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自己愛的かつ厭世的

2023-07-16 16:43:27 | メディア・芸能
昨秋の記事で用済みとしたエルヴィス・コステロの500枚、彼はアルバム単位で選ぶと共にその中からお気に入りの曲も挙げている(↓画像)。アルバム全曲を聞かないことが多い私が、ビッグネームながら見過ごしていて彼の推薦で聞くようになり非常に気に入っていた2曲、ジョン・レノンのHow? (1971)とビーチ・ボーイズのCuddle Up (1972)、最近だんだんとウンザリしてきて相次いで消去。


Cuddle Upはデニス・ウィルソンの作曲。ビーチ・ボーイズの芸術上のリーダー、ブライアン・ウィルソンがSMILE制作頓挫など精神混迷し、補うように兄弟のデニスとカールが曲作りの才能を発揮し始めたものの、ビーチ・ボーイズの世評はチャック・ベリー譲りの若者消費を謳うバンドであり、急速に変っていくロックシーンにあってブライアンですら芸術的に期待されているとは言い難く、70年代のビーチ・ボーイズは売り上げ低迷。デニスは悪い仲間と酒浸りの日々。

ヘッダー画像に引用したジョン・レノン評は、彼が音楽活動を止めていた時期のローリングストーンアルバムガイドにグリール・マーカスが執筆。「冒険と退却をくりかえす絶望的な放浪」「戦いの勝利はあきらかに相手側にあった」。後年マーカスは、ジョンの先妻の息子ジュリアンが音楽デビューし、「お父さんにはジョンがいたけどぼくらにはジュリアンがいるよ」という若いファンの声に対し、ジョンが不振のとき、われわれは彼の弱さや苦しみを受け取ることができた。ジュリアンには何もない、不振がすべてだからという傲慢ともいえる発言を行った。

私がコステロの500枚を知って集め始めたのは2010年1月、映画や演劇には何もないと薄々気づき始める時期だったと思う。なのでよけいHow?とCuddle Upの世に倦んでいる自己憐憫的な感覚に共鳴したのだろう。



イギリスの人類学者ロビン・ダンバーが明らかにしたように、われわれの頭脳は、150人以上の相手と相互の信頼関係を維持するキャパシティを持っていない。もっともこの数字は、いわば人類学的変数とでも言うべきものであり、たとえばソーシャル・ネットワークを通じて(どれほどコンタクトがあろうと)現実的に信頼関係を結んでいる友人の数に関する研究調査などを見ると、数値は変わってくる。それに加えて現実の生活においては、社会的統一性を保つために様々なヒエラルキーの形式、すなわち権威の形式が必要になる。こうしてホモ・サピエンスは労働と責任の社会的分担という課題に直面したのである。人類の歴史に政治が出現したことの証拠が刻まれるのは12000年前のことである。これに数々の技術革新が加わっていくことになるが、なかでも火を扱う技術の発達は土器造りに続く冶金技術の発達を促した。

こういったすべての要素が相まって世界の合理化の端緒が開かれ、その結果、図らずも脳を自由に使うための時間を解放する基礎ができ上がったのである。この脳の自由時間は、人類にとってまたとない一種の軍資金のようなものとなり、これまでの歴史を通じて、そこから様々な可能性、技術革新、技芸を汲み出し、それらをひっくるめて言うなら、様々な世界の開拓を可能にしてきた。新石器時代と呼ばれるこのカルチャーショックによって、考古学者のジャック・コーヴァンの言葉を借りれば、それまでは自然条件の運不運に左右される捕食者でしかなかったホモ・サピエンスが、生き残るプロセスを自ら工夫できる存在へと脱皮することができたということになる。つまり、生存するだけのために費やされていた労働の生産性を向上させることによって、自由時間に換算できる剰余価値を引き出せるようになったとも言えるだろう。 ─(ジェラルド・ブロネール/認知アポカリプス/みすず書房2023・原著2021)

ビートルズの後期、ジョンとオノ・ヨーコが音楽としては無意味な、全裸の2人がジャケになっている私的なアルバムを発表。もしその後ビートルズが解散したりジョンの才能が枯渇したり音楽活動を休止したりして、幻滅したファンが全裸のジャケを取り出して「こんな糞をつかませやがって」と恨みを募らせる可能性に思い至る…まあ無理ですよね、人気商売は麻薬のようなもの。新石器革命までの20万年、ヒトの集団は150人を超えることはなかったし、10人に1人は同族の手にかかって死んでいたというから、メディアを通して膨大な人数と関係できる事態にわずかな時間で対応して危機管理できる筈もない。

人を人とも思わない、他人の時間を軍資金と割り切って、湯水のように蕩尽する。その広告には、自らを単純化記号化した「自己愛的かつ現実主義」の者がいくらでも志願する。システムは一人歩きし、時間収集の効率をより高め、たとえば音楽のストリーミングであればそれに徹した、とうてい音楽といえないようなK-pop勢が時間集めの上位を占める。モーツァルトやビートルズのような音楽は今後現れることはないだろうと思うし、ジョン・レノンはじめ若くして亡くなった音楽家はそのような文明の黄昏を先取りする存在だったといえるのではないか。
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