三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

「死刑囚表現展」のアンケートと平野啓一郎『死刑について』(6)

2024年02月25日 | 日記
⑥加害者の反省

死刑は加害者に反省を促し、命の尊さを教えると主張する人がいます。
宮下洋一さんも死刑によって反省するという考えです。
私は、人の命の大切さに重きを置くならば、重大犯罪に手を染めた者たちが、「より良く生きる」ためにも、極刑に向き合うべきだと改めて考えるようになった。死刑囚は、そうすることで、生の尊さを知ると思うのだ。(『死刑のある国で生きる』)
せっかく「生の尊さ」を知っても、死刑が執行されたら「より良く生きる」ことは不可能になります。
生の尊さを知っても、結局は執行するなら、反省を求めるのはおかしいと思います。

平野啓一郎さんは『死刑について』で、死刑が反省を促すという考えに反対します。
死刑について、死という恐怖に直面させることによって、加害者に深い反省や改悛をさせるという考え方に、僕は懐疑的です。暴力が引き起こす恐怖を以て反省を強要するという方法は、人間の更生のあり方として正しいとは思えません。
人を殺した人間に対して、死と直面させ、同じ恐怖を味わわせるべきだという意見もありますが、それも賛同できません。

「死刑囚表現展」のアンケートに「どの絵や表現にもあまり反省している様子は伺われず、自己主張のかたまりのような気がしました」という声があります。
では、どんな絵を描いたら反省していると認めるのでしょうか。

高橋正人弁護士は宮下洋一さんのインタビューの中で、「反省するような人間だったら、人なんか殺しはしませんから」と語っています。
弁護人の任務とは、依頼者である被告人に誠実に尽くすこと、すなわち、誠実義務にほかならない。(佐藤啓史「展開講座 刑事弁護の技術と倫理」)
弁護人は被告の話を十分に聞いて弁護を行わないといけないのに、殺人犯は反省などしないと決めつけていたら、ちゃんとした弁護ができるのでしょうか。
高橋正人さんが刑事事件の弁護を依頼されたら、どう弁護するのかと思います。

岡本茂樹『反省させると犯罪者になります』にあるように、無理強いさせられた反省では更生には逆効果です。
娘さんを殺された中谷加代子さんは加害者の反省についてこう語っています。
裁判にあたり、被告が反省しているかどうかを情状酌量の材料にしているのは、正しい判断の妨げになるのではないか。また、被告の更生にも逆効果になるのではないか、と考えています。(入江杏「刑事司法と被害者遺族」)

反省が形だけになっていると中谷加代子さんは指摘します。
事件・事故を起こした直後、加害者は、被害者のことではなく、「自分はこれからどうなるのだろう。」と考えるのではないでしょうか。少しでも刑を軽くしたいと考えるのは自然なことです。被害者に対する想いが醸成されていない段階で、性急に反省を求めても、その反省は書かされた反省文のようなもので、中身のないものになるように思います。

谷川弥一元議員が辞任した時の記者会見を見ますと、41分すぎぐらいから不機嫌そうに「私が悪いんです」を連発し、さらには「死ぬしかない」などと言っているのを見ると、本当に反省しているのかと感じます。

検事が死刑を求刑し、裁判官が死刑判決を下す際、「矯正は不可能」「更生の可能性は著しく低い」などと言います。
しかし、正田昭さんや島秋人さんの死刑囚の文章を読むと、反省してないとか更生の可能性がないとか言えません。

島秋人さんは歌人として知られており、『遺愛集』が出版されています。
「微笑みの おのずと生(あ)るる 愛しさを 幸の極みと 生きて悟(し)り得る」
「許さるる 事なく死ぬ身の ことのひとつを しきりと成して 逝きたし」
「良き人の 憶ひかさなる 年賀状 人に恵まれ 去年(こぞ)より多き」

支援者の前坂和子さん宛の手紙。
耳にしもやけが出来ました。かゆいし、あついです。冷たい指をあたためるのに一寸べんりだなあ。(略)
現在の生活は苦しい事の多い中に人に知られない喜びもあることを知ったことをとてもうれしく思うのです。太陽の光が細くさし込む金網の窓に顔をよせて、めをつむると、こんな幸せは僕以外に知らないだろうなあーと思うのです。両の手のひらに日ざしを受けて掌の汗が小さく光っている時、いのちって尊いなあー、見れる事はうれしいなあー、あたたかいなあーとつぶやきたくなるのです。光は掌の玩具です。しもやけになりかけの耳や足指、この指のかゆみも気持の好いものとなる夜の布団の中です。(略)
にくむべき罪人であっても極悪ではない。極善と言う人が居りますか? おそらく人間としてないだろうと思います。

絶対的悪人はいません。
人は誰でも生き直すことができます。
自分が大事にされている、他人に認められているという感情を持つことで、人に対する思いやりや罪の意識を持つことができるようになるそうです。
しかし、一人では難しいです。

坂上香『プリズン・サークル』は島根あさひ社会復帰促進センターで行われている回復共同体のプログラムを受ける受刑者を追ったドキュメンタリーです。
自分の過去を振り返り、プログラムを受ける仲間たちに貧困や虐待などの被害体験を語る中で、自分自身と向き合うことによって更生の気持ちが生まれてくるのです。
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2023年キネマ旬報ベストテン

2024年02月17日 | 映画
今年のキネマ旬報ベスト・テン特集号は、「キネマ旬報ベストテン キネマ旬報2月号増刊」となっていて、新作映画の紹介や批評などはなく、ベストテンと個人賞に特化しています。

日本映画のベストテン。
1位『せかいのおきく』
2位『PERFECT DAYS』
3位『ほかげ』
4位『福田村事件』
5位『月』
6位『花腐し』
7位『怪物』
8位『ゴジラ-1.0』
9位『君たちはどう生きるか』
10位『春画先生』

11位から20位まで。
11位『アンダーカレント』
12位『愛にイナズマ』
12位『正欲』
14位『BAD LANDS バッド・ランズ』
15位『首』
16位『658km、陽子の旅』
17位『逃げきれた夢』
18位『ロストケア』
19位『市子』
19位『王国(あるいはその家について)』
19位『渇水』

『PERFECT DAYS』は12月22日公開なので、2024年度になるのかと思ってました。
ベスト10の予想は8本当たりましたが、11位~20位は6本と、いつものように低調でした。
ベストテンの予想に『春画先生』を2つ、2022年の『THE FIRST SLAM DUNK』を入れるというドジなことをしたんだから、はずれて当然ですが。
ちなみに、読者選出日本映画ベストは『Gメン』。
ところが『Gメン』を選んでいる評論家は1人もいません、

外国映画ベスト10。
1位『TAR/ター』
2位『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
3位『枯れ葉』
4位『EO イーオー』
5位『フェイブルマンズ』
6位『イニシェリン島の精霊』
7位『別れる決心』
8位『エンパイア・オブ・ライト』
9位『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
10位『ウーマン・トーキング』
イエジー・スコリモフスキはキネマ旬報ベストテンでなぜか評価が高いです。

11位『生きる LIVING』
11位『ベネデッタ』
13位『カード・カウンター』
13位『独裁者たちのとき』
13位『バービー』
13位『ヨーロッパ新世紀』
17位『SHE SAID/シー・セッド』
17位『トリとロキタ』
19位『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
20位『小説家の映画』
ベスト10は8作ですが、20位までだと12作しか当たっておらず、これまた大はずれでした。

27位『ナポレオン』
46位『モリコーネ』
77位『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』
80位『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
109位『ザ・フラッシュ』
29位『逆転のトライアングル』
アカデミー作品賞は毎年ほぼ必ずベスト10に入りますが、なぜかカンヌ映画祭パルムドール作品はベスト10に入らないことがなぜか多いです。

他のベストテンを紹介します。
ヨコハマ映画祭ベストテン
1位『ケイコ目を澄ませて』
2位『せかいのおきく』
3位『福田村事件』
4位『愛にイナズマ』
5位『正欲』
6位『月』
7位『花腐し』
8位『アンダーカレント』
9位『春画先生』
10位『ほつれる』
次点『ゴジラ-1.0』
http://yokohama-eigasai.o.oo7.jp/45-2023/45_2023_best10.html

毎日新聞映画コンクール
日本映画大賞
『せかいのおきく』
日本映画優秀賞
『ほかげ』
候補作
『怪物』
『ゴジラ-1.0』
『福田村事件』
外国映画ベストワン賞
『TAR/ター』
候補作
『EOイーオー』
『イニシェリン島の精霊』
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
『フェイブルマンズ』
『別れる決心』
https://hitocinema.mainichi.jp/article/mainichifiomawards-bestpicture?_ga=2.105346945.361407270.1707120375-494418801.1681307836

SCREEN評論家選出 外国映画ベストテン
1位『TAR/ター』
2位『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
3位『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
4位『バービー』
5位『フェイブルマンズ』
6位『エンパイア・オブ・ライト』
7位『生きる LIVING』
8位『SHE SAID/シー・セッド』
9位『モリコーネ』
10位『枯れ葉』
10位『ナポレオン』

12位『別れる決心』
13位『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
14位『ザ・ホエール』
15位『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
16位『ウーマン・トーキング』
17位『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』
18位『ポトフ 美食家と料理人』
19位『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』
20位『ザ・フラッシュ』
21位『イニシェリン島の精霊』
22位『EOイーオー』
キネマ旬報とSCREENは今年もかなり違ってます。
SCREENはアメコミ映画の評価がいつも高いです。

週刊文春BEST CINEMA 2023
1位『バービー』
2位『TAR/ター』
3位『君たちはどう生きるか』
4位『フェイブルマンズ』
5位『別れる決心』
6位『イニシェリン島の精霊』
7位『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
8位『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』
9位『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
10位『THE FIRST SLAM DUNK』

11位『レッド・ロケット』
12位『Pearl パール』
13位『小説家の映画』
14位『aftersun/アフターサン』
14位『理想郷』
16位『CLOSE/クロース』
17位『ザ・ホエール』
18位『ウーマン・トーキング』
19位『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』
20位『ザ・キラー』
https://bunshun.jp/articles/-/67717#goog_rewarded
ちょっとクセのある映画が評価されているようです。

昨年の日本映画では『せかいのおきく』、外国映画は『TAR/ター』がダントツでした。
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「死刑囚表現展」のアンケートと平野啓一郎『死刑について』(5)

2024年02月07日 | 死刑
④犯罪抑止効果

平野啓一郎『死刑について』は死刑の犯罪抑止効果を否定しています。
犯罪の抑止効果に対する懐疑も強くあります。すでに多くの研究が、死刑制度には、終身刑などの刑罰に比して、犯罪抑止の特別な効果がないことを示しています。

「拡大自殺」と呼ばれているが、死刑制度がある国では、人生に絶望している人が通り魔的な殺人を犯し、「死刑になりたいからやった」と述べる事件が起きている。
抑止効果がないどころか、むしろ死刑制度があることが無差別犯罪を誘発する原因にさえなっている。
本人が死刑になることを願って事件を起こしている場合、死刑という刑罰は意味をなさない。

アムネスティ「死刑廃止 - 死刑に関するQ&A」に、死刑が犯罪の抑止効果があるかないかについて書かれています。
国連からの委託により、「死刑と殺人発生率の関係」に関する研究が、たびたび実施されています。最新の調査(2002年)では「死刑が終身刑よりも大きな抑止力を持つことを科学的に裏付ける研究はない。そのような裏付けが近々得られる可能性はない。抑止力仮説を積極的に支持する証拠は見つかっていない」との結論が出されています。(略)
フランスの統計でも、死刑廃止前後で、殺人発生率に大きな変化はみられません。韓国でも、1997年12月、一日に23人が処刑されましたが、この前後で殺人発生率に違いが無かった、という調査が報告されました。また、人口構成比などの点でよく似た社会といわれるアメリカとカナダを比べても、死刑制度を廃止していない米国よりも、1962年に死刑執行を停止し、1976年に死刑制度を廃止したカナダの方が殺人率は低いのです。つまり、死刑制度によって殺人事件の悲劇を封じ込めることは、できないのです。
https://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/death_penalty/qa.html

「死刑囚表現展」のアンケートに「近年、死刑になりたいから罪を犯した、という事件を見聞きするたび、死刑は犯罪の抑止力になっていないのだなあ、と感じます」と書いている人がいます。

間接自殺という言葉があります。
死刑望む「間接自殺」
1986年から昨年までの裁判報道で被告が「死刑になりたかった」と述べた成人事件は少なくとも33件ある。
86年から昨年までの裁判報道によれば、少なくとも8人の成人の被告が、残りの人生を刑務所で過ごしたかったと述べている。(毎日新聞2024年1月27日)
https://mainichi.jp/articles/20240127/ddm/001/040/127000c

厚生労働省の令和3年度自殺対策に関する意識調査
「本気で自殺したいと考えたことがある」と答えた者は27.2%。
「今までに「自殺したいと思ったことがある」と答えた者の中で、「最近1年以内に自殺したいと思ったことがある」と答えた者は34.9%。
https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/000887631.pdf

つまり、約8%の人が1年以内に自殺したいと思ったことになります。
有権者数は約1億人ですから、8%は800万人です。
そのうちの何人かが「誰かを道連れにしよう」と考えても不思議ではありません。
実際、1999年に起きた下関通り魔殺人事件の加害者は自殺未遂を4回したそうです。

一審で死刑判決を受けた被告が控訴せずに確定することがしばしばあります。
これも一種の自殺でないかと思います。
死刑制度が犯罪の抑止になるとは思えません。

⑤メディアの影響

メディア報道について平野啓一郎さんは批判的です。
長く親しまれているドラマやアニメなどには、勧善懲悪の物語が多く、そのことが正義をめぐる考え方に長年、影響を与えてきました。

フィクションの中では、リンチによる殺人が肯定的に描かれることがある。
結局のところ、私たち一人ひとりの倫理の中に、殺人に対する例外的な許可の感覚を与えています。

高倉健の任侠映画がそうですが、悪者退治が一番の見せ場になります。
悪いことをした奴は殺されて当然というストーリーがあふれています。
悪い奴らは手段を選ばずに成敗され、被害者の恨みが晴らされたと、私たちはカタルシスを感じます。

勧善懲悪という場合、自分は善の側に立っていると思っているわけです。
それは戦争でもそうで、戦場では何をしてもかまわないという意識につながるように思います。
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