亡父の蔵書から、「昭和の遺書 55人の魂の記録」という本を読みました。
軍人、兵隊、小説家、ジャーナリスト、学生、テロリスト等じつに様々な昭和に生き、亡くなった人々の遺書を紹介したもので、興味深く読みました。
著名な人からそうでない人、自殺、病死いろいろですが、死に際の言葉というのはその人らしさが出るものですね。
その中で、昭和50年12月に病死した最後の海軍大将、井上成美の短い遺書が印象に残りました。
一.どこにも借金はなし。
二.娘は高女だけは卒業させ、できれば海軍士官に嫁がせしめたし。
これだけです。
これは亡くなる40年以上前の昭和8年に書かれたもので、当時海軍内部に過激な思想を持った若い将校が台頭し、もしものときのために書いたようです。
実際に亡くなる直前に書いた遺書は、
小生の葬儀は密葬のこと。
これに寺の住所などが書かれているだけです。
自分の思いや、人生観などは一切ありません。
これがサイレント・ネイビーというものでしょうか。
海軍士官は沈黙を守ることを美徳とする風があったようです。
それに比べると、元海軍士官だった中曽根元総理はずいぶんと饒舌ですね。
私はこうして毎日ブログに駄文を物し続けるほど、おのれの考えや思いを述べたいほうですから、サイレント・ネイビーのようなストイックな生き方には憧れを感じます。
でも多分、それでは世の中うまくいかないのでしょうねぇ。
わが国は沈黙を重んじる国柄ですが、世界のスタンダードはきちんと自己を主張することですから。
しかし震災の復旧にあたったりPKOで過酷な地に派遣される自衛官は、概して沈黙を重んじているような感じを受けます。
その精神性の高さは賞賛されてしかるべきでしょうね。
昭和の遺書―55人の魂の記録 (文春新書) | |
梯 久美子 | |
文藝春秋 |