月6日、オウム真理教の竜宮の宴にどうしても行かなければならないと思い立ち参加する。
催しの最中に身体の中を風が吹き抜けるような感じを受ける体験をしている。
2月7日か8日にオウム真理教の大阪支部を訪れたが、入信する気はなかった。

オウム真理教への入信の契機は2月10日にあった神秘体験である。
『オウム真理教事件と解離性障害 中川智正伝』に引用されている上申書「最初の体験から入信まで」(平成23年11月18日)を孫引きします。

寮の部屋でのことである。
私はしばらく座っていたのですが、目をつぶった視線の方向、自分の尾骶骨のあたりが白く光り輝きはじめたのです。昼間に太陽を見た時の光の強さよりも強烈で、輝く光でした。
そして、その光が尾骶骨のあたりから背骨の位置に沿ってゆっくりと上に登りはじめるのが見えました。目をつぶっていても、身体的な感覚で尾骶骨や背骨の位置はおおよそわかるものですが、正にその位置に光が見えたのです。
その光は明るさを増しながら胸の付近まで上がってきました。そして、まっすぐな一本の棒のように上がってきた光が左右に枝を出してループを作り、三本になって私の胸の位置で再び一つに交わったのです。その瞬間に目の前が、ストロボが光ったように真っ白になりました。
それまで私は上から見下ろすような視点で光を見ていたのですが、この時は視点が二つになって、自分の目の前にも映像が出ました。まばゆい光の中に自分の背骨と肋骨だけが骨格標本のように黒く映し出されたのです。私はそのまぶしさと何が起こったのか訳が分からない恐怖から目を開けました。
目を見開いて、吐き出すような溜息をつきながら、私は最初と変わらない姿勢であぐらをかいていました。。

これはクンダリニーの覚醒と言われる体験です。
広瀬健一さんも麻原彰晃の本を読んで一週間ぐらいして、ある夜クンダリニーの覚醒をしています。
https://blog.goo.ne.jp/a1214/e/d524a50ddae81dc4fa1525676330bc9d

中川智正さんの体験とは少し違うようですが、麻原彰晃の本を読んだり、オウム真理教の催しに参加したことがきっかけという点では同じです。
突然こんなことになったら、オウム真理教に助けを求めるのは当然の成り行きだと思います。

久保博司『詐欺師のすべて』(3)

2024年10月30日 | 問題のある考え
悪質商法の手口25の続きです。

⑦催眠商法
安売りや無料配布などの名目で狭い会場に人を集め、日用品などをただで配って雰囲気を盛り上げて催眠状態にし、参加者を競わせて高額の商品を売りつける。

⑫無料販売
「無料招待」「無料サービス」「無料体験」など、無料をセールストークにして人を集め、高額な商品やサービスを売りつける。

大学や街頭で声をかけられて統一教会のセンターに連れて行かれると、信者たちから「すてきですね」「タレントの○○さんに似てますね」などほめられたり、「あなたの手相は何万人に一人しかいない。エリートだ」と言われます。
これを「讃美のシャワー」と言うそうです。

⑧キャッチセールス
路上でアンケート調査やモデルの勧誘などを装って近づき、喫茶店や営業所に連れ込んで、長時間の巧妙な勧誘を行い、売買契約をさせる。
「美容に関心がありませんか。ちょっと話を聞いていただくだけで結構です」などと声をかけ、話を聞いていたら断り切れず、契約してしまう。

⑯アンケート販売
アンケートに答えてほしいと近づき、商品を売りつける。

これもかなり前のことですが、繁華街を歩いていたら、金髪の白人女性が「アンケートに答えてください」と言われ、ほいほい答えると、「私は日本語があまりできないので」と言われてついて行ったら、統一教会の建物でした。

⑨被害に遭った人を狙う(二次被害)
被害に遭った人に、前の被害の救済のように見せかけながら、再度金銭を支払わせる。
「あなたはA社の講座を受講していますね。あれは何の価値もない。わが社の講座なら大丈夫。A社は解約してあげます」という言葉を信用して契約すると、A社の契約は解約できないだけでなく、新しい講座の料金も払うことになる。
さらに、別の男が「私どもは総務省の以来で資格商法業者を調べている。あなたの名前が業者のリストに載っている。このままだと勧誘がつづく。名前を抹消してあげます」と言って抹消料を巻き上げる。

⑪次々販売
一人の消費者に次から次へと契約させる販売方法。
顧客名簿が業者間を流れ、複数の業者に勧誘される場合もある。

M・ラマー・キーン『サイキック・マフィア』によると、霊媒は交霊会に来た人たちのファイルを作っていて、霊媒師たちが共有するそうです。

⑩紹介商法
人間関係を利用して、消費者に購入予定者を紹介させて販売を拡大するシステム。
友人や知人から誘われると断り切れないことが多い。

念仏宗無量寿寺は中小企業の社長や会社の部長クラスを信者にし、社員や部下、取引先を入信させるそうです。

⑬展示販売
一定期間に仮設店舗などで商品を販売する。
着付けの講習会に参加して説明を聞いていたら、小物の購入を勧められる。

妻が無料の着付け教室に通いましたが、案の定、着物を勧められ、ダイレクトメールが何度も送られてきました。

⑭薬効をうたって勧誘
「病気が治る」「血行がよくなる」など、薬事的な効果をうたって売りつける。
⑮過量販売
必要以上の量や長期間にわたる契約を迫り、高額な契約をさせる。
避妊薬を「出産後は必要なものですし、お子さんがいらないなら、たくさん買っておいたほうがお得ですよ」と勧める。

信仰すれば病気が治ると説く教団は多いです。
病気治しというアメは、邪教を信じているから病気になったという脅しとセットです。

⑱点検商法
「点検に来た」と言って、「修理ができない」「危険な状態だ」「期限が切れている」などと嘘を言って新品に取り替える。

霊感商法も家相が悪いなどと言って不安をつのらせ、悩み事を相談すると、手相や姓名判断をしましょうと言い、先祖の霊が迷っているとか、霊障のせいだなどと言って、除霊や開運のためだと高価な印鑑や壺などを買わせます。
成功している人には「今、悪い霊を祓っておかないと、あとあと災難が降りかかりますよ」と不安を抱かせます。

⑲士(さむらい)商法
資格には○○士というのが多いので、士商法という。
「もうすぐ国家資格になる」「受講するだけで資格が取れる」など、虚偽の説明をして講座や教材を契約させる。
私的な資格なのに公的な資格だと装ったり、国家試験が免除になるなどと偽って講座の受講を勧誘するもの。

㉑当選商法
「おめでとうございます。あなたは当社の厳正な抽選の結果、当選しました」「景品が当たりました」「あなたが選ばれました」などと、手紙や電話がある。
会社に行って景品をもらうと、商品を勧められる。

㉓利殖(財テク)商法
「高利回り」「値上がり確実」などと強調して、金融商品などを買わせる。

これらのテクニックは悪徳商法でのみ利用されるわけではなく、セールスマンは多かれ少なかれこれらのテクニックを用いているそうです。
⑳㉑㉒をしている教団があるかどうか知りませんが、これらを応用した勧誘法は編み出していそうです。

久保博司『詐欺師のすべて』(2)

2024年10月25日 | 問題のある考え
久保博司『詐欺師のすべて』にある「詐欺の鉄則十五箇条」の続きです。

第十二条 あらゆる手段を使って時間を稼げ
いつか真相がばれるので、嘘を隠しとおす必要がある。
統一教会と自民党との癒着が明らかとなっているにもかかわらず、京都仏教会は霊感商法の問題点を日弁連が指摘したことを、「物欲を離れる体験を得させるためには、しばしば当人が無理だと感じるほどの金額であることが必要になる場合がある」とか「布教の際に必然的に過去世からの因縁を説いたり、また病気や経済苦を克服するには当該宗教の信仰によるしかないとの説明がなされる」などと、いまだにHPで非難しています。
非を認めていないわけです。
https://www.kbo.gr.jp/books/kenkai-02.htm

第十三条 引き際を心得よ
徹底的にしゃぶりつくせるのは、相手の弱みをつかんでいる場合だけ。
限度をわきまえないと、法の華三法行のように宗教法人を解散させられます。

第十四条 強い返済要求には応じよ
粘って時間を稼ぐが、それでも強硬に迫ってくれは返済する。
アレフは賠償金の支払いに応じていません。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20210717-OYT1T50302/

第十五条 だまし取った金は隠しとおすか使い切れ
だまし取った財物を取り戻されては食べていけないから、使い切ってしまうのがいい。
アレフは資産を隠している可能性があると報道されました。
https://www.asahi.com/articles/ASSB22S5ZSB2UTIL017M.html

『詐欺師のすべて』では、消費者生活センターが分析している25の悪質商法の手口も紹介されています。
25の手口はやり口が重なっているものがあるので、まとめています。

①家庭訪問販売
業者が消費者宅を訪問して、商品やサービスを販売するもの。
だまして売りつける手口のもある。
学習教材を販売している、購入すれば一週間に一度、家庭教師の派遣サービスがついていると言うが、教材が送られてきただけで、家庭教師は派遣されない。

㉔職場訪問販売
職場を訪問して販売する。
上司や同僚の目を気にして販売員の話を早く切り上げようとするので、契約してしまう。

子供が小学生の時、同級生の親が来たので何かと思ったら、親はなんとエホバの証人の信者で、勧誘のためでした。
妻が子供を公園で遊ばしていたら、顕正会の信者(子連れ)に声をかけられたそうです。

②電話勧誘
電話のセールスは、話を聞くと延々と説明する。
断ろうとすると、脅迫まがいの言動をすることもある。

⑰かたり商法(身分詐称)
公的機関や有名企業であるかのように思わせて販売する。
「NTTから来た」とNTT職員と勘違いさせて電話機を販売する。
消火器販売で「消防署のほうから来た」「町内会の用件で来た」「自治体の斡旋をしている」などと身分を偽る。

電話料金や電気料金が安くなるという電話はよくかかってきます。
最初のころは本当かと思って話を聞いたものです。
NTTの代理店からなので、NTTの人なら大丈夫かと思ってたら、電話工事の人が「営業の人はとにかく売りつけようとするから」と言ってました。

③マルチ商法
商品やサービスを購入、または契約して、自分も買い手を探し、子会員、孫会員を作って商品を販売していく。
買い手が増えるごとにマージンが入るネズミ講式の取引形態。
上部の会員ほど利益を得られる仕組みとなっている。
しかし、無限に組織が広がるわけではないから、最初に入った一部の者は得をしても、ほとんどは大きな損害を被るため、被害者も加害者となることがある。

教団によっては、入信させた人数、寄付金の額によって、教団内の地位が上がったり、本尊が下付されたりします。

④アポイントメント商法
販売が目的ということを隠して、「あなたが選ばれた」などと、電話などで喫茶店や営業所に呼び出して、不意打ち的に、言葉巧みに商品やサービスを買わせる。

昔、映画館に入ったら女の人が「スピードくじで宝石が当たります」と言うので、くじを引くと、「おめでとうございます。お好きな商品を差し上げます」と言われ、ネックレスにすると、「鎖などの金属類は実費をいただきます」と言われて、いまさら「いらない」とは言いにくいので買ったことがあります。
『詐欺師のすべて』を読んで、あれは詐欺だったのかと今さらながら気づきました。

⑤販売目的隠匿
商品やサービスの販売であることを隠して近づき、不用意につけこんで販売する。
「布団のクリーニング」と言って訪問し、掃除機を売りつけるなど。

正体を隠してサークルや講演会などに誘う教団はオウム真理教や統一教会以外にもたくさんあります。

ホームパーティー商法も販売目的隠匿に含まれるでしょう。
料理講習会などの名目で人を集め、今までの鍋は発ガン性があるなどと言って高価な鍋を買わせる。

⑥送りつけ商法
注文されていない商品を一方的に送りつけたり届けたりする。
消費者は受け取ったからには支払う義務があると勘違いして代金を払うことを狙った商法。

㉑代引配達
送りつけ商法は注文していない商品を送りつけるが、代引商法は、注文されているが、注文どおりの商品を送らず、代金は取り上げる。

⑳景品付き販売
景品を押しつけて契約させる。
解約を申し出ると、「景品を渡したから解約できない」「景品を返せ」などと迫る。

㉕カタログ販売
アダルトビデオなどのカタログを送りつける。被害に遭っても、被害者は名乗り出ない。

久保博司『詐欺師のすべて』(1)

2024年10月20日 | 問題のある考え
久保博司『詐欺師のすべて』(1999年発行)を読むと、インチキ宗教のテクニックは詐欺師と変わらないことに感心します。
詐欺の鉄則十五箇条をご紹介します。

第一条 自分は詐欺師ではないとの信念を抱け
人をだまして財物を巻き上げるには、それ相応の精神的な負担を伴う。
その負担に耐えるには詐欺師本人の心のケア、武装が必要となる。
自分の良心を眠らせなければだませない。

人をだますという仕事をしている霊媒は常に大きな重圧にさらされていながら、秘密を家族にも言えず、親しい友人関係を築くことはできないために孤独であると、ラマー・キーンは書いています。

第二条 演技力を磨け
詐欺にはいろいろな能力や技量が必要だが、最も重要なのは、相手に嘘を信じ込ませる演技力である。
その前提条件として不可欠なのが、広い教養と深い専門知識と立派な服装である。
次に役者としての資質が必要となる。
ゆったりと余裕をもって話す。
詐欺師の演技は相手をだますことが目的なのに、良心のうずきを感じず、平気で耐えられる強靱な神経が必要となる。

サイババは手品を使って超能力があると信じ込ませていました。

文庫版(2002年発行)のあとがきに、第一条と第二条はネット社会では不要だとあります。
詐欺は資質が必要なので、そう簡単にできるものではない。
ところが、ネット社会の詐欺はそうした資質は不要なのである。
手口を研究すれば、誰でも詐欺に成功することができる。
ネットオークションによる詐欺だと、商品を送らない、違う商品を送るなど。
他人のクレジットカードを偽造して商品を買う。

振り込め詐欺は被害者と会うことがないので良心があまり痛まないそうですし、マニュアルどおりに電話をするので、話術や演技力、専門知識はいらないと聞きます。
霊感商法や霊視商法でもマニュアルがあるので、第一条と第二条は考えなくてもいいのかもしれません。

第三条 権威を利用せよ
詐欺師の演技に説得力を持たせる最も重要な小道具が権威である。
有名な学者、政府当局、役所、有名企業、大学など利用できるものがある。
洋服や時計などブランドを身につけるのがいい。
ブランドは無条件に高級とみなされる。
場末にある会社より都心にある会社のほうが信用される。
舞台装置も必要で、ホテルのバーのようなそれなりの雰囲気が必要となる。
さらに、調査会社のリポート、名刺などのだましの武器を作る。

豪華な神殿、高そうな袈裟、有名人信者を客寄せパンダにといった教団があります。
京都仏教会は京都の伝統寺院の多くが所属しているので、信用する人が多いと思います。
ところが、日弁連がまとめた意見書「反社会的な宗教的活動にかかわる消費者被害等の救済の指針」を非難しています。

第四条 人の弱みを握って活用せよ
どういうカモを選ぶのか。
魔がさしやすい人。
酔っている人。
病気の人。
必要に迫られている人。
なんらかの悩みを抱えている人。
特権意識を持っている人。

人の弱点を突くことはインチキ宗教の得意技です。
日本人は、よくないことは先祖の霊が迷っているからだ、前世で悪業を作ったからだといった宗教観を持っているため、そこを脅されると、そうかもしれないと思いがちです。

第五条 無価値なものを価値あるように見せかけよ
嘘の話を作り上げる。
そして、無価値な土地を売りつける、有価証券や手形の話を持ちかけるなどする。

霊感商法では壺や掛け軸などを売りつけてました。
お札やお守りもプラセボ効果以上の効き目はないです。
死んだらどうなるかわからないから、死後の世界というアメとムチは無価値なはずです。

第六条 真実を核にして嘘を構築せよ
100%虚偽であれば、相手を信用させられない。
すべてが嘘であってはならない。

波動、エネルギー、マイナスプラズマ、イオンなど科学用語が使われます。

第七条 最初はまともな話で相手を安心させよ
最初はまともな取引をし、誠意を見せ、警戒心を解いて信用させる。
最初は株で大もうけさせ、最後は大損させる。

年会費1万円とか相談料はお気持ちなどと、最初のうちはお金がかからなくても、神殿を作るのでとか本や機関誌を何冊も購入させたりと、要求がエスカレートします。

第八条 だますなら徹底してだませ
疑り深い者がいるから、徹底して信用させる。
中途半端はだめ。

人は自分が間違っていたとかだまされているとは認めたくないものです。
だから、かえってだまされ続けるとホッとします。

第九条 前科のない者を表に立てよ
相手は会社を調べるから、役員には前科のある者を立てない。

文鮮明は脱税で起訴され、刑務所に収監されています。
黙っていればいいようです。

第十条 必要なら契約書をつくって安心させよ
さらに信用を得るために契約書をつくる。

一般人は契約の文面をきちんと読んで理解している人は少ないと思います。

第十一条 相手をあわてさせ、冷静さを失わせよ
カモの思考力を鈍らせる。
揺さぶりをかけて、冷静な判断力を失わせる。
今がチャンスと印象づける。
次に相手をじらせ、あわてさせる。
人に相談させないようにして孤立させる。
ダメ押しで相手を不安にさせる。

時間を与えると冷静になり、あれっと思ったり、人に相談するので、考えさせる時間を与えないのは鉄則です。


ポール・オフェット『反ワクチン運動の真実』(6)

2024年06月03日 | 問題のある考え
ポール・オフェット『反ワクチン運動の真実』にはクリスチャン・サイエンスについても書かれています。

クリスチャン・サイエンスはメアリー・ベイカー・エディが1879年に設立した。
信仰療法を説き、一切の医療を否定している。

神は完璧だから完璧な世界を作った、痛みなどは実際は存在しない。
病気は身体の症状ではなく精神によって起こるから、信仰によって病気は消える。
天然痘のような病気はワクチンではなく、祈りによって予防することができる。
メアリー・ベイカー・エディは著書に「我々が天然痘になるのは、他の人が天然痘になるからだが、それは物質ではなく精神が病気を取り込み運ぶのだ」と書いている。

科学の特徴は再現性と反証可能性です。
再現性とは、理論で予想されたこと、実験で得られた結果を、他の人がいつでもどこでも再現できることです。
たとえば、STAP細胞は世界中の科学者は再現できませんでした。

ウィキペディアによると、反証可能性とは、自らが誤っていることを確認するテストを考案し、実行することができるということです。
それに対し、宗教や疑似科学などは「自らが誤る可能性を認めない」「誤っているかを確認するテストを考案できない」「検証不可能な説明で言い逃れする」のが特徴だそうです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%8D%E8%A8%BC%E5%8F%AF%E8%83%BD%E6%80%A7

では、祈りで病気が治るのでしょうか。
ポール・オフィット『代替医療の光と闇』に祈りによる病気治療について書かれています。

自分のために家族が祈ってくれることを知っている患者は、回復率がわずかに高い。
祈ってもらっていることを患者が知らなければどうだろう。
こっそり祈ってくれる人がいることが患者の回復に効果あるなら、神の介入が示唆される。
しかし、研究では祈りには効果がなく、神の癒やしが行われる可能性はない。
信仰で病気が治るとしたら、これまたプラセボ効果なわけです。

百日咳、ジフテリア、麻疹などのワクチンは効果と安全性が検証されています。
手かざしによって病気が治ると説く宗教や代替医療があります。
どのようにしたら検証できるでしょうか。

左巻健男『陰謀論とニセ科学』にエミリー・ローザの実験が紹介されています。
1996年、アメリカのコロラド州ボールダー市(人口10万人ちょっと)に住むエミリー・ローザ(9歳)は小学校のサイエンス・フェスティバルという自由研究で、セラピューティック・タッチ(手かざし療法)を検証した。

セラピューティック・タッチはニューヨーク大学看護学部の名誉教授ドロレス・クリーガーが体系化したヒーリングの一種。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%A9%E3%83%94%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%BF%E3%83%83%E3%83%81

セラピューティック・タッチを習得したヒーラーは、患者の身体から少し離れたところに手をかざすとエネルギーの場を感じ取ることができ、その乱れを整えることで治療ができると主張している。

エミリー・ローザの呼びかけで、エネルギーの場が実在するかを検証する実験にボールダー市で開業する21人のセラピューティック・タッチのヒーラーが集まった。
ドロレス・クリーガーにも参加を呼びかけたが、時間がないとして断られた。
https://asios.org/rosa

1996年にジェイムズ・ランディがセラピューティック・タッチの検証実験を企画し、74万2千ドルの賞金を懸けた時は、60以上の団体や個人に申し込んだが、返答があったのは1人だけで、その1人は実験をクリアできなかった。

エミリー・ローザの実験は次のような手順で行われた。(材料費は10ドル)
① エミリーがヒーラーと1対1で向かい合って座る。
② テーブルにはダンボールで作った衝立を用意した。衝立にはヒーラーの左右の腕を通せるように2つの穴が開いている。穴から向こう側が見えないように布が被せられている。
③ ヒーラーは穴に手を通し、手のひらを上に向ける。
④ エミリーはヒーラーの左右どちらかの手の少し離れたところに手をかざす。左右どちらにするかは毎回コイン投げをして決める。
⑤ ヒーラーは左右どちらにエミリーの手があるのか、エネルギーの場を感じ取って当てる。
⑥ 実験の一部始終はビデオで録画する。

テストは280回行われ、当てられたのは123回、正答率は44%だった。
偶然でも半分は当たるはずなのに、それを下回る結果に終わった。

手かざしで病気が治ると主張する教団はエミリー・ローザが考案した実験を公開でしたらどうでしょうか。
信者が増えると思います。

セラピューティック・タッチやレイキは宗教ではありませんが、再現性と反証可能性に問題があるようです。
ホメオパシーやカイロプラクティックといった代替医療は一種の宗教じゃないかと思います。

ポール・オフェット『反ワクチン運動の真実』(5)

2024年05月20日 | 問題のある考え
ポール・オフェット『反ワクチン運動の真実』によると、反ワクチン運動の源流は19世紀の種痘反対運動です。

種痘反対勢力にイングランド政府は妥協し、1898年に良心的拒否法を通過させた。
種痘を受けさせたくない親は受けさせなくてよくなった。
イングランドの種痘の接種率は急落し、天然痘感染と死亡の中心となった。
19世紀、イングランドの親たちは、種痘は純粋でも安全でもなく、自然や神に反する行為だと論じた。だが親の怒りは医師よりは政府の役人に向かった。役人は自分たちに指図する権利もないし、子どもに何を接種すべきか指図する権利などないと考えたからだ。抗議運動の参加者にとって、法定予防接種は許容しがたい自由権の侵害だった。

現代のアメリカも、行政はワクチン接種で妥協し、親の宗教、思想を理由として子供にワクチンを受けさせなくてもよくなっています。

1960年代末から1970年代にかけて、アメリカ疾病管理予防センターは小学校の入学条件として麻疹ワクチン接種を要件とし、1981年までに全ての州で入学に予防接種を義務づけた。
ところがワクチンの強制に反発する親が訴訟を起こした。

1966年、ニューヨーク州議会で入学にポリオワクチンの接種を必要とするという法案が議会を通過したが、親の宗教がワクチンを禁じている場合は免除した。
これはクリスチャン・サイエンスの陳情活動の結果だった。

アメリカではすべての州がワクチンの予防接種を受けないという宗教的免除を認めている。
さらには、2010年までに21の州が予防接種の思想的免除を許している。

クリスチャン・サイエンスはメアリー・ベイカー・エディが1879年に設立した。
信仰療法を説き、一切の医療を否定している。
神は完璧だから完璧な世界を作った、痛みなどは実際は存在しない。
病気は身体の症状ではなく精神によって起こるから、信仰によって病気は消える。
天然痘のような病気はワクチンではなく、祈りによって予防することができる。

メアリー・ベイカー・エディは著書に「我々が天然痘になるのは、他の人が天然痘になるからだが、それは物質ではなく精神が病気を取り込み運ぶのだ」と書いている。

クリスチャン・サイエンスの信者による医療ネグレクトによって死ぬ子供たちがいる。
糖尿病の子供にインスリンをやめさせて死亡させる。
定期検診のレントゲン撮影をしない。
高熱を出した子供に治療師が「神様は病気をお作りにならなかったので、病気は幻なのよ」と言う。
過失致死などで訴えても、不起訴、もしくは無罪判決になる。

信者の子どもたちに麻疹やポリオの流行が起きている。
1972年、クリスチャン・サイエンスの高校でポリオの流行が起き、11人の子どもが身体麻痺となった。
1985年、クリスチャン・サイエンスのプリンシピア大学で3人の学生が麻疹で死亡した。

ブルース・クック『トランボ』は、脚本家であり、赤狩りで刑務所に入ったドルトン・トランボの伝記です。
ドルトン・トランボの母親はクリスチャン・サイエンスの信者だったので、ドルトン・トランボたち子供は予防接種を受けなかった。
俺が言いたいのは、こうした信者たちは罪悪感を抱くことなく行動しているということなんだ。恐れをまったく感じることなく正義を追求している。宗教としてのクリスチャン・サイエンスに対する見解じゃないといわれるかもしれないが、メソジスト派やバプテスト派だけでなくて、どんな宗派についても同じようなことがいえるのだから。ただ、ひとつだけいえるのは、彼らは恐れを知らない心を持っているってことだ。

ウォーターゲート事件に関わったH・R・ハルデマン、ジョン・アーリックマンはクリスチャン・サイエンスの信者であり、ジョン・ディーン、エジル・クローはクリスチャン・サイエンスの大学であるプリンシピア大学の卒業生だった。
クリスチャン・サイエンスは信者数を公表していませんが、かなりの人数ではないかと思います。

クリスチャン・サイエンス・モニターという新聞は、クリスチャン・サイエンスの創始者メリー・ベーカー・エディによって創刊されています。
櫻井よしこさんは「ジャーナリズムの仕事に関心を持ったのは、アメリカの「クリス
チャン・サイエンス・モニター」という新聞の東京支局で助手の職を得てからのことでした」と語っています。
https://www.business-plus.net/special/1404/638001.shtml

ワクチンを否定する団体は他にもあります。
シュタイナー教育のルドルフ・シュタイナーは「予防接種はカルマの発達と輪廻転生のサイクルを妨げる」と考えた。
シュタイナーは神秘思想家、オカルティストでもあるので、やっぱりそうかと思いました。
シュタイナー教育を実践している学校もワクチンに反対しているのでしょうか。

カイロプラクティックはダニエル・D・パルマーが1895年に始めた。
背骨のずれが病気の原因だと考えるカイロプラクティックは細菌説を根拠がないと主張し、ワクチンの危険を説く。

創始者の息子バートレット・ジョシュア・パーマーはこんなことを言っている。
カイロプロクターは全ての伝染病と言われてきたものは背骨に原因があることを発見した。もし100人の天然痘患者がいたら、一人の患者のどこにサプトラクション(背骨のずれ)があるのかを見出し、他の99人の状態も同じであることを証明しよう。背骨を調整し、身体の機能が正常になる。伝染病などない。感染もないのだ。

日本カイロプラクターズ協会のHPを見ると、世界には約10万人のカイロプラクターがいて、日本には608人だそうです。
https://jac-chiro.org/aboutchiro/
会員数12000名規模のカイロプラクティック団体も日本にあります。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000027.000093169.html
背骨の矯正であらゆる病気が治るんだったら、病人はいなくなるはずですが。

新型コロナウイルス感染防止のためにマスクをすることになぜ反対するのかと不思議に思っていましたが、強制を嫌うだけでなく、宗教的信念があるのかもしれません。

ポール・オフェット『反ワクチン運動の真実』(4)

2024年05月15日 | 問題のある考え
モーリス・ヒルマンはおたふくかぜ、麻疹、風疹、水疱瘡、B型肝炎。MMRワクチンなど多くのワクチンを作りました。
子供たちの命を救った研究者がいれば、ワクチンを否定する医師や研究者、弁護士たちもいます。

モーリス・ヒルマンの伝記『恐ろしい感染症からたくさんの命を救った現代ワクチンの父の物語』を書いたポール・オフェットは『反ワクチン運動の真実』で彼らを告発します。

新型コロナウイルス陰謀論を拡散し、ワクチン接種に反対した弁護士のロバート・ケネディ・ジュニアは以前から反ワクチンの活動家でした。
2005年にロバート・ケネディ・ジュニアは製薬会社と医師と公衆衛生当局が共謀してワクチンの危険性を隠していると非難した。
https://jphma.org/topics/topics_47_Kennedy_Report.html

さらに、麻疹ワクチンを開発したジョン・エンダース研究班の一人サム・カッツをワクチンで金儲けしたと非難した。
ジョン・エンダースはワクチンでの特許取得には反対していたので、麻疹ワクチンでも特許は取っていない。

トランプは自閉症のワクチン原因説を支持しています。
https://gendai.media/articles/-/57708?page=3
2024年の大統領選挙にワクチン反対派が2人も立候補するわけです。

「ワクチン・ルーレット」を見て、自分の子供がDTPワクチンによって障害を負ったと信じたバーバラ・ロー・フィッシャーたちは「納得できない親の集い」を立ち上げ、政治にも大きな影響力を持つようになった。
バーバラ・ロー・フィッシャーはあらゆるワクチンに反対する。

共著で出版した『闇の注射 なぜDTPワクチンのPがあなたの子どもの健康を脅かすかもしれないのか』でこう主張している。
アメリカの赤ちゃんたちが打たなくてはいけないワクチンが増えるにつれ、大きな子どもや若者が慢性の免疫病や神経障害になるという報告が増えてきている。喘息、慢性の中耳炎、自閉症、学習障害、注意欠陥障害、糖尿病、関節リウマチ、多発性硬化症、慢性疲労症候群、全身性エリテマトーデス、ガンなどもそうだ。

ワクチンで予防できる病気は実際にはそんなに深刻なものではないとも論じる。
私たちは病気がひどく恐ろしいと思い込んでしまっているのです。1950年代、誰もが麻疹とおたふく風邪にかかっていました。普通の何でもない出来事でした。
ワクチン開発以前は、アメリカでは麻疹で毎年10万人以上が入院し、500人が死亡していた。

インフルエンザについてブログに書いている。
インフルエンザを含む感染症を経験することは、人類の祖先が地球に登場して以来、人間の状態の一部でした。(略)
なぜワクチン学者は人間の免疫システムがその経験を乗り越えられない、益を受けないと考えるべきだと言い張るのでしょう。一度もインフルエンザにかからない方が良いというエビデンスはどこにあるのでしょう。
子供たちがインフルエンザの定期接種をする前は、毎年10万人が入院し、100人が死亡していた。

バーバラ・ロー・フィッシャーがワクチン接種で健康被害が起こると話すことで、子どもの病気の責任という重荷を親たちの肩の上に乗せた。

てんかんと知的障害の本当の原因を突き止めたサミュエル・ベルコビッチのコメント。
ほとんどの親はずっと罪の意識を感じていたので、もう感謝でいっぱいでした。親たちは医者や母子保健専門看護師のところへ行って、子どもを彼らに渡してワクチンを打ってもらっていました。自分たちのせいだと、近所の「ワクチンを打ったらダメよ」という女性の言うことを聞いていれば、子どもは健康だったのにと思っていたのです。そして、我々がそうじゃない、あなたのお子さんは妊娠中にナトリウムチャネルに異常が起きて、それを防ぐ手立てはなかった、こうなる運命だったのだというと、大きな大きな重荷を下ろしたように見えました。何十年も続いた罪悪感から解放されたのです。

反ワクチン活動家は自分たちは安全なワクチンを望んでいると主張する。
だが、反ワクチン運動家のいう安全は自閉症、学習障害、注意欠陥障害、多発性硬化症、糖尿病、脳卒中、心臓発作、血栓、麻痺などの副作用がないというものだ。

これらはワクチンが原因ではないので、彼らのいう安全なワクチンは実現不可能だ。
たとえば、自閉症スペクトラムだと、脳の神経細胞表面のタンパク質を分子と結びつけている遺伝子に異常がある。

ワクチン裁判で負けたのは原告側の研究者、医師や弁護士ではない。
医師は自閉症児の治療を続け、危険性のある療法を行い、サプリを売り続ける。
たとえば、自閉症はチメロサール入りのワクチンが原因だから、体内の水銀や鉛などの重金属を排出させるキレーション療法。

弁護士は訴訟をし続け、勝とうが負けようが報酬は受け取る。
ある法律事務所はワクチン法廷に216万1564ドル10セントの請求書を提出した。
1980年代の百日咳ワクチン恐怖のときには、数百万ドルが補償金や和解金として支払われた。その結果、反ワクチン組織は人身被害弁護士と結託して活動するようになった。弁護士の多くは顧問委員会の一員となってワクチンの危険性を訴え、どう補償金を勝ち取るかを説明する小冊子を作る手助けをしている。

裁判に負けたのは医師と弁護士によって誤った道へ導かれ、自閉症の子どもを育てる負担から解放されたいと思った親たちだ。
ワクチンについて親を脅えさせ、反ワクチン運動活動家と結んでいる人身被害弁護士に金づるを与え、多くの場合、直接自分の診療所で偽りの希望を売る医師の待ち構える腕の中に親を追い込むのだ。

小児科医ラフル・パリク。
強く感情を揺さぶるアピールをして、親たちに子どもに予防接種をすることについて迷い、躊躇させてしまう。論理的に考える人もそうでない人も、こうした感情的な手法は忘れない。一方、医療、科学専門家は正確な証拠と研究を引いて対抗するが、これは多くの親には響かない。感情的ではないメッセージは印象に残りにくいのだ。

國枝すみれ「日本でも陰謀論が再燃?」(毎日新聞2024年5月10日)によると、反ワクチンが陰謀論と結びつき、トランプ、親ロシア、さらには極右がそれらを取り入れて規模を拡大しているそうです。
陰謀論者と反ワクチン派は全く同じグループではないが、かなり重なっている。(略)
いま盛り上がっているのは世界保健機関のパンデミック条約だ。
4月13日に東京・東池袋で行われた反パンデミック条約デモには数千人が集まった。
主催者は「英霊の名誉を守り顕彰する会」の会長で、バリバリの右派。昨年は、反米親露の立場からウクライナに平和を求めるデモを、「米国の内政干渉が日本の伝統文化を壊す」という理由からLGBT法案反対デモを主催している。
https://mainichi.jp/articles/20240509/k00/00m/030/091000c

反ワクチン運動はワクチンだけの問題ではなく、陰謀論や極右とも関係しているとなると、何とも困った話になってしまいます。