「女性自身」の記事です。
https://jisin.jp/serial/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%84/crime/31342
11月10日未明、座間市のアパートで切断された9人の遺体が見つかった事件で、警視庁は新たに8人の身元を確認したと発表した。これを機に、大手テレビ局、新聞社はこぞって被害者たちの実名報道に踏み切った。だが、全国紙の社会部記者は次のように語った。
「いちはやく身元が特定された東京都の23歳女性については、11月6日の時点で、遺族が警視庁を通じて、各報道機関に文面を送っています。それは《亡くなった娘の氏名報道はお断りするとともに……》という一文で始まるものでした」
そんな要請があったにも関わらず、23歳女性の実名は報じられ続けたのだ。
「10日未明に、残り8人の身元が判明したことを警視庁は会見で発表しました。そして遺族たちからの文面を報道各社に配布したのです」
それは8人の被害者たちの遺族や、遺族が依頼した弁護士たちによる9枚の“要請書”だった。冒頭で紹介した福島県の17歳高校3年生の母親による直筆書面も、そのうちの1枚だ。遺族たちが求めていたのは取材の自粛と、顔写真や実名報道をやめることだった。(略)
このように被害者遺族たちが団結して強く要請したにも関わらず、実名・顔写真報道は続けられたのだ。
「遺族に配慮して匿名報道を続けたのは一部のスポーツ紙ぐらいでした。遺族たちがここまで強く要請した背景には、座間事件が抱える2つの特別な事情があります。1つは、“死にたい”などと語っていた被害者たちがいたこと。もう1つは、白石容疑者が被害者女性たちに性的暴行を加えていたと、供述していることです」(前出・社会部記者)
埼玉県の17歳高校2年生の遺族の依頼を受けた弁護士は、本誌にこう語った。
「ネットで騒がれるぶんには、遺族も見ないようにするという対抗策がありますが、大メディアが報じている場合、避けることが難しくなります。テレビをつければ、亡くなった子や、自分たち家族のことが報じられているわけですからね。朝も夜もなく、遺族たちは苦しみ続けているのです」
「遺族に配慮して匿名報道を続けたのは一部のスポーツ紙ぐらいでした」ということに笑ってしまいました。
犯罪報道では、怪我をした人は匿名だし、性犯罪や未成年の被害者は必ず匿名です。
ところが、殺人事件となると、なぜか写真入りの実名報道となります。
おそらく全国紙やキー局の報道ニュース担当の人たちはスポーツ紙や女性週刊誌を軽く考えているでしょうけど、「一部のスポーツ紙」、そして女性週刊誌に人の痛みを知る人間らしさがありました。
今や加害者やその家族だけでなく、被害者の私生活を暴き出すことも珍しいことではありません。
犯罪被害者にも、匿名でのいやがらせの手紙や電話、ネットへの書き込みをする人がいます。
被害者が損害賠償の請求をすると、「子どもの命を金で売るのか」といった誹謗中傷を受けることがあります。
家族にとってみれば、死んだということに加えて、さらし者にされるわけですから、二度殺されるようなものです。
メディアがわざわざ実名報道をしなくても、知っている人は知っているし、第三者が名前や顔を知る必要性はないはずです。
第三者である我々が名前や顔を知りたがるのは単なる好奇心であり、野次馬根性、のぞき趣味にすぎません。
川名壮志『謝るなら、いつでもおいで』に、佐世保12歳同級生殺害事件の被害女児の父親である御手洗恭二さんへのインタビューが載っています。
御手洗恭二さんは毎日新聞に勤めています。
もし断った場合、メディアがどういう風に動くかというのを考えたら、家族に向かうんですよ、やっぱり。(略)
遺族が取材にさらされるつらさは、逆に僕自身が求めてきた側だから、よくわかる。大変だということがね。
たしかに記者じゃない仕事に就いてたら、まあアッサリ会見は蹴っ飛ばせただろうな、拒否できただろうな、っていう気持ちはある。
福岡に転勤してから、二度ほど知らない人から声をかけられます。
テレビに顔が映ったからです。
極端なことをいえば「人前で笑えるか」ということなんですよ。それはもう、考える。「何であんなことがあったのに、ニコニコしてるの」って思う人がいるかもしれない。(略)
田舎だから外を歩けば人に会うでしょ。それであの事件の遺族だってわかるわけじゃない。近所のスーパーに行ったら、女性にハッと目を見開かれたり。「視線が痛い」というのはこういうことなのか、と思った。
ただでさえ好奇の目にさらされるわけですから、なるべく実名報道は避けるべきです。
浅野健一『犯罪報道の犯罪』を読み、当然のことだと思っていた実名報道が、多くの人の生活を壊し、時には自殺にまで追い込んでいることを教えられました。
スウェーデンでは、被害者はもちろん、加害者であっても匿名報道が原則(政治家の汚職など権力者の犯罪は別)だそうです。
犯罪報道では被害者はもちろん、被疑者も基本的には匿名にすべきだと思います。