Life in America ~JAPAN編

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ある剣道家の末路。

2020-09-16 00:07:01 | ニッポン生活編
すぐご近所に、一人暮らしをしている高齢男性がいるのは知っていた。
つい3年ほど前には防具を抱えてさっそうと近所を歩いているのを見かけたことがあったので、剣道をされる方だとも知っていた。
あとから知ったのだが、Sさんは県の剣道連盟名誉会長にして、徳島県警には教え子も多いS 師範。
剣の道一筋60余年、県の剣道の発展ために尽くしてきた功労者だ。
 
Sさんの家庭の事情はよく知らないが、もう長年家族と離れて一人で暮らしている。
ところが、ここ数年で認知が進み、近所を徘徊して家に戻れなくなったり、パチンコ屋に家の鍵を忘れてきたり、エアコンのリモコンでテレビをつけようとして近所の人を呼んだりして目が離せなくなった。
 
と言っても、独り暮らしの彼を見守っているのは家族ではなく、いつも近所の人たち。
私も散歩の行き帰りにはかならずSさんの家の前を通り、何気に中の様子をうかがうようにしていたし、隣に住む友人も、この酷暑のなか熱中症で倒れてはいまいかと冷房の室外機をいつも気にしていた。
 
ここ数か月でSさんの認知はますますひどくなった。
下着姿で家の前にうずくまって動かなかったり、昼夜問わず奇声を発て壁をどんどんと叩いたり、ブリーダーをしている娘におしつけられたという2匹の犬の散歩もできなくなって、家の中で犬は虫の息。
家からはいつも異臭がし、掃除をしているふうもない。
ゴミ出しもできないから、残飯などを排水溝に捨てるのが常で、それを近所の人たちが始末をしている。
徘徊して警察に保護されるたびに、別居中の奥さんが「保護監督人」として呼び出されてやってきて「なんとかします」とか「本人が施設に入るのが嫌やいうけん」と言いわけをしては、また何もせずに帰ってしまう、その繰り返し。
家族がそういうのなら、と警察もそれ以上は介入しない。
保護する警察官はもちろん、みなSさんを「先生」と呼ぶ教え子ばかりだ。
認知になる前にはせっせと道場への送り迎えをしていた、その人たちが今はもう見向きもしないばかりか、様子を見に来ようともしない。
 
恩師がこんなになって、あなたたちは何とも思わないのか?
それがSさんが教えた”剣の道”なのか?
 
驚くことに、Sさんには別居中の妻のほかに一人の息子と3人の娘がいるという。その誰一人として、彼の面倒を見ようとしない。
警察で勤め上げた人だ、それなりに年金もいただいているにちがいないのだが、すべては”妻”が管理をしており、家賃とほんの少しのお金しか渡していないという。
もちろんSさんはもうお金の使い方すらわかっていない。
冷蔵庫もからっぽ、家族から食べ物もろくに与えられていないのは明らかにわかる。
あたかもSさんがこのまま野垂れ死にするか、交通事故にでも巻き込まれることを待っているかのように・・・。
 
見かねた友人が、警察に呼ばれてやってきた家族をつかまえて、「独りで生活するのは無理ですからどなたか面倒を見てあげてください。これは生命にかかわることです」と言ったところ、「私も仕事で忙しいんです。放っといてください」と返ってきた、と呆気にとられていた。
 
もらうものだけもらって、あとは知らんぷりなのか。
愛情はもうなくとも、人としてのリスペクトは払うべきなのではないのか?
 
聞いているだけで怒りに震える。
 
このままではいつ事故が起こるともわからない。
火事を出して隣家もろとも消失するかもわからない。
なんといっても、警察官として誇り高く生き抜いてきた人間の”尊厳”のかけらすらないことがやりきれない。
 
家族がそのように見捨てたからには、なんとかして事故の起こらぬようにこれまで通り私たちが見守っていくしかない、とご近所でちょうど話していた矢先。
今日になってやっと、Sさんが施設に入所する運びとなった。
あの家族のことだ、どんな施設を探し出したのか、それでSさんが幸せでいられるのかは疑問だ。
ただ、あの崩れ落ちそうな借家で最悪の衛生環境で一人さみしくやることもないまま朽ち果てていよりは安心だ。
 
どうかSさん、少しでも健康で長生きしてください。
あなたにはそうする権利があるのですから。
 
追記)
それにしても腹立つ。
警察は結局、何の役にも立たないし何もしない!
日本の法律ではたとえどんな人間でも「家族」が管理責任を持つ以上警察は介入できない。
欧米では、たとえば児童虐待や高齢者虐待、DVなどの痕跡が認められれば、家族から強制的に引き離すことができる。
そろそろ法律、かえるべきじゃないのか?
さもなくば、今回のような例や独居老人の孤独死はこれからどんどん増えてくると思う。