テレビでまるで終末のような惨状を呈す地震や津波、火災の被害を見て、私の心は沈むとともに、いっそ完全に世界を焼き尽くす災害が起こればよいのに、と矛盾した気持ちになる私を観察して、ぞっとしたのでした。
ほろびゆく 炎中(ほなか)の桜 見てしより われの心の修羅 しづまらず
皇室の和歌指南にして現代最高の歌人、岡野弘彦の歌です。
「バグダッド燃ゆ」という歌集に載っています。
イラク戦争の惨劇と、自身が体験した太平洋戦争中の空襲を重ね合わせて、格調高く、的確な言葉で美しく、悲劇を歌い上げています。
ストレートで稚拙ないわゆる反戦歌とは一線を画すものです。
反戦も結構、反核も結構、しかし和歌というものは、あくまでも美しくなくてはなりません。
岡野先生、「サラダ記念日」が流行ったとき、俵万智と比較して論じた評論が現れて、激怒していましたっけ。
それだけ自分の歌に強い自負があったのでしょう。
災害をも浪漫的な芸術に昇華させてしまうその歌心に、感服したのでした。
バグダッド燃ゆ―岡野弘彦歌集 | |
岡野 弘彦 | |
砂子屋書房 |
サラダ記念日―俵万智歌集 | |
俵 万智 | |
河出書房新社 |