マガジンひとり

自分なりの記録

キング・レコードが紹介したユーロ・ロック 【3】

2010-05-19 22:26:24 | 音楽
─VII─
★★★コンチェルト・グロッソNo.2/ニュー・トロルス(1976─マグマ─イタリア)
★★ラッテ・エ・ミエーレIII ~鷲と栗鼠~(1976─マグマ)
★★★★ピッキオ・ダル・ポッツォI(1976─グロッグ─イタリア)
★★★★★チェレステ(1976─グロッグ)
★★時の交差/ノヴァリス(1980─アホーン─ドイツ)
★★★★地中海の印象/メディテラネア(1981─アミアミオーチ─イタリア)



再びニュー・トロルスはバカロフと組んで『コンチェルト・グロッソNo.2』を76年に制作した。分裂、メンバー交代を繰り返していたニュー・トロルスがひとつの拠り所としてオーケストラとの融合を求め、失いかけていた自信を取り戻した作品である。全編がオーケストラとの共演ではなく、A面がいわゆるコンチェルト・グロッソだ。
イタリアの超マイナー・レーベルのグロッグから発表された2枚のアルバムは素晴らしい。4人組チェレステは、76年にたった1枚のアルバム『チェレステ』を残して消えた。北イタリアの空間をそのまま切り取ったようなひんやりとした感触がたまらなくいい。初期クリムゾンの売り物であるメロトロンの音を見事に蘇らせ、これも傑作と呼べる。
同じくグロッグ・レーベルのピックオ・ダル・ポッツォは、ジャズ、ロック、民俗音楽と手当り次第に何でも消化吸収してしまう恐るべき4人組だ。76年のデビュー作『ピッキオ・ダル・ポッツォI』は、まさしく意欲作で、前衛的な姿勢が他のイタリアのロック・グループとは一線を画している。
ラッテ・エ・ミエーレは、72年から73年にかけて2枚のアルバムをポリドールから発表し、それらは「ポリドール・イタリアン・プログレッシヴ・コレクション」として日本でも発売されている。当時、流行のEL&Pもどきの音だったが、新編成で再結成後76年にマグマで制作した『ラッテ・エ・ミエーレIII ~鷲と栗鼠~』は、スタイルも変え叙情余りある甘美なイタリア・ロックの典型とも言える音で、特にB面すべてを使った曲「パヴァーナ」はクラシックの要素が非常に強い。4人編成のうちキーボードが2人というのもいかにもといった感じだ。
イタリアでも無名の3人組メディテラネアが81年に発表した『地中海の印象』は、独特の地中海ロックのノリがあって素晴らしい。80年11月のナポリ大地震が制作の動機とあるだけに、意気込みのただならなさが感じられる。演奏自体それほどうまくはないが、何よりも生命感に満ち、大らかで陽気な人間味が音に現れている。
ドイツ・ロマン主義をロックに持ち込んだノヴァリスの80年の作『時の交差』は、自然と人間が会話を交わしていた遠い時代への回帰を誘う。わかりやすく、肯定的な思想は健全だが、音楽としてもうひとつ力不足だ。

─VIII─
★★★★アトミック・システム/ニュー・トロルス(1973─マグマ)
★★★★★真夏の夜の夢/マウロ・パガーニ(1981─フォニット・チェトラ─イタリア)
★★★★ピッキオ・ダル・ポッツォ2nd(1980─ロルケストラ─イタリア)
★★★★子供達の国/イル・パエーゼ・デイ・バロッキ(1972─CGD─イタリア)
★★ミノリーサ/フシォーン3rd(1974─アリオラ─スペイン)
★★★ドレミファソラシド/ホークウィンド(1972─リバティー─イギリス)
★★サテン・ホエール・オン・ツアー(1979─ストランド─ドイツ)
★★★胎児の復讐/エンブリヨ(1971─リバティー─ドイツ)



マウロ・パガーニの第2作は何とシェイクスピアの戯曲をもとにしたミュージカル『真夏の夜の夢』の音楽で、ミラノのスタジオ・ミュージシャンを起用し81年に制作された。期待していた地中海音楽ではないが、ファンキーなロックで十分楽しめる。そのなかでブルガリア民謡を取り上げるパガーニの感性は鋭い。
ニュー・トロルスが2つに分裂していた73年に制作された『アトミック・システム』は、リーダーのヴィットリオ・デ・スカルツィの様々な試みが聞かれる。得意とするクラシカルな響き、ジャズ風のインプロヴィゼイション、牧歌的な歌と何でもあって、それぞれがうまく調和している。シングルとして出されたムソルグスキーの「禿山の一夜」が収録されており嬉しい。
てっきり解散したと思っていたピッキオ・ダル・ポッツォが80年にひょっこりと顔を出した。『ピッキオ・ダル・ポッツォ2nd』がそれで、完全にロックの範疇からは踏み出している。ニュー・トロルスのヴィットリオの弟、アルド・デ・スカルツィが率いる物凄く知的な音楽集団だ。
72年に制作されたイル・パエーゼ・デイ・バロッキ唯一のアルバム『子供達の国』は、まさしくあの時代のイタリア・ロックだ。ストリングスを使い、それにヘヴィーなロックをかぶせ、叙情性たっぷりに大団円に向かって盛り上げていく。クリムゾンとEL&Pの影がちらつくが、ストリングスの扱い方で独自性を保っている。
『サテン・ホエール・オン・ツアー』はドイツのベテラン・ロック・グループ、サテン・ホエールが79年に過去3枚のアルバムから選曲したベスト・アルバムだ。もうひとつドイツの大ベテラン・ロック・グループのエンブリヨ初期の作『胎児の復讐』は、サイケデリック・ロックである。71年の2作目で今の面影はない。ところどころで刺激的な音が聞かれ、ドキッとさせられる。
フシォーンはスペインらしからぬ4人組のフュージョン・バンドで、『ミノリーサ』は74年に出したラスト・アルバムだ。アヴァンギャルド指向が強く、水準は高いのだが、構成力に甘さがみられる。
ホークウィンドの3作目『ドレミファソラシド』は72年に発表された。シングル・ヒットした「シルバー・マシーン」が収録されているが、前にも述べたようにユーロ・ロックのシリーズには不適だ。

─IX─
★★★★テンピ・ディスパリ/ニュー・トロルス・ライブ(1974─マグマ─イタリア)
★★★ツァラトゥストラ組曲/ムゼオ・ローゼンバッハ(1972─リコルディ─イタリア)
★★レアーレ・アカデミア・ディ・ムジカ(1972─リコルディ)
大地の響/フーベルト・ボグネルマイヤー+ハラルド・ツシュラーダー(1981─エルデンクラング─ドイツ)
★★★我が為に/トーマス・ディンガー(1981─テレフンケン─ドイツ)
★★宇宙の祭典/ホークウィンド(1972─リバティー)



またまたホークウィンドだ。72年にリヴァプールとロンドンで行なったコンサートの2枚組ライヴが『宇宙の祭典』で、スペース感覚が特徴であろう。
ニュー・トロルスの74年のライヴ『テンピ・ディスパリ』は、いたるところ変拍子の大洪水だ。ジャズ風の演奏だが、本質的にはロック・サイドの人たちだから、落ち着くところへは落ち着く。演奏技術の高さには舌を巻いてしまう。
ラ・デュッセルドルフで兄クラウスの影に隠れていたトーマス・ディンガーが、初のソロ・アルバム『我が為に』を81年に制作した。ラ・デュッセルドルフとは少し違った面があり、効果音など音そのものへの執着が見られる。
『大地の響』はフーベルト・ボグネルマイヤーハラルド・ツシュラーダーの2人のドイツ人が新しいシンセサイザーのCASSを操作したデモンストレーション・アルバムで、音楽とはほど遠く、機械に興味ある人向け。
イタリア本国でもレコードが見つからない珍しいものが本シリーズでは何枚か出され、逆にイタリアで驚いている。次の2枚もそうしたものだ。72年に出たレアーレ・アカデミア・ディ・ムジカ唯一の作『レアーレ・アカデミア・ディ・ムジカ』は、重厚な音で、ピアノとオルガンが中心である。けれども歌の比重が高い点でイタリア的だ。
ムゼオ・ローゼンバッハの『ツァラトゥストラ組曲』もその種の期待を裏切らないクラシカルな音をうまく取り入れたものだ。初期のPFMと共通するところがあり、様式美を追求する姿勢が感じとれる。 ─(山岸伸一、ミュージック・マガジン1982年12月号)

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