ブログ うつと酒と小説な日々

躁うつ病に悩み、酒を飲みながらも、小説を読み、書く、おじさんの日記

月光

2010年10月01日 | 文学

 此の歌即ち是如来の真の形体なり。
 されば一首詠み出でては一体の仏像を造る思ひをなし、一句を思ひ続けては秘密の真言を唱ふるに同じ。
 我此の歌によりて法を得ることあり。
 もしここに至らずして妄(みだ)りに人此の道を学ばば、邪路に入るべし。

 
上記は、「明恵上人伝記」に見られる、西行法師の言葉です。
 歌を詠むことを仏道修行と考え、仏像を彫るごとく歌を詠む、という覚悟のほどが示されていますが、少々カッコつけな感じがしますね。
 
 月を見て 心浮かれし いにしへの 秋にもさらに めぐり逢ひぬる

  独り草庵で月を見ていて、出家前の、月に浮かれた頃を思い出して感慨にふける歌と見えます。
 西行法師らしい感傷が感じられます。

 なにごとも 変はりのみゆく世の中に おなじかげにて すめる月かな

 
こちらも月。
 何事も変化してやまないのに、太古から変わらず美しい光を放つ澄んだ月を賞賛しています。

 ゆくへなく 月に心のすみすみて 果てはいかにか ならむとすらむ

 またまた月。
 こんなに月光に心奪われて、自分はどうなってしまうんだろう、と嘆いています。
 自由奔放な歌で、西行法師以前には見られなかった歌風ですね。

 心なき 身にもあはれは 知られけり 鴫(しぎ)たつ沢の秋の夕暮

 心なき、を、情趣を解さない無粋な私、と読むか、出家して俗事に疎くなった私、と読むかで歌の趣は大分変わってきますね。私は冒頭の西行法師の言葉を信じ、俗事に疎くなった私、を取りたいと思います。
 出家しても、鴫が立つ沢を見ているともののあはれを感じることだ、と喜んでいるのか、嘆いているのか。

 山里は 秋のすゑにぞ 思ひしる 悲しかりけり 木がらしの風

 山里では秋の末になって、木枯らしが悲しいものだと思い知る、と、山里で暮らす人々の悲しみを詠っています。

 今日から10月。秋も本番です。
 西行法師の秋の歌をいくつかピックアップしてみました。
 この人ほど、日本人の心をとらえて離さない歌詠みはいないでしょう。
 どこかセンチメンタルで、奔放。自由ななかに、隠居趣味。
 季節の歌もそうですが、恋の歌も数多く。
 後世の歌人・俳人・詩人・作家等に与えた影響ははかりしれず。

 私が第2作品集「荒ぶる」の表紙に月光を選んだのも、西行法師の影響なしとしません。

西行 (岩波新書)
高橋 英夫
岩波書店
山家集 新訂 (岩波文庫 黄 23-1)
西行,佐佐木 信綱
岩波書店

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障害者権利条約

2010年10月01日 | 社会・政治
 精神障害を発症して、6年半になります。
 最初はうつ病と診断され、次に適応障害、その後躁エピソードが現れて双極性障害に病名が変わりました。
 躁エピソードは九カ月続きましたが、躁を抑えるリーマスという薬がよく効いて、今のところ一回だけで済んでいます。  
 
 しかし躁状態は、自分を神のような万能の人間であると思いこみ、浪費や乱暴を働く怖れのある危険な状態です。
 この時、私は措置入院の危険があったわけです。

 また、うつ状態の時には、役に立たない、この世に必要ない人間だと信じ込み、自殺や自傷の怖れがあり、こちらも危険で、措置入院の可能性があります。
 措置入院は明らかに人権侵害ですが、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律によって、自傷他害の怖れがある場合に限り認められています。
 
 私は幸いにして、通院治療で現在、
寛解の状態にあります。
 双極性障害は高血圧などと同じで、完治はほぼありえないということなので、
寛解状態を維持し続けることが目標になります。
 それでも、この法律があるかぎり措置入院の可能性は、今後とも0ではありません。

 私の知り合いの多くの閉鎖病棟への入院経験者は、とても怖ろしく、ひどい扱いをうけるので、二度と閉鎖病棟に入院したくない、と言います。

 2006年12月、国連で国際人権法に基づき、障害者権利条約が採択されました。
 この条約では、強制入院、強制治療が禁止されています。
 日本では強制入院や強制治療が日常的に行われているためか、この条約を批准していません。
 また、この条約では障害のあるなしに関わらず、すべての人に法的能力がある、と規定しています。
 さらに、障害のあるなしで身体の自由を奪う基準に違いがあってはならない、としています。
 わが国で現在行われている精神保健及び精神障害者福祉に関する法律と明らかに矛盾します。

 2008年、とても人権を保護しているとは思えない中国でさえ、障害者権利条約を批准しました。 
 わが国は先進国であり、自由と民主を標榜する国家なのですから、この条約を早急に批准し、国内法を整備して精神障害者を含む全障害者の人権を守ってもらいたいものだと考えます。
障害者の権利条約でこう変わる Q&A
東 俊裕,東 俊裕,DPI日本会議
解放出版社
障害者の権利条約と日本―概要と展望
長瀬 修,東 俊裕,川島 聡
生活書院
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