蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

最も賢い億万長者

2022年01月07日 | 本の感想
最も賢い億万長者(グレゴリー・ザッカーマン ダイヤモンド社)

ジム・シモンズは高名な数学者。数学教育でも顕著な業績を残したが、数学を資金運用に応用しようとヘッジファンドを立ち上げる。大学などにいた優秀な数学者を誘って、商品や株の相場の取引履歴データからアノマニーを発見する手法で長年に渡り驚異的なパフォーマンスを記録する。シモンズとファンドに関わった数学者たちの姿を描く。

シモンズたちの具体的な手法について書いてあるのでは?と期待して読む向きも多いのではないかと思うが、そういった内容は全くなくて、数学者たちの、一見奇矯ともいえる行動を(悪くいうと)面白おかしく描いている。

シモンズたちは新しい手法を開発しようとありとあらゆる資産運用手法に関する学術論文を分析する。しかし、理論的には成立しても実際市場で実践しようとすると様々な制約(注文量が多すぎて約定できない等)やノイズが発生して利益があがらないものばかりだったという。
実際、シモンズたちが開発・改良した方法でも目論見通り取引が完了するのは2回に1回をわずかに超すくらいの頻度でしかないそうだ。

基本的には膨大な過去データから数学的手法でアノマニー(らしきもの)を見つけて(売りと買いを同時に行う)マーケット・ニュートラルな手法で裁定利益をとるようなやり口らしいのだが、精緻な数学的分析による補正が難しくて他のファンドはかなわないらしい。

本書では触れられていないが、シモンズのファンドは比較的短期間で取引を完了させるゆえに実現益が発生してしまうため、莫大な税金を払ってきた。これに対してバフェットのような長期投資家の含み益には課税されないので課税率が低くなり、格差拡大に貢献してしまう(だから含み益に課税すべき)という批判があるそうだ。

ファンドの改善に大きな貢献をした数学者:バーレカンプの生活ぶりを描いた部分と、
2000年代のファンドの幹部のブラウンが子供には巨大資産を持っていることを隠して質素な生活をしていたのに、同じく幹部のマーサーの豪壮な自宅に子供を連れて行ったら、子供に、マーサーはパパと同じ仕事をしているのになんで家がこんなに立派なの?みたいに聞かれた、という部分が面白かった。
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