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キング・レコードが紹介したユーロ・ロック 【2】

2010-04-23 22:40:19 | 音楽
─IV─
★★★ミュージシャン・マジシャン/アトール(1974─アリオラ─フランス)
★★ガマポリス/オメガ(1979─ペピタ─ハンガリー)
★ハーモニー・オブ・ザ・スフィアーズ/ニール・アードレイ(1978─デッカ─イギリス)
★★バンコ・ファースト(1972─リコルディ─イタリア)
★★ユーロピウム/ゼウス(1979─テルデック─ドイツ)
★アウト・オブ・ザ・ブルー/バクマク(1976─ノヴァ─ドイツ)
★★★トリスタンとイゾルデ/クリスチャン・ヴァンデール(1974─エッグ─フランス)
★★四季/カナリオス(1974─アリオラ)



アトールのデビュー作『ミュージシャン・マジシャン』は74年に制作され、イエスよりもジェネシスの影響がより強く見受けられ、フランス語の響きもあっていい意味での軽さがある。自分たちの音楽にとても素直な態度が感じられ、好感が持てる。
珍しい東欧のロックが聞ける。オメガの『ガマポリス』で、79年に発表した、グループとしては9枚目のアルバムだ。スペース・ロック、宇宙や未来社会をテーマにしたもので、ピンク・フロイドの影響が大きい。オメガはハンガリーでは15年以上も活動を続けている5人組で、おそらく国家公認のロック・バンドなんだろう。ハンガリー語で歌われている点も面白い。
もうひとつ珍しいのがスペインのカナリオスだ。スペインのロックといってもトリアーナに代表されるスペイン臭の強いものと、英米のロックと何ら変るところのないものとがあるが、カナリオスの場合はそのどちらともつかない独自の音を持っている。2枚組の『四季』は、ヴィヴァルディの有名な「四季」を素材とし、それをカトリックという宗教色の非常に強い思想でまとめあげたものだ。宗教が日常生活と密着しているヨーロッパの現象をはからずも教えてくれる。
バンコの72年のデビュー作『バンコ・ファースト』は、がっしりした骨太な音で、イタリアの生命力を感じさせる。ピアノやチェンバロの使い方は優れており、時折のぞくイタリア独特のメロディーがいい。後にイギリスで発売されたアルバムの原曲もここで聞かれる。
ユニークさにおいて最右翼なのがマグマだ。集団生活を営み、コバイア語なる独自の言葉を生み出している。そのマグマの宗主、クリスチャン・ヴァンデールが映画のために制作した『トリスタンとイゾルデ』は、強迫的なピアノの音が実に不気味で、鬼気迫るものがある。レーベル契約が切れたことで残念ながら現在廃盤となってしまった(1982年当時)。
ドイツ勢が2枚続く。バクマクは非常にクールな演奏を展開するいかにもドイツで生まれたジャズ・ロック・グループの5人組で、『アウト・オブ・ザ・ブルー』は76年の作である。もうひとつはかなりのキャリアを持つバース・コントロールのキーボード奏者のゼウスのソロ・アルバム『ユーロピウム』で、声を歪ませ、シンセサイザーを操作し、エレクトロニック・ロックを目指している。けれども発想が単純で、クラフトワークやタンジェリン・ドリーム、ラ・デュッセルドルフには追いつかない。ドラムスにジャキ・リーベツァイトが参加している。
場違いな感じのするイギリスものが、ニール・アードレイの『ハーモニー・オブ・ザ・スフィアーズ』だ。ニュー・ジャズ・オーケストラのリーダーとして活躍し、イギリスのジャズ・ロック系の音楽家のなかでその存在は有名だが、シンセサイザーを使ったソロ・アルバムは全体に統一感がなく自己満足の産物である。

─V─
★★★★夢のまた夢/フォルムラ・トレ(1972─ヌメロ・ウーノ─イタリア)
★★★イル・ヴォーロ(1974─ヌメロ・ウーノ)
★★★★アクア・フラジーレ(1973─ヌメロ・ウーノ)
★★ライヴ・キスタディオン'79/オメガ(1979─ペピタ)
★ティック・タック/アレア(1980─アスコルト─イタリア)
変奏/リック・ヴァン・ダー・リンデン&カタラン・ティルコレア(1978─アリオラ)
★サンセット・ウェイディング/ジョン・G・ペリー(1976─デッカ)
★★★ヴァージン・オイランド/イーラ・クレイグ(1980─アリオラ)



イタリアのヌメロ・ウーノ・レーベルはルチオ・バッティスティが設立したもので、PFMをはじめ、フォルムラ・トレ、イル・ヴォーロ、アクア・フラジーレといった凄いグループを擁していた。そのヌメロ・ウーノとの部分的な契約が結ばれ待望久しいアルバムが発売されたわけだ。
イタリアの強力トリオ、フォルムラ・トレの3作目『夢のまた夢』は、このグループの代表作であり、内容の充実は圧倒的だ。アルベルト・ラディウスの重くひきずるような特徴あるギター・ワークはそれだけでも存在感がある。甘美な重々しい音に陶酔してしまいそうだ。イタリアの美学がある。
イル・ヴォーロは2枚のアルバムを残しただけで消滅してしまったが、その短期間の活動を評するならば、より高い音楽を目指して燃え尽きたと言えるだろう。フォルムラ・トレが発展して結成され、74年のデビュー作『イル・ヴォーロ』は間違いなく世間を騒がせた。ツイン・ギターにツイン・キーボードという構成は期待に十分応えるものであり、腕達者な6人のミュージシャンが哀愁を帯びた曲を演奏している。
アクア・フラジーレのデビュー作『アクア・フラジーレ』もヌメロ・ウーノから出されている。PFMが初めてプロデュースしたアルバムとしても知られているが、イタリアの他のグループとは異なる軽さと透明度が特徴だ。SFをテーマにし、英語で歌っている。
本シリーズでは初めてだがフォノグラムのシリーズで既にアルバムが発売されているオーストリアのロック・グループ、イーラ・クレイグの80年の作品『ヴァージン・オイランド』は、旧約聖書の創世記を素材とし未来世界のアダムとイヴを描いている。キーボード中心のクラシカル・ロックを得意とし、宗教性も常に取り入れている姿勢が面白い。
3人になってしまったアレアが80年に発表した『ティック・タック』は、それまでとはうって変ったジャズ色の濃い音楽だ。残ったメンバーの3人がジャズをやりたかったのだから当然の結果ではあるが、アレアは終ったという感じがする。
ジョン・G・ペリーはキャラヴァン、カーヴド・エアなどイギリスの一流半のバンドを数多く経験してきたベーシストで、親交のあるルパート・ハインのプロデュースで76年に『サンセット・ウェイディング』を制作した。ユーロ性をあげれば、オザンナのエリオ・ダンナやノヴァのカッラード・ルスティーチ、ゴングのモーリス・パートが参加している点だろう。落ち着いた静かな音だ。
クラシック・コンプレックスの典型が、オランダのエクセプション、トレースで中心的存在だったリック・ヴァン・ダー・リンデンで、パン・パイプ奏者のカタラン・ティルコレアと組んで制作した『変奏』はクラシカルなイージー・リスニングでしかない。

─VI─
★★★★★イル・ヴォーロII(1975─ヌメロ・ウーノ)
★★★神秘なる館/フォルムラ・トレ(1973─ヌメロ・ウーノ)
★★★オザンナ・ファースト(1971─フォニット・チェトラ─イタリア)
★★火の鳥/ルーナ(1980─スプラッシュ─イタリア)
★★★★★個人主義/デュッセルドルフ(1980─テルデック)
★★凍てついた天使/ノヴァリス(1979─アホーン─ドイツ)
★絶体絶命/ホークウィンド(1975─リバティー─イギリス)
★ソロ・トリップ/ラッツ・ラーン(1978─ストランド─ドイツ)



イル・ヴォーロ最後の作となった75年の『イル・ヴォーロII』は、イタリア・ロックが生んだ最高作に違いない。歌を極力排し、演奏に重点を置いたため一般的ではなかったが、水準は高く、スケールは大きく、目標となるべきグループは既になくなっていた。全体に漂う暗い哀愁感がたまらなく胸を打つ。
フォルムラ・トレの最後の作『神秘なる館』も高水準の作品である。彼らなりのポップ性を前面に出し、それまでにはなかった軽さが感じられる。
オザンナのデビュー作『オザンナ・ファースト』は71年に発表され、それは衝撃的なことだった。イギリスのアンダーグラウンドで活動するロック・グループの影響をいち早く受け、イタリアで呼応したが、ただ単に真似するのではなく、土俗的な色彩の濃い独自性を持っていた。それが完結したのは『パレポリ』である。
79年にかつてオザンナのメンバーだったダニーロ・ルスティーチが地元ナポリで結成した4人組がルーナで、デビュー作『火の鳥』はストラヴィンスキーの火の鳥を演奏している。けれどもこの1曲のみ例外で、あとのすべては甘いナポリのポップスである。特筆すべきは「月の上で」で、ナポリのトラッド・グループ、ヌオーヴァ・コンパーニャ・ディ・カント・ポポラーレのメンバー二人を起用していることだ。ナポリ意識が強い。
ラ・デュッセルドルフの80年の『個人主義』は相変わらず同じパターンの繰り返しだが、そのなかで新しいことも試みており、いつの間にかとりこになってしまう魔力を秘めている。中世から現代までのヨーロッパが音をたてて崩れる時に聞こえる音楽だ。
叙情性を追い求めるロック・グループ、ノヴァリスはブレイン・レーベルから移籍し、『凍てついた天使』を79年に発表した。しゃちをテーマにしたトータル・アルバムで、どこまでも美しく優しくメルヘンの世界を描いている。ラッツ・ラーンはそのノヴァリスのキーボード奏者で、78年にソロ・アルバム『ソロ・トリップ』を制作した。文字通りラーン一人で各種シンセサイザーを使って録音したものだが、あまりにもまともすぎて面白くない。ドイツ固有の重さと暗さを持ったメロディーだけが救いだ。
イギリスのサイケデリック・ロック・グループ、ホークウィンドが75年にSF作家マイケル・ムアココックと制作した『絶体絶命』は宇宙感覚とトリップ感覚をうまく結びつけているが、これをユーロ・ロックに入れるのはちょっと無理がある。 ─(山岸伸一、ミュージック・マガジン1982年12月号)

キング・レコードが紹介したユーロ・ロック 【1】
キング・レコードが紹介したユーロ・ロック 【3】

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