三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

障害児殺しと青い芝の会(4)

2024年07月03日 | 日記
1948年に優生保護法が施行されました。
横塚晃一『母よ!殺すな』、横田弘『障害者殺しの思想』は優生保護法、そして改正に反対しています。

谷口彌三郎参議院議員、福田昌子衆議院議員『優生保護法解説』の序文に、優生保護法案の提出理由について次のように記されている。
従来唱えられた産児制限は、優秀者の家庭に於ては容易に理解実行せらるるも、子孫の教養等については、凡そ無関心なる劣悪者すなわち低脳者のそれにおいてはこれを用いることをしないから、その結果、前者の子孫が逓減するに反して、後者のそれはますます増加の一途を辿り、あたかも放置された田畑に於ける作物と雑草との関係の如くなり、国民全体としてみるときは、素質の低下すなわち民族の逆淘汰をきたすこと火を見るより明らかである。
また最近わが国では、精神病や精神薄弱者の増加が目立って著しく、それが各種の調査や統計の上に明らかに現れてきている。メンデルの法則や最近目覚ましい人類遺伝学の展開によって、かかる者の遺伝が如何に恐るべきものであるかは疑う余地もない今日、不良な遺伝分子を有する者の子孫の出生を防止するとともに、戦時中「国力の基礎は人口に数に比例する」との考えから、母性の健康までも犠牲にして出生増加に専念した態度を改めるべきで、すなわち新憲法の精神に測り、母性の健康を保護する目的で、或る程度人工妊娠中絶の合法的適用範囲を拡大し、以って政策的に人口の急激な増加を抑えると同時に民族の逆淘汰を防ぐことは、我が国の直面する重大な問題である。
file:///C:/Users/enkoj/Downloads/31-N2-49.pdf

優生保護法はナチスと同じ発想で作られた法律です。
ナチスは身体障害者、精神薄弱者を民族の強化という名において虐殺したが、そのきっかけは重症児を持つ一母親の政府機関に宛てた手紙であったという。
私の子供は足も立たず両手とも利かず、長年寝たきりの生活です。この子にとって生きていることがなんになるでしょう。死んだほうがよほど幸せです。この子のために私達の将来はまっくらです。

1933年にドイツで制定された「遺伝病子孫増殖防止法」について、ドイツ議会は立法理由として次のとおり述べている。
遺伝的に健康なる家族が大部分子供一人主義または子供を持たぬ主義に傾いて行っているのに反して、無数の低脳者及び遺伝性素質者は無制限に繁殖して行き、その病的にして非社会的な子孫が社会全体の重荷となりつつある(略)のみならず、毎年数百万の全額が精神薄弱者、保護児童、精神病患者及び非社会者のために消費されているのであって、しかもこの費用は健康な子供に恵まれた家庭によってあらゆる種類の租税の形で支払われつつあるのである。(『ナチスの法律』木村亀二「ナチスの刑法」1934年)
https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/activity/houkoku08.pdf

1972年、優生保護法一部改正の動きがあった。
改正案は現行優生保護法のうち、妊娠中絶を認める条項の中から「経済的理由」を削除して、それと入れ換える形で新たに14条4項を設けることを骨子としている。
四 その胎児が重度の精神又は身体の障害の原因となる疾病又は欠陥を有しているおそれが著しいと認められるもの。

提案理由は「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止すると共に母性の生命・健康を保護するという目的のもとに優生手術・人工妊娠中絶・優生保護相談などに関し必要な事項を定めているものでございますが」から始まる。
近年における診断技術の向上等によりまして、胎児が心身に重度の障害をもって出生してくることを、あらかじめ出生前に診断することが可能になってまいりました。
胎児が障害児だとわかったとたん、合法的に抹殺できる改正案は障害者抹殺の思想をむき出しにしている。

横田弘さんはこのように書いています。
生産第一主義の社会においては、生産力に乏しい障害者は社会の厄介者・あってはならない存在として扱われてきたのですが、この法律は文字どおり優性(生産力のある)は保護し劣性(不良)な者は抹殺するということです。つまり生産性のないものは「悪」ときめつけるのです。

1973年、優生保護法改正案に対し、青い芝の会代表は厚生大臣にあてた抗議文を作り、厚生省に提出した。
その2日後、青い芝の会会員約50名が署名を持って国会に本法案反対の請願をした。

その直後、代表8名は厚生省で精神衛生課長以下数名の当局者に詰問した。
当局の答えはわざと的を外したような支離滅裂であったが、再三にわたる詰問に「最近サリドマイド児をはじめとする胎児性障害児が激増の傾向にある。両親に遺伝的素質がなくても障害児が発生する場合があり、それを防ぐために今度の改正案を作った」と答え、精神衛生課長は重ねて「私は医者で、つくづく思うのですが、障害者が一人もいなくなれば、この世の中がどんなに幸せになるでしょう」と言い放った。

斉藤邦吉厚生大臣は「優生保護法改定案」を国会に提出した時の説明でこのように言い切っている。
人工中絶をどうしてもやった方がいいという面もございます。たとえば妊娠中にいろいろな医学的な面から奇形児が生まれるであろう。重症の心身障害児が生まれるおそれがあるという場合には、これは、生命の尊重とはいいながら、そういう方々は一生不幸になられるわけでありますから、こういう場合には、新しく人工中絶を認める必要があるのではないか。

1974年、青い芝全国常任委員会副会長小山正義と斉藤邦吉厚生大臣とのやりとり。
斉藤厚生大臣「君たち障害者として大変な想いをして生きているのにもかかわらず君らと同じような境遇を背負った子孫を残したいのか」
小山正義「大学をでたから、大臣になったから優秀な子孫と云えるのか」
斉藤厚生大臣「そうではないが、そんなに腹をたてることではない。誰でも願うのは体が健康なことではないか。それならあなた方一人一人が国会議員に云いなさい。
優生保護法改正案は結局廃案になった。

1977年、厚生省の外郭団体として日本家族計画遺伝相談センターが設置された。
任意相談から、親族調査を行い、異状と認められた胎児を堕胎する制度である。
遺伝病の因子を持つ親が子供をつくるべきかどうか迷って相談に来ると、遺伝子カウンセラーが適切なアドバイスをするため、関係者の家系図を書いてくることが条件の一つ。
危険率が40%あって、病気も重いようなときは避妊、妊娠中絶を助言するかもしれない。
現在、出生前診断の結果で中絶する人が増えており、優生保護法改正案のようになっているわけです。

滝田洋二郎『病院に行こう』(1990年)に、足を骨折して入院した患者2人が車イスで飲みに行く場面があります。
タクシーを呼ぶわけですが、後ろの席に座っている人が「乗れるわけない」と笑ってました。
私もそう思ってたら、車椅子の人が乗れるタクシーが来たのです。
介護タクシーの存在を知りませんでした。
私は社会が障害者に考慮していないことに疑問を持っていなかったわけです。
コメント
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