ブログ うつと酒と小説な日々

躁うつ病に悩み、酒を飲みながらも、小説を読み、書く、おじさんの日記

姥捨

2011年03月17日 | 文学

 震災でこれほど多くの人々が無念の死を遂げ、また遂げつつある様をみて、私は古く、姥捨山の伝説を思い出しました。

 104歳の老婆が避難所に逃げ込んで、逃げ込んだときには歩けたのに、翌朝には足腰が立たない状況になっていたとか。
 それでも命はどうにか長らえています。
 長幼の序はわが国の美風。
 老人を救助するのは当然のことです。
 
 にも関わらず、かつて信濃国更級では姥捨が行われていたと、多くの書物にあります。
 「楢山節考」は当時の山村の貧しい暮らしぶりを寒々と描き、白骨でいっぱいの山中に母親を棄てに行く緒方拳演じる主人公が哀切でした。

 
わが心 慰めかねつ 更級や 姥捨山に 照る月を見て

 「古今和歌集」に所収された読み人知らずの歌ですが、これは「大和物語」にも見られます。
 悪妻に唆されて伯母を山中に捨てた男が、後悔して詠んだ歌です。

 また、紀貫之「拾遺和歌集」に、次のような和歌を残しています。

 
月影は 飽かずみるとも 更科の 山の麓に ながゐすな君
 
 どちらも姥捨の里である更級の月を題材にしています。

 面白いのは、更級の月は妖しい輝きを放っているというのに、その月の美しさは心を慰めない、または長居して月を見てはいけない、とそれぞれが詠んでいることです。

 姥捨山に照る月は老人たちの苦痛に満ちた死によって毒されているとでも言いたげです。
 
 恋やもののあはれを華やかに詠んだ平安歌人たち。
 しかし上記の歌からは、死への恐怖、悪行への畏怖、悪行と知りながら口減らしを行わなければならない庶民の貧しさへの畏れのようなものが感じられます。
 
 いつの世も私たち生物は死と隣り合わせ。
 一分後に訪れるかもしれない死を、それとは知らずに呑気に生きているのですね。

 最後に、伊勢物語」モデルにして稀代のプレイボーイ、在原業平の辞世の歌を。
 
 
いつか行く 道とはかねて 聞きしかど 昨日今日とは思はざりしを

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緒形拳,坂本スミ子,左とん平,あき竹城
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選民

2011年03月17日 | 社会・政治

 最近中東情勢のニュースを耳にしませんが、どうなっているのでしょうね。
 世界のどこかで紛争や混乱が生ずれば呼ばれもしないのにのこのこ出かけて行って、これを正義の名の下に解決する、偉大な米国はリビアには介入しないんでしょうかねぇ。

 ネイティブ・アメリカンを虐殺しまくって土地を奪い、米国を建国した後はアフリカから黒人を拉致して家畜同然に使役した米国。

 朝鮮半島や中国、東南アジアを大東亜共栄圏の名の下に蹂躙した大日本帝国。

 どっちもどっちと言うべきでしょう。

 戦後、被爆体験をまるで自慢するかのようにふりかざし、絶対平和こそ正義と信じて他国に押しつけようとした愚かな日本の平和主義者。
 被爆によって、日本人は平和を語る資格を持った選民だとでも勘違いしたようです。
 日本と戦った連合国や日本の支配を受けた人々から見れば、平和の押し売りをしようとする日本人を見て、さぞ白けた気分になったことでしょう。

 戦前は、天皇の徳治によって、八紘一宇の精神で大東亜共栄圏を築き上げるために選ばれた民のようなことを言って、敗れたならば、平和という新しい価値観を、唯一の被爆国であることを理由に広める選ばれた民のようなことを言う。

 気持ち悪いですねぇ。

 八紘一宇が平和に変わっただけで、選ばれた民であるという意識に変わりはありません。

 しかしどこの国でも、自国を特別な国だと思うことは自然な情でしょう。

 わが国の怖ろしいところは、人口と経済において大国であること。
 ある程度、国際社会に影響力を持っていること。
 最近の中国の例を見るまでもなく、大国が迷惑な行動を起こすと、世界は混乱します。

 大東亜共栄圏や絶対平和というのは、一時的な流行りの思想ではあっても、人類の普遍的な価値ではありますまい。
 その当時の人々がそれを正しいと信じていただけのこと。
 そもそも人類の普遍的な価値など、この世に存在し得ないものです。
 所変われば品変わる。
 時代や状況が変われば価値観も変わる。

 戦中、特攻まで仕掛けてお国のために戦うことを良しとした日本人が、あっという間に平和が一番と言いだしたことでも、それは明らかでしょう。
 きっかけさえあれば、価値観などいかようにも変化します。

 だから私は、政治がらみの価値観ということを、一つも信じないことにしています。
 時代の要請によって、一応、自由と民主主義が良い、平和が良い、とは口にしますが、じつはそんなもの信じていません。
 オウム真理教のテロが成功したなら、私は迷わず、麻原尊師万歳を叫ぶでしょう。
 それが庶民の生きる道。
 命がけで守るべき価値など、この世には存在し得ません。

 それはずいぶん冷めた、ニヒリスティックな考えに思われるかもしれません。
 しかし冷めていなければまともな判断はできず、ニヒリスティックでなければ火宅の業火に焼かれてしまうでしょう。

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娯楽

2011年03月17日 | 社会・政治

 震災以来、毎日毎日どの局も震災関連のニュースばかり。
 いい加減飽きました。
 NHK総合とBS-1が流していれば、他の局は通常どおりで良いように思います。
 震災のニュースは興味があるのでつい見てしまいますが、しばらく見ていると頭が痛くなってきます。
 悲惨な映像と、錯綜する情報。
 精神障害者の私には刺激が強すぎるようです。

 特に民放は、情報力ではNHKに敵わないと思っているせいか、ことさら悲嘆にくれている人や災害現場の悲惨さを強調し、挙句の果てには芸能人の浮ついたメッセージなどを垂れ流して喜んでいます。
 情緒的な報道というのはいかにも質が悪い。

 今上陛下のメッセージも、うわべだけの言葉にしか聞こえませんでした。
 官直人総理にいたっては自己陶酔に浸っているとしか思えません。

 知り合いの5歳の幼児は、「地震、いつ終わるの?」とむずがっています。
 幼児番組やアニメ番組が見たいのでしょう。
 地上波、BS、放送局はたくさんあります。
 あっちでもこっちでも似たような放送を流すのはやめてください。

 もっとも、私はこの数日、震災報道のしつこさにすっかりテレビ嫌いになり、テレビをつけなくなってしまったのですが。

 被災地の人ほど、震災のニュースばかりでなく、現実を忘れさせてくれる娯楽番組やドラマなどを少しは流してほしいと思っているのではないかと忖度します。

 南方に展開して死闘を繰り広げた日本軍も、慰問団の歌や芝居を心待ちにし、アウシュビッツで日々死の影におびえていたユダヤ人も、ときには合唱をして楽しいひと時を過ごし、精神の均衡を保ったと聞きます。

 被災地にも救援物資はもちろんのこと、娯楽が必要です。
 人間というもの、どんな状況でも一見無意味に思える娯楽や芸術を求めてしまう因果な生き物なのですから。

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チャールズ・マンソン

2011年03月17日 | ホラー・サスペンス・SF等の映画

 昨夜はDVDで「チャールズ・マンソン」を鑑賞しました。

 チャールズ・マンソンは実在の人物で、1960年代後半、フリーセックスとドラッグに明け暮れるマンソン・ファミリーと呼ばれるカルト集団のリーダーでした。
 最初のうちは、農場に10名程度の男女が共同生活をして、滅多やたらにLSDやマリファナなどのドラッグでキメて野外乱交を繰り返す、当時のカウンター・カルチャーに影響を受けた多くのヒッピーと変わらない生活を送っていました。

 しかし、マンソンが次第に人種間戦争が起こると言いだし、黒人と白人が闘い、黒人が勝利するが、黒人には統治能力がないから、マンソン・ファミリーが彼らを指導する、という都合のよい妄想に取りつかれていきます。
 当時キング牧師の穏健な黒人解放運動の対極に、ブラック・パンサーを名乗る過激な黒人テロ集団が暗躍していたのです。

 マンソンは人種間戦争を早く勃発させるために、白人家庭を襲って虐殺し、ブラック・パンサーが使う文句を壁や遺体に書きつけ、世間に反ブラック・パンサー感情を惹起せしめようとします。
 虐殺は連続して何件も起こります。
 ただし、マンソンは直接には手を汚しません。
 すべて信者ともいうべき仲間にやらせるのです。

 この辺り、オウム事件を彷彿とさせますね。
 戦争が起こると予言して、自らの手で戦争が起こるように工作する。

 怖ろしいことに、終身刑で服役中の70代半ばになったマンソンを熱狂的に支持する若者が今も数多くあり、時折残虐な事件を引き起こしているとか。

 ドキュメンタリーのような、ホラーのような不思議な映画でした。
 悪魔崇拝のような儀式を行ったかと思えば自分はキリストだとほのめかしてみたり。
 全編にわたってやたらと野外乱交のシーンがでてきて、辟易しました。
 
 虐殺シーンで、殺される中年白人が、法華信者らしく、南無妙法蓮華経と繰り返しながら殺されるシーンは、なんともやるせないものでした。

 このような人物はある程度の確率でいつの時代にも存在し、その言葉を信じ込む人々も存在することは間違いないようです。

 カルト集団に対する監視は怠りなく、また自分がカルトにはまらないように気を付けなければなりません。

チャールズ・マンソン [DVD]
ジム・バンベッバー
ジェネオン エンタテインメント

  

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