Life in America ~JAPAN編

I love Jazz, fine cuisine, good wine

シカゴでJam

2012-11-20 17:47:48 | music/festival
最近、鬱々と家にいることが多いので、機会を作り出しては外に出て人に会う、いい音楽を聴くことを心掛けている。
これが唯一の私の心の薬。
最近のお決まりのパターンは、土曜日の夜近所のレストランBar“Morgan's”のJam Sessionで歌うこと。
この店には去年から通うようになったのだけれど、今ではもうすっかり常連さんやミュージシャンにも顔を覚えてもらって仲間に加えてもらい、一人で行っても十分楽しめる。
何よりもここに来ると決めていれば、歌うことを忘れないでいられる。
新しい歌への意欲も湧くし、他の人の歌や演奏を聴いて勉強することも多い。

先週土曜日、いつものようにBarの扉を開けるといつもの人たちがさっそくジャムっていた。
来週から大型ホリデーにはいるせいか、今日はお客さんはちょっと少な目。
前回はシンガーが多すぎて、結局最後まで出番が回ってこなかったけれど、今日は最後のステージの最後にやっとこさホストでピアニストのブルース・オスカーから名前を呼ばれた。
実は今日、自分でも何を歌おうか頭の中で決めていなかった。人の歌を聴いてから判断することも多いからだ。
今日はこれまで結構スタンダードの王道が続いていたので、久しぶりに1曲目は『I Thought About You』。
今夜のベースはシカゴJazz界の重鎮のひとり、ニック・シュナイダー。
彼のリズムは大好きなのでなるべく彼の音だけを聴いてスゥイングすることを考えてあとは成り行きに任せることにした。
1番を歌い終わった後、ニックが私にうんうんとうなずきながら静かに微笑んで「いいよ」という合図を送ってくれた。
彼はうそをつかない人で、たまにシンガーが独りよがりでうたっていると面倒臭そうな顔をする。私もうまくいかないときはこういう顔をされたことがたびたびあったので、彼の笑顔をみたときは正直ほっとした。

2曲目、じゃぁ“Misty”でも、と何も考えずに告げるとニックがいきなりこう言った。
「コール・ポーターも言っているように、歌のセットは必ずノリのいいアップテンポの曲で終えるようにしなさい」
そうか!と納得して急きょ何年かぶりに『On The Sunny Side of The Street』。
昔死ぬほど歌ったこの曲が久しぶりに体のなかにいい具合に入ってきて、自分がノリノリ。お客さんも一斉にダンスフロア―に出て踊りだした。
やっぱりアメリカ人はこういうアップテンポの楽しいのがお好きなようだ。

歌い終わって席に戻ると、85歳のシンガー、“メル・トーメ”リチャードが飛んできていきなり「今日は最高だったよ!」とハグしてくれた。
ニックもブルースも、「今日は楽しかったよありがとう。来週もまた来てね」と手にチューしてくれた。
なんだかうれしい夜だった。


★ ★

翌日曜日。
シカゴ市内での取材帰り、夕方から「シカゴ・ブルース・シリーズ」の第4回目のプログラム、“Diva”キャサリン・デイヴィスのステージを聴きに行く。
大好きなブルース歌手、キャサリンがベッシー・スミス、エラ・フィッツジェラルド、エタ・ジェイムス、ココ・テイラーの代表曲をじっくりと聴かせてくれた。
中でも私の大好きなエタ・ジェイムスの『I'd Rather Go Blind』を聞いたときはもう、涙があふれて止まらんかった。
彼女は声量だけでぐいぐい押してくる、このあたりによくいるブルース歌手とは違って、詞をじっくりと聴かせてくれる貴重な存在。だからよけいにその魂の声がビンビンと響いてくるのだ。



午後9時。
さて。このまま帰ろうか、どうしようか?
それより夜ご飯を食べ損ねたので腹ペコだ。
せっかく日曜日の夜にダウンタウンにいるんだから、ここはいっちょ「Andy's Jazz Club」のジャム・セッションに行ってみようかな。
実は1か月ほど前にもここに立ち寄ったとき、サインアップしたのに最後まで存在を忘れられるという屈辱を味わっていたので、そのリベンジ心もむくむくと湧き上がる。
よし、今日はここで歌って帰ろう。

プロのハウスバンドが演奏する中、カウンター席に座ってビールとベジタブルバーガーで腹ごしらえ。
午後10時半、今夜のJamに参加するミュージシャンたちが次々とステージに呼ばれて演奏が始まる。
ホストを務めるのは、シカゴの第一線で活躍するトランペッター&エデュケーターのPharez Whitted。
ここのJamに参加しているのは、昨夜の“Morgan's”とは正反対でこれからプロを目指そうというミュージシャンの卵たちがほとんど。それだけに皆、真剣そのもので演奏のレベルも超高い。
前回ここで歌っていたセミプロと思しきシンガーのおばちゃんもご機嫌に今夜のシンガー第1号でステージを飾っていた。

そうこうするうちにもう時間は11時半。終電に間に合うためには12時過ぎには出ないといけない。微妙。
今夜もまた歌えずに終わってしまうんだろうか・・・?と半分あきらめていたところにPharezが私の名前をコール。
よっしゃ、今日はいっとこう。
とりあえず昨日うまくいった『I Thought About You』を、今夜は違うアレンジでやらせてもらうことに。
ピアニスト(彼はドラッドヘアーの黒人ピアニストで結構お気に入り)がこの曲を知らなかったので、急きょハウスバンドのプロに交代(残念)。
「初めのテーマはピアノとヴォーカルだけで、ノーテンポでやりたいんですけど」と注文。
ピアニストもそれだけで「了解、今まで何百回もやってるからね。君のやりたいことはわかるよ」と心得たもの。
Aメロ繰り返し部分からドラム、ベースも入り、そのテンポをキープしながらギター、ピアノとソロを回して最後にヴォーカルで締めくくる。
リズムセクションがプロ中のプロだったので、このグルーブときたら最近経験したことがないくらい心地よい!
特に今夜はキャサリンのグルーブする歌声をたっぷり堪能した後だったので、その余韻が体のなかに入っていてそれを一気に吐き出した感じだった。生きた学校みたい。
1曲終わったらもうへとへとになっていた。

もちろん1曲では終わらせてくれず、もう1曲。
昨日言われたセオリーにのっとってアップテンポの歌をと『Honey Suckle Rose』。
アホな私は何故か違うキーを告げてしまい、やり直すという大失態(あほあほ)
気を取り直していつものキーで歌い出したはいいが、歌詞を覚えてるかなーなんて考えながら歌っているとやっぱり飛んだしかも一番肝心なところで・・・・。
まぁ、でもJam Sessionだからいいよね。(←いいわけ
次回は絶対こんなことのないようにしますから。。。

歌い終わってそそくさと帰る用意をしていたらPharezが駆け寄ってきた。
「この間は本当にごめん。もう二度としないよ(←私を覚えていたらしい)。今日はとってもよかったよ。ところで君はどこかで定期的に歌ってるの?」
「郊外で時々歌ってますがシカゴでは初めてです」
「また絶対来てね。待ってるから」

彼はとても腰の低い、いい人だった。
apology accepted

ミシガン通りはもうクリスマスイルミネーション。
シカゴを堪能した夜だった。




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